参上!山のリュウ戦隊!
『山の秩序を守る為!争いの火蓋は消し止める!
さあ!人の子よ!武器を収めて握手を交わすのだ!』
正義の味方として緑レンジャーが指をビシーッと余所者冒険者達にさしています。長く鋭い爪が攻撃的に見えるのに、言っている事は平和そのものです。
「かっ、格好良い!」
指されたリーダー冒険者は両手に持つ剣を震わせて、はわわと感動します。
「な、何よ!?怖くなんて無いんだからね!?」
魔法使い冒険者は内股で震え、両手で握りしめる杖を緑レンジャーに向けます。
「止めなよ。シルフィスだけじゃなくてサラマンダーにリヴァイアサンなんて僕達だけで敵う訳無いでしょ。てか怒らせちゃダメな相手」
小人族冒険者は冷静に魔法使い冒険者の杖を押さえ込みます。
他冒険者達は警戒しながらも武器を収めて後退しました。
「すげー!ちょっと道に迷っただけなのにすげーのに会えた!俺凄くない!?」
リーダー冒険者は仲間の空気も読まずに緑レンジャーに指を向けてはしゃぎます。同意を得ようと後ろを振り返って警戒心なんてまるでありません。
『ふふーん?人の子にしては見る目あるじゃん。良いね気に入ったよ』
けれども大丈夫です。緑レンジャーも悦に入って様々なポージングを決め始めましたからね。
「何を見せられてるんだ」
どうやら一触即発どころか茶番が始まった気配にログは構えていた竿を下ろしました。
三巳も杞憂だった事を悟りちょっぴし恥ずかしく思いながらお座り待機します。
(何とかレンジャーは甥っ子が見てたやつ)
男の子向け番組は見ていませんが、甥っ子のごっこ遊びには付き合った事があります。結構容赦なく紙の剣で叩かれた事を思い出して尻尾を股に潜らせました。
「それで、結局あんたらは迷い込んで警戒して武器構えてただけって事で良いのか」
ログの問いに、後退して様子を伺っていた余所者冒険者が神妙に頷きます。
「ああ。街道を進んでいたんだが、予期せない事態に森に逃げ込んだんだ」
「そしたら進んでも進んでも同じ景色で進むのも戻るのもわからなくなっちゃいました」
本当にただの迷子だったようです。
三巳は状況をちゃんと把握する前に慌てた自分がちょっぴし恥ずかしくなりました。そっぽを向いて鼻を鳴らして誤魔化しています。
「あの。貴方は此処に詳しい人ですか?」
「この山の民だ。ここは篩の森。獣神の結界で守られているから他所の者は迷いやすい」
ログはそう言うと後退している方の余所者冒険者に近寄ります。
三巳も立ち上がってその横を付いて行きました。
レオは同じ位置で様子を伺っています。
「結界……。だから迷ったのか。ここの人なら出方わかるか?」
「勿論。だが今逃げたばかりなら暫く時間を置いてから戻った方が良いだろう」
「でも、良いのか?俺達不法侵入してるみたいなもんだろ」
「さてな。三巳が何も言わんから大丈夫だろう」
「三巳?ってそちらの獣神様ですか?」
急に敬った調子で視線を向けられて、お座りしていた三巳の背がゾワワと寒くなります。あまりの寒さに尻尾どころか全身の毛が膨らんでいます。
『三巳は三巳だよ。働くの嫌ーだから敬うの止めて欲しいんだよ』
そそそとログの背に隠れてニート宣言です。
膨らんだモフモフに隠れられて、余所者冒険者は分かり易く傷付きます。
「す、すみません!でも、なら何とお呼びすれば良いのでしょうか」
『三巳は三巳って呼んで欲しい』
「え゛。……敬称無しで?」
『うぬ』
鼻に皺を寄せて神妙に頷く三巳に、余所者冒険者は円陣を組んで話し合いを始めました。
何を話し合っているのか耳の良い三巳は聞こえています。けれども折角の内緒話を本人が聞くものでは無いでしょう。ですからその間に、知らない間に山の住竜になっていた風竜を見る事にしました。
(シルフィスってシルフと幻竜の子の子孫か)
シルフィスって何だろ?と疑問に思ったら獣神としての知識が教えてくれました。シルフならお友達にもいるので何となくわかります。
(だから風竜なのかー)
その風竜ことシルフィスこと緑レンジャーは、相変わらず余所者リーダーの前でポージングを決めています。更に技まで披露し始めたのでサラちゃんに怒られていました。
『うにゅ。楽しいは正義』
という訳で、勝手に住み着いていた緑レンジャーも正式に山の住竜と認めます。
「分かりまし、分かった。それじゃあ街道に戻れるまで邪魔をするな、三巳」
心の中で緑レンジャーの渾名はシーちゃんに決定させている間に余所者冒険者の覚悟も決まった様です。神の気紛れでやっぱ駄目ー!って言われても受け入れる覚悟です。
勿論そんな内心なんて知らない三巳は、ニコーっと犬歯を見せて笑うと尻尾を振って飛び掛かりました。
いきなり飛び掛かられた余所者冒険者でしたが全く体幹がブレていません。バランスの取れた筋肉と道着っぽい装備から恐らく武闘家なのでしょう。
丈夫そうな体に三巳の遊びたいメーターがはち切れました。
『うにゅー♪一緒に遊ぶんだよ♪』
大きく尻尾をブンブカ振る三巳に、今まで戦々恐々としていた余所者冒険者もやっと一息付けたのでした。




