魔女神王の謁見
「うわあ!凄い!アラブ!」
三巳は今ハイテンションです。
だって憧れのアラブの宮殿の中にいるんです。そりゃ思わず尻尾もブンブカ振っちゃうってものです。
「落ち着いて」
ロダは自分のところに来た尻尾を軽くいなして絡めとります。そしてフワリと撫でれば三巳の尻尾も落ち着きを取り戻しました。
「うぬ。毎度お騒がせしてるんだよ」
「ははっ。三巳は気持ちに正直だもんね。見てるだけで楽しくなるから僕は好きだけど、ここは壺とか多いから」
アラブの宮殿にはガラスの窓がありません。廊下に至っては木窓すらありません。柱と柱の間は直接外に通じていて、その柱の前に壺や花瓶などの割れやすい物が飾られていました。
つまり此処で尻尾を振ると、直接当たらなくても発生した風で大惨事になるかもしれません。
「気を付ける」
三巳も気付いて尻尾を抱き締めました。そうしないと勝手に動き出しそうなんです。
尻尾を抱き締めながら進んだ先は謁見の間です。
そこには細く長いお髭のおじさんこと宰相と、恭しく置かれたティーポットが待っていました。
宰相は兎と挨拶を交わすと、ティーポットに正しい手順で紅茶を淹れます。するとティーポットからフローラルな香りとお花のエフェクトと共に美白が眩しい魔女神が顕れました。
「青くない……」
三巳の魔神のイメージは青一択です。女性である事を除けばイメージ通りの魔神なのに、色が全てを台無しにしています。
三巳は気持ち的にはションモリですがそれを表に出さないように気を付けます。だって折角出て来てくれた魔女神に失礼ですものね。
「良くぞ妾を呼び出した。願い事を3つ叶えてやろう」
「ジーニャ、ワシを差し置いて浮気をする気か」
尊大に胸を張って言う魔女神でしたが、宰相に半眼で睨まれてしまいます。良い年した叔父様なのにちょっと拗ねて見えます。
魔女神は視界に宰相を映すと色を青くして慌てました。
「サイショー!違うのじゃ!これは何と言うかやらねばならぬパフォーマンスなのじゃ!」
アタフタと必死に弁明する姿で、先程までの威厳はガラガラと崩れ去るどころかバーン!と爆散してしまいます。
(今なら見た目はちょっぴしイメージ通りだけど……)
やっぱり何か違うと思う三巳は、現実逃避に遠くを見やります。
ロダは事前に物語を聞いたからこそ三巳の内心を悟り、そっと頭を撫でてあげました。
そんな現実逃避の間にも兎と魔女神の話は終わり、今は山の民の事を聞いています。
「その者と同じ人間のう。さて、妾はティーポットより出れぬ故知らぬ。が、千里眼を使えば見えよう。妾が使うても良いが、獣神殿が見た方が確実じゃろ」
「三巳。千里眼使えないんだよ」
「「「は?」」」
三巳がポケらと耳の裏を掻きながら言うと、魔女神も宰相も兎ですら呆気に取られて間抜けな声を出しました。
「三巳は行動派だもんね」
「「「は―――!?」」」
同意を示すロダに、今度はロダを凝視して声を荒げます。
「神の見透す目など代名詞ではないか!今まで何をしておったのじゃ!?同じ神の名を冠する者として情け無いぞ妾わ!」
激昂する魔女神です。
「見る目が無い神など居ても良いのか?」
オロオロして三巳と魔女神を見比べる宰相です。
「神なんていないんだ」
現実逃避をする兎です。
それ程千里眼は神に有って当たり前な能力だったのです。心なしかダンジョンも「そんなバカな」と衝撃を受けている気さえします。
(んにゅぅ~?何かいけないのか?)
「大地の状態は感じ取れるから不便ないんだよ?」
「感じ取るのと見えるのでは大違いじゃ!」
わからずポカンとしている三巳に、魔女神がドアップで迫りました。下半身はティーポットから動けないので上半身だけ大きくなっています。
非難されている三巳は「そんな事言われても」と言いた気に、口を尖らせ指と指をツンツン合わせました。
「ええい!今から妾が特訓してくれるわ!ついて参れ!」
魔女神の号令に合わせ、宰相がティーポットを台座に乗せて持ちます。
「待っている間は暇だろう。街で聞き込みをしていると良い」
そしてロダにそう告げてから三巳をドナドナ……いえ伴って奥へと消えて行きました。
残されたロダは兎と顔を合わせます。
「ええっと、僕は街に行くけど兎はまだ仕事中でしょ?先に済ませて来る?」
「此処が最後だし、あの調子じゃ魔女神様もまだ行けなさそうだから付き合うさ」
「そっか。じゃあ宜しくね」
「おう」
こうしてロダは兎と宮殿を後にします。外へと向かう途中で、
「みぎゃあん!」
という三巳の鳴き声が聞こえた気がしましたが、兎に背中を押されたので外へと向かいました。
(三巳もハーフとはいえ獣神だし、格としては多分魔女神より上の筈。だから大丈夫……だよね?)
獣神とはいえ三巳なのが不安ですが、三巳だからこそ滅多な事は起きないとも思います。精々がちょっと特訓が地獄過ぎて根を上げる位、かもしれません。
(でも千里眼っていうの使えるようになれば、いざと言う時に便利だし、三巳には頑張って貰いたいな)
外に出たロダは一度宮殿を振り返り、心の中でエールを送って街へと繰り出すのでした。




