メルヘンなその世界で
三巳とロダはダンジョンの真ん中ルートを大分進みました。
「何時もなら中間辺りだけど、ダンジョンの距離はあてにならないからなぁ」
「うにゅ。でも全然道は変わらなくなってるから子供でも楽しめそうなアトラクションなんだよ」
実際に真ん中ルートは可愛い彫像や彫刻など、一見何処かのお屋敷に紛れ込んだ様に錯覚してしまいます。罠が無ければ何をしに来たのか忘れていた事でしょう。
「罠も逃げる余地や隠れる隙間が沢山有ったし、確かに子供の鍛錬には丁度良さそう」
サラッと言ってのけるロダです。
この場にツッコミが出来る人が居ないのが悔やまれますが、外国でそれを言っていたら奇異の目で見られています。
「その場合の引率は誰が良いかな?」
「うーにゅ。ロダも最近忙しいんだろ?ならミナミは?」
「ミナミか。ロイドと組んでなら喜んでやってくれそうかも」
「ロイドかー。まだ進展しないなー。ロイドはチミっ子の頃から恋愛に関しては手強そうだったけど、ミナミはまた難儀な相手に恋したなー」
「へえ、そうなんだ。僕達が小さい時には頼れるお兄さんだったけど……あぁ、確かに女の子達と遊んでる所あまり見なかったかも」
「だろ?と、新しい場所だ」
あまりに山の民的には平和なダンジョンに、楽しくお喋りしていたら新しいエリアに来ていました。
綺麗に整えられた通路を抜けるとそこは、
「不思議な国!」
ワンダーなランドでした。
大きな大きな楠木に普通の扉が付いていて、その前には時計……いえ魔法陣が描かれた金の板をぶら下げた兎さんがコチラを見ています。
鼻をヒスヒスさせて後脚で上手に立つ何とも愛らしい姿に、でずにー好きの三巳は興奮冷めやりません。
「んはー!凄い!可愛い!追う!」
「え?へ?何?」
尻尾をブンブカ振って、人型なのに4本脚で駆け出した三巳にロダは一瞬付いて行けずにボーゼンとしています。
「あ!待って!」
直ぐに気付いて追い掛けますが、三巳も兎ももう扉の向こうに行ってしまいました。
「ちょっと三巳―――!」
慌てて追いかけたロダも扉を潜り、
「三巳?」
そして戸惑います。何故なら大楠木の扉から中に入ったら、
「わん!」
何という事でしょう。三巳が仔狼になっていたのです!
「三巳どうしたの?」
「わん!」
しかもまるで言葉がわかりません。これでは母獣に鍛えられる前に逆戻りです。
「わんわんわん!」
なのに当の本狼はとっても楽しそうにロダの足元を駆け回っています。
ロダは目を閉じ頭を抱えて緩く振りました。そしてゆっくり目を開けて見て、
「わん!」
変わらない現実に嘆息します。
仕方なく辺りを観察して原因を探る事にしました。
見えるのは、入って来た扉。反対側に立って歩く兎が潜れる程の大きさの扉。真ん中に丸いテーブル。その上に空のビン1つと、空のコップ1つと、虹色の液体が入ったコップ。壁には棚も窓もありません。
ロダはもう一度三巳を見ました。
「これ飲んだ?」
ロダはビンを指差し、空のコップを持って三巳に尋ねます。
「わん!わんわわわん!」
三巳は元気よく飛び跳ね肯定を示すと、次いでテーブルの上に飛び乗って中身の入ったコップをロダに示しました。
「……飲むの?」
「わん!」
「うん。まあ、飲むのは良いんだけどね、残ったチームも探さないと」
「わん!わわっわわん!」
胸を張って前脚で叩く姿は任せろと言わんばかりです。
「えええ……?」
度々我を忘れる三巳にこの状況ではまるで説得力がありません。ロダはどうしようか考えて、けれども確かに残ったチームがこの先にいないとも限らないと腹を括ります。
「よしっ」
気合いを入れ直して一気に謎の虹色を飲み干しました。
空になったコップをテーブルに置くと、ロダの鼓動が不自然に大きくドクン!と鳴ります。チラリと見た三巳が何て事無い顔をしていなければ慌ててしまう所でした。
胸に手を当てて呼吸を整えている間も心臓はドクドクと高鳴っています。そして視界がグニャリと歪むと、
「うわ!?」
体は兎よりも少し大きい程度まで小さくなっていました。
ロダは自分の体を見える範囲で確認します。
「三巳の魔法で小さくなったのよりは大きい、かな。でも服まで変わってる」
一回妖精の世界で小さくなった経験があるロダです。小さくなるだけなら驚きはありません。
けれども着ていた服が大きく変わっていました。ありすな服を男の子仕様に変えた様な服になっていたのです。
リファラやウィンブルドンやロココの服とも違った可愛らしい衣装に、ロダは少し恥ずかしく思います。
だって男の子だもの。可愛いより格好良いのが良いのです。
「わん!」
小さくなった事で体格差が殆ど無い状態で、三巳がグワリと前脚を大きく上げてのしかかって来ました。
「わっ!?」
難なく受け止めはしましたが、喜び溢れている三巳は尻尾をブンブカ振っているのでバランスを取るのは大変です。
「落ち着いて三巳。皆を探すんでしょ」
ロダの言葉に「はっ」とした三巳は直ぐにロダから離れて兎に向き直ります。
すると一部始終を面白そうに見物していた兎は、ビョッと跳ねて反対側にあった兎サイズの扉を潜って行ってしまいました。
「うわっふ!」
その後を「待って」と言わんばかりに吠えて追う三巳を、ロダも追って扉を潜るのでした。




