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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
346/372

大好きな人と来たい場所

 大楠木の扉を抜けるとそこはお茶会の世界でした。

 ティーテーブルと並べられたお茶やお菓子達、そして紳士な服を着て椅子に座る動物達がいます。


 「お茶とお菓子を貪る日最高」


 被っていたハットを前脚で取り、胸に充てるアライグマ。


 「お茶とお菓子を貪る日に乾杯」


 お茶とお菓子と言いつつチーズを貪るスナネズミ。


 「晴れの日に乾杯」


 太陽に向けてティーカップを掲げて合わせるワオキツネザル。

 そして言った瞬間に土砂降る雨。


 「雨にも乾杯」


 空のティーカップを持ち上げて掲げたのは同じ顔の別のワオキツネザル。


 「きゅう~ん……」


 何か違うと物足りない顔の三巳。


 「……コレ、絶対三巳の影響じゃない?」


 動物が人語を解する非現実な光景に、ロダは冷静に分析をしています。メルヘンは男の子なロダには何も刺さらなかった様です。

 三巳はチラチラと物言いた気に動物達を見ながら横をすり抜けました。突然の局地的豪雨を避ける為に円を描く様に通ります。ロダもその後を続きます。


 「兎見失っちゃったね」

 「わぅぅ」


 お茶会に目を奪われている間に兎は何処にも見当たらなくなってしまいました。

 三巳は定石通りお茶会で聞き込みをしようかと振り返り、カップに溜まった雨水を飲む猿を目撃しました。そして何も見なかったと言わんばかりに前へと駆け出します。


 「三巳わかるの?」


 その後を追うロダは迷いなく三巳について行きます。


 「わう!」


 ロダの質問に元気良く答えた三巳は、一旦止まって地面をクンカクンカと嗅ぎ回ります。そして目当ての匂いを嗅ぎ付けてまた駆け出しました。

 狼の獣神な三巳の鼻に掛かって嗅ぎ取れない兎の匂いは無いのです。


 「追って何処かのチームと当たれば良いけど」


 取り敢えず情報が無いので、ロダは大人しく三巳の後ろをついて行きます。

 時に地面を駆け、時に大きな葉っぱを上に下にとトランポリンにして進んでいます。そうしていると洞窟内だという事を忘れてしまいそうだと、ロダは思い注意して進みました。


 「葉っぱが大きくて三巳を見失いそう」


 一瞬でも視線を逸らせば見失いそうな現状に、ついぼやいてしまいます。本気の三巳の追い駆けっこは油断がならないので戦闘モードが外せません。

 その前を駆ける三巳は目を爛々に輝かせて駆け抜けています。狼か猫の狩猟本能がビンビンに研ぎ澄まされているのです。


 「わっふーん♪」


 お陰で兎は直ぐに見つかりました。

 今は逃げる兎を一心不乱に追い駆けています。

 兎はご機嫌な鳴き声に一度だけ振り返り、三巳を見るなりビョン!と高く跳んで脱兎の如く、いえ、脱兎そのもので逃げ出しました。


 「わっふわっふわっふふー♪」


 しかし相手は獣神です。可笑しな飲み物で仔狼になっていても、ジェット噴射の如く飛び出した三巳には敵いません。


 「うわー!?」


 のっしと両前脚で背中を踏まれて潰された兎は人語で悲鳴を上げました。


 「わふ!?わっわふふー!?」


 三巳は驚きで耳と尻尾をピン!と立て、仔狼になって言葉が上手く伝えられなくなった自分との違いにショックで今度はシオシオシオ〜っと萎れさせてしまいます。


 「きゅーん……」


 (そ言えばさっきのお茶会の動物達も喋ってたんだよ)


 三巳はピスピスと兎の長い耳に鼻を押し付けて哀しみに鳴き崩れ、


 「重い!?」


 前脚で抑えられていたが故にのし掛かられた兎は非難の声を上げています。

 その様子をロダはどうしたものかと考え顎に手を当てました。


 (三巳を抱き上げるとまた逃げるよね)


 「言葉がわかるなら聞きたいんだけど、ここに僕みたいな人族は他にいる?」


 兎を解放するのは得策では無いと判断したロダはそのまま兎に尋ねます。


 「この状況で冷静に聞く!?」


 兎は落ち込三巳を背中に乗せてジタバタもがきます。勿論その程度で動く三巳ではありません。抗議の声だけが虚しく響きました。


 「いや、だって三巳どかしたらまた逃げるでしょ?」

 「追われたらそりゃ逃げるよね!?」


 ど正論で反論されて、ロダは


 「追う前から逃げたよね」


 冷静にツッコミました。

 その言葉に兎は明後日の方を見て「ぷーふすすー♪」と鳴らない口笛で誤魔化します。


 「それで教えてくれる?僕達、仲間のヴィーナの民と合流しないと此処から出られないんだ」

 「そんなの関係ないね。勝手に遭難でもすればー?」

 「うーん。残念だけど遭難する前に三巳かロウ村長辺りがダンジョン突き破って壊して探し出すよ?」


 ロダは正確にロウ村長を見抜いています。

 兎は上で尚も落ち込み……いえ、今は兎のモフモフに癒されて寝息を立てている三巳を見上げます。


 「わきゅーぷすす。わきゅーぴすす」

 「この仔。そんな事するの?」

 「うーん。ウッカリで大岩破壊したり、大木削り切ったりは日常茶飯事だからなぁ。普通にすると思うよ」


 兎は自分の背中のモフモフをモミモミして幸せそうな顔の三巳にドン引きしました。そして破壊神な三巳の魔の脚から逃れようと地面を削る勢いで掻きまくります。勿論全然ビクともしなくて直ぐにガッカリと脱力するのですが。


 「探すの手伝うからさー。この仔どーにかしてくんない?」

 「ありがとう、助かるよ」


 そんな訳で兎は三巳の肉球から助け出されました。

 ロダは抱き上げた三巳仔狼を起こさない様にしっかり支えます。


 「それで何処にいるか知ってるの?」

 「いんや。俺様女王様のお使いで急いでたんだ。すれ違う位はしたかもだけど……うぅーん。やっぱ記憶にないな」

 「え??お仕事中だったの?ゴメン、そうとは知らず。先に君の仕事終わらせよう」

 「良いのかい?」

 「勿論。ヴィーナの民は三巳に鍛えられてるからね。少し合流が遅れても大丈夫。もしかしたら自力でゴールしてる可能性もあるんだし」

 「そうかいそうかい。それじゃあ暫く宜しく頼むよ相棒」


 兎は跳び上がり、ロダの肩を軽快に叩いてウィンクしました。

 ロダは兎の相棒にハニカミます。可愛らしい衣装に可愛らしい相棒。此処にリリがいたならきっととっても喜んだに違いありません。というよりメルヘンな可愛らしいこの衣装は絶対にリリに似合うと断言出来ます。


 「今度一緒に来れるかな」


 今の所楽しい遊び場です。ちょっぴし罠はエゲツないですけど、ヴィーナの民なら特に問題ありません。余裕でリリを守る自信があるからこそ、デートスポットに最適かもしれないと思うのでした。

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