お帰りの時間です
「レオ―――♪」
真上の太陽が眩しいお昼時、地獄谷で三巳が大きく手を広げてレオをお出迎えしています。
兎の女王の元でひとしきり遊んでから地獄谷に戻った三巳とロダでしたが、レオ達はまだ戻っていなかったのです。
リリとロダとネルビーを残してミナミ達は先に村へ報告に行き、三巳達は地獄谷で夜を越しました。ダンジョンから出たのが深夜遅くになったので、起きたのもレオの気配を感じた今さっきなのです。
「おっと、テンション高えな」
レオの気配で起きれた三巳はハイテンションでレオにしがみ付いています。
レオはそんな三巳を苦笑いで軽く受け止めて頭を撫でてくれます。
「レオ!レオ!んにゅあー!レオー♪」
尻尾をブンブカ振ってレオの匂いをお腹いっぱい吸い込んだ三巳に、レオは
(犬みてえだな)
と思い、
(いや、狼か)
と思い直しました。
そんな三巳を微笑ましく視界に流し、ロダがロウ村長に近寄ります。
「早かったね。まだ数日掛かるかと思った」
「最短で来たからな。大凡の把握は出来たし、今度はソロで挑むぞ」
ニヤリと笑うロウ村長にロダは、
(あ。これ下手したら数日ですまないかも)
と、ロウ村長不在時の代理仕事を今から算段付け始めます。
取り敢えず今回は回収したチームだけでなく、お客さんなレオもいたので一泊で済んだのでしょう。という事は確実に次は長く掛かる事は決定事項だと、山の民一同思いました。
「怪我した人はいるかしら」
ロダの後ろからヒョッコリ顔を出したリリは、手に救急キットを持っています。
「ホロホロも持って来たから大怪我してたら言ってね」
「ありがたい!ちょっとヘマしちゃってさ、この通り全身ボロボロだぜ」
ゾロゾロとダンジョンから出て来た一団の中から全身切り傷と打撲だらけのロンが手を上げました。血は然程出ていなそうですが、痛々しさにリリの顔が曇ります。直ぐにロンに近寄り、楽な姿勢になって貰いました。
「何があったの?」
ロダも気付いて確認します。危険度が高いなら村全域に注意喚起が必要だからです。
「大丈夫、大丈夫。ホント唯の自業自得だから」
「そうそう、ロンってば俺は風になる!とか言って自ら罠に飛び込んで行くんだもんな」
「しかもそれをギリで避けようとするから色んな罠掠めてさ」
次々に明かされる理由に、流石のリリも眉根を寄せました。
「もっと自分を大事にして欲しいわ。ロンには奥さんもお子さんもいるのだから」
「う゛っ」
リリの指摘に周囲からも「そうだぞ」と言わんばかりの視線がロンに刺さります。
それを受けてロンは胸を押さえて呻きました。
「そうだな。悪かった。気を付ける」
殊勝に謝るロンですが、ロンの為人を把握している山の民はジト目になります。どうやらロンの野次馬根性は信用が無さそうです。
「良いわ。ロンの家族には私からよぉく伝えておきます」
「えっ!?ちょっ、それは勘弁してー!」
「だぁめ。ロンってば全然懲りないんだもの。一度みっちり泣かれれば良いんだわ」
容赦の無いリリに狼狽えるロンを見て、山の民達は「ドッ」と笑い声を上げました。
賑やかな笑い声にレオに夢中だった三巳も何だ何だと近寄ります。勿論レオから手は離しません。
しっかり手を握られたレオも苦笑いで大人しく着いて来てくれます。
そしてリリからロンの顛末を聞いた三巳はリリと同じ事を言い、また楽しい笑い声を地獄谷に響かせるのでした。
報告と怪我の治療をし、落ち着いた面々は村に帰って来ました。
帰って早々にロンは奥さんに耳を摘まれて家に連れ去られています。
リリはムフンと伝えたった感満載で満足気に見送り、ロダと診療所へ帰って行きました。
その他の山の民も一旦家に帰ります。
ダンジョンの結果報告は集会で行われる事でしょう。
「うにゅ。今日も楽しかったんだよ」
楽しいは正義な三巳も大満足です。未だにレオから手を離さず迎えに来てくれたクロの元へ駆け寄りました。
「ただいまー!父ちゃんお腹空いた!」
クロの懐に飛び込みつつもレオの手は離さない三巳です。
クロは
(親愛だよね!?恋愛じゃないよね!?)
と内心不安に思いつつも笑顔で三巳を抱き締めました。
「おかえり三巳。それにレオも」
自分も笑顔で迎えられてレオは一瞬瞠目し、直ぐに気の抜けた笑みで
「ただいま」
と返します。
クロは片手で三巳を抱き締めたまま、レオの頭を撫でます。
「お腹空いたろう。帰ったら直ぐ用意するからね」
「やったー♪ご、は、ん♪ご、は、ん♪」
「ふふふ。三巳は何が食べたい?」
「んーとなー。んーとなー。今日はお月見団子の気分!海苔とみたらしで!」
「じゃあ一品はそれにしようね。レオは食べたいものあるかい?」
「は、俺?」
「勿論。君も一緒に食べるのだから遠慮せず言っておくれ。大抵のものは作れるよ」
「父ちゃんの作るごはん何でもうんまいんだよ!」
三巳とクロに促され、まるで家族の一員になったかの様に錯覚したレオは、何ともむず痒い気持ちで
「……肉」
と言うのでした。




