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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
340/372

伝言ゲームは最後まで届けるのがゴール

 三巳は今、小型本性の姿でダンジョン内を駆けずり回っています。人型より本性の姿の方が本来の力を発揮出来るからです。

 洞窟内にカチャッ、カチャッという音が高速で聞こえては遥か後方へ流れていきます。三巳の獣の爪です。硬い岩肌を爪が突いて掻いて抉っていく音です。

 お陰で三巳の通り道は獣の爪痕がクッキリ残っています。脚跡ならぬ爪跡です。

 ロウ村長とレオは分かれ道で三巳が行っていない道を駆け進んでいます。入り口でグッちんに事情を聞いたので、急遽合流して先行しているチームへの伝言及び必要なら救出する為にコンビを組んだのです。


 「レオが居て助かったな!ワシではモンスターの言葉はわからん!」

 「そりゃどうも。ま、俺もアンタら風に言えばモンスターだからな」

 「うん?そう言えばモンスター達は自分達をなんと呼んでいるのだ?」

 「魔物だ。魔力を内包した生き物。そう言う意味じゃアンタら人族も俺達にとっちゃ魔物の一種なんだがな」

 「ほう。では人族だからと襲う訳ではないのか」

 「そりゃそうだ。俺達は狩りをする生き物だぜ。狩りに適している相手を選んでんだ」

 「成る程。だからワシらを襲うモンスターと襲わないモンスターがおるのか」


 悠長に会話をしている2人ですが、その足は目にも止まらぬ速さで進んでいます。

 レオも人型とは思えない俊敏さで、細かいカーブや細い道を駆け抜けて行きます。


 「お、いたな」


 そのままカーブを抜けた所で一チーム発見しました。

 比較的浅い位置で一塊りになっていたチームに、速度を落として近付きます。


 「げ。もう追いつかれた」

 「ほらぁ、だからお茶してる余裕なんて無いって言ったのに」


 猛スピードで近寄るロウ村長に、お茶休憩でまったりしていたチームが立ち上がります。今更急いだ所でロウ村長は振り切れませんからね。ゆったりとお茶を片付け始めます。

 ロウ村長はそんなチームの無事を確認して頷くと、


 「ワシにもいっぱいくれ」


 とお茶を要求しました。

 お茶の片付けをしていた山の民は苦笑して頷き、未使用のコップに注ぎました。何故かロウ村長と一緒のレオを不思議に思いつつも、レオの分も入れて渡します。


 「何かあったのか?」

 「おお、三巳からの伝言だ。このダンジョンは短時間で変化していく迷宮らしいぞ」


 勢い良くゴッキュゴッキュとお茶を飲み干したロウ村長が何でもないことの様に三巳の伝言を伝えました。

 しかしロウ村長に聞いた山の民は首を傾げます。


 「?ダンジョンってのはそもそも迷宮じゃないのか?」


 山には今までダンジョンが無かったので知識がなかったのです。らしいと言われても他を知らないのでそれで何か困るのかわかりません。


 「昨日の今日で変化は流石に早すぎる」


 ロウ村長は冒険者時代にダンジョンを経験していました。それに冒険者仲間からその手の噂話も多かったのです。

 けれども刻一刻と変化を続けるダンジョンは経験も聞いた事もありませんでした。

 渋い顔で言うロウ村長は、けれども珍しいタイプのダンジョンにワクワクが隠せていません。


 「とは言えワシ等は山で鍛えている。その程度なら知ってさえいれば脅威ではあるまい!」


 ガッハッハ!と大口を開けて笑うロウ村長に、山の民達も顔を合わせてコクコク頷きます。


 「ま、そうだよな」

 「山の民の底力、ダンジョンに見せつけてやろうぜ!」


 手の平に拳を打ち付けたり、指を鳴らしたりしてニヤリとダンジョンの奥を見やりました。若干座った目の者もいますが、皆楽しそうです。


 「ははっ、こりゃ頼もしい限りだぜ」


 レオも初めてのダンジョンなのです。初体験で世界でも例の無いダンジョンのタイプに、楽しみな気持ちは一緒でした。

 相手にとって不足は無い!です。

 レオも奥へと続く道を視線で追います。そしてロウ村長が駆け出すのと同時に一斉に奥へと向かいました。

 駆けながら隣を走る山の民がレオをチラ見します。


 「レオはライオーガの姿のが楽なんじゃないか?」


 問い掛けにレオは一度だけ視線をやって直ぐに前へ戻しました。余所見走行危険だからです。


 「いや、グランじゃいつもこの姿だからな。それに育ての親に鍛えられてるから然程違いはねえんだ」

 「へえ!そりゃ凄い人に育てられたんだな!」

 「ああ。まあ、な。あのひとは本当にスパルタだった」


 言いながらレオはもう随分と会っていない育ての親を思い浮かべます。その姿はとっても良い笑顔でレオを鍛え上げてる姿でした。


 (ロウの豪快に笑って先を行く姿勢、似てるかもな)


 そんな事を思いロウ村長を見ると、丁度何かに気付いて速度を調整する所でした。


 「む。分かれ道だが」


 話してる間にも次の分岐点がやって来ていたのです。

 けれどもロウ村長は眉を顰めています。三巳の通っていない道を来たのでどちらにも山の民がいる可能性があるのです。


 「どっちに行く?」

 「この人数なら手分けするのも手だぜ?」


 騒つく山の民に、しかしロウ村長は待ったの声を上げました。


 「いや、ダンジョン慣れしていない者は別れない方が良い。二重遭難の危険性がある」


 そうは思いますが、その可能性は限りなく低いでしょう。

 何故なら三巳も参加しているからです。

 では何故止めたかと言うと。


 「折角だからな!ワシがミッチリとダンジョン講座をしよう!」


 折角の滅多に無い機会を棒に振るロウ村長では無かったからなのでした。


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