ダンジョン流猛特訓
三巳は今ベソベソに泣いています。
「ちっがーう!そこはこうじゃ!」
「う、うぇうぇぇぅっ」
何故なら魔女神にミッチリ扱かれているからです。体育会系のノリです。
(母ちゃんより怖いんだよっ)
全べそかきながら言われた通りに構えます。
目を閉じて視覚を遮断した状態で、魔女神の攻撃を防ぐのが特訓です。勿論気配読みも禁止です。だって千里眼を開花させる為の特訓ですからね。
そうなると当然の事ですが。
ビシ!バシ!ドカン!
魔女神の攻撃は全て当たります。
「うあぁぁん!」
痛みは対してありませんが、攻撃されている事自体が三巳には怖くて逃げ出したくなります。
(でも残ったチーム探したいっ。から、頑張るんだよ!)
逃げずに踏ん張っているのは、偏に山に住む仲間が大切だからです。だって特に千里眼無くても今までだって不便なんてしていないのですから。
(……レオの声聞こえて来ないかなー)
だから全員集合の合図があれば今直ぐ止めて帰還する所存です。
「ほお?どうやら妾など眼中に置かないほど余裕があるようじゃ」
けれども目敏い魔女神はコメカミを怒らせると、手に持つ鞭を荊の鞭に変えてしまいました。
「みぎゃー!?余裕無い!余裕無いんだよ!?」
「問答無用じゃ―――!」
「みぎゃーん!」
容赦無い魔女神に、三巳は逃げ惑います。
そしてそれをハラハラ見守る宰相は、念の為医者の手配をしました。神とはいえ見た目が少女だと心配が勝つのが人情なのです。
ビシーン!バシーン!
鞭打つ音が宮殿に響きます。
「にゅー!みゅー!」
三巳がミーミー逃げれば魔女神は鞭をしならせ、
「目を開くでないわー!心の目をこじ開けるのじゃー!」
鬼の形相で追い掛けます。
三巳もこのままだと怖いのが続くと必死になります。
「こころのめー!こころのめー!」
今開け、直ぐ開けと叫び逃げ惑うものの、現実は無情です。
開眼なんてそう簡単に出来ません。コロコロの芽がエフェクトの様に出ては花開き、出ては花開きしています。
「逆に凄いな」
宰相が感心する傍らで、魔女神は
「ちっがーう!」
激怒しています。思わず召喚した象の脚で三巳を踏んでしまいました。
「うきゅ」
三巳は象足に乗っかられて空気の漏れる様な鳴き声をあげます。けれども三巳はその程度の事ならめげません。
伊達に母獣の肉球にいつも潰されてはいないのです。寧ろ違った踏まれ具合にちょっぴし「おお」と感激すらしています。
「ぱおーん!」
「象ー!」
そして象らしい鳴き声で怖いのなんて吹き飛びました。今は魔女神より象見たさで心がいっぱいです。
「象っ!象ー!ここにも象っているんだな!見たいー!」
考えたらモンスターはいっぱいいても動物は種類が少ないです。特に大きくて目立つ動物は中々お目に掛かれません。
とはいえ象脚に踏まれた三巳が見えるのは長いお鼻の先っぽ少しです。それでも何とか見ようと尻尾をバッサバッサに振りまくり、
「ぞーうさん♪ぞーうさん♪とーっても見たいのよー♪」
目をキラキラさせて調子っ外れな歌を歌えば何て事でしょう。
「んにゅあー!見える!象がクッキリ丸見えなんだよ!」
今までの苦労が嘘の様に開眼出来たではありませんか。
「えぇー……。妾の立つ瀬はどうなるのじゃ……」
目をキラキラ輝かせてキャッキャ、キャッキャとはしゃぐ三巳に、魔女神も脱力して呆気に取られます。ちょっぴし悔しそうなのは見間違いではないでしょう。
「いいえ、ジーニャが像を召喚したのです。つまりこれはジーニャの教育の賜物でしょう」
踏まれても元気な三巳に安堵した宰相は、意気消沈している魔女神に近寄り恭しく礼をします。
それに魔女神も目をパチクリさせて意味を飲み込む様に「ふむ」と言い、そして元気な三巳を見ました。そうすれば何だかとっても自分が導いた気になって来ます。
「うむ。そうじゃな!妾の力の賜物なのじゃ!」
ニンマリ良い笑みを浮かべると、胸を逸らして大威張りです。
弟子の為に象脚を退かせて良く見える様にしてあげると、三巳は魔女神を振り返り、
「ありがとーなんだよ!」
と元気良くお礼を言ってから象を心行く迄堪能するのでした。




