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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
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釣りっ釣りー♪

 「釣りっ釣りー♪」


 今日も三巳は朝からご機嫌に尻尾を振ります。

 ダム湖が出来た後、様々な水棲生物が住み着きました。

 最近は暇さえあれば釣りに行く人達が続出です。

 三巳も例に漏れず、流行りに乗るつもりです。


 「ログ来ったぞー、釣り教えてくれー」


 ピョコンと顔を出したのは山の民1番の釣りの名手の家です。


 「よく来た。

 釣り道具は三巳用に作ってあるが、自分で作りたくなったらいつでも教えちゃる。

 今日は直ぐ出発だ」


 家から顔を出したのは如何にも海の男といった感じの男性です。海なんて近くにありませんが。


 「おー、釣り師の朝は早いって世界共通なんだなー」


 感心してポツリと漏らした言葉はログには聞こえなかった様です。

 2人分の釣り道具の内、小さい方を三巳に渡すとサッサと家を出て行きます。


 「何をボーとしてる?早よ来んかい」

 「おお、すまんすまんー」


 危うく海の男の背中を見送りそうになっていた三巳は、慌ててログの横まで駆け寄りました。


 「うーむ、不思議とつい見送りたくなる背中だなー」


 ログの背中をチラッと見て、面白そうにカラカラ笑って呟きます。


 「何か言ったか?」

 「はは、なんでもなーい♪」


 よく聞こえなかったログは振り向いて三巳に尋ねました。

 照れ臭くなった三巳は笑って誤魔化します。


 「それよか、他の釣り仲間って誰来んのー?」

 「ロンとロジンだ」

 「おお、ロンもう体治ったのかー」

 「いや、まだ治っていないが来るらしい」

 「おー、大丈夫なのかー?それ」

 「知らん。自己責任でいいだろう」


 なんとも言えない顔で歩く三巳と対照的に、ログは漢らしい顔をしれっとさせて歩いて行きます。


 「お、来た来た。さ、行こう」


 待ち合わせ場所には2人共先に来て待っていました。


 「ロン!体動かして大丈夫なのか?」


 ロンの姿を見た三巳は、心配そうに駆け寄りました。


 「ああ、心配掛けたね。

 釣りをする分には問題ないよ。

 寧ろずっと動けなかったから運動不足の方が心配だよ」


 ロンは見上げる三巳の頭を優しく撫でて、おどけた風に笑います。

 三巳は耳を撫でられるに任せて気持ち良さそうに目を瞑りました。

 安堵で緩む顔で「そっかー、良かったー」と言って、尻尾を揺らしています。


 「ふん、まあ無理はするなってこった」

 「お前さんは若さを過信するきらいがあるからな」


 三巳と違ってログとロジンは辛辣です。

 それでもニヤリと笑っているので軽口である事がわかります。

 ロンの元気な姿に嬉しくなった三巳は元気よく先頭を歩き出しました。


 「釣りっ釣りー♪

 皆んなで一緒に楽しーなー♪」


 相変わらず調子っ外れな歌を歌ってご機嫌です。


 ダム湖に着くと先客が其処彼処にいました。

 

 「にゃははー、皆んな好きねー」


 先客達に手を振って、ログに従って絶好のスポットに位置付きました。


 「俺たちゃミミズやら使うが三巳はどうする」

 「んー、生き物は可哀そーだから練り餌使うー」


 ログの問いに首をふるふると横に振って答えます。

 前世でも生き餌なんて触った事もありません。

 想像するだけで痛そうで、自分が痛みを感じるように「いー」となってしまいます。


 「そう言うと思ったからな。ほれ、これを使え」


 ログが寄越してくれたのは、三巳用に開発した練り餌です。

 山の民達は逞しく、女子供でも生き餌を使うので、練り餌は知識でしか存在しなかったのです。


 「ありがとー。

 ……これでいーのか?」


 早速付けてみてログに見せます。


 「これだと餌だけ喰われて終わっちまう。

 こうすると良い」


 ログが魚が針に食いつく様に調整してくれました。


 「よーし……どうやんだ?」


 竿を持って意気込んだものの、竿の振り方を知らない三巳でした。

 竿を握っただけの間抜けな格好でログに振り返ります。


 「こうして、こう、だ」


 ログは三巳の背後から三巳が持つ手を覆い、三巳の手事竿を振りました。

 糸は見事ダム湖の中程に飛んでいきます。


 「おー!」


 見事な手腕に三巳は歓声を上げました。

 後は魚が食いついてくるまで待ての姿勢です。

 三巳は竿を持ったままその場にストンと座りました。

 周りでは釣り名人や釣りバカ達が技を駆使して釣り上げていきます。

 三巳にはそんな技など持ち合わせがないので、マイペースで待ての姿勢です。

 時折吹く心地よい風が頬を撫でていきます。

 三巳はこのゆるりとした落ち着いた空気も大好きです。尻尾をそよそよ動かしてたまに欠伸を掻いています。

 コクンと船を漕ぎ始めた時、三巳の竿がクンっと動きました。


 「およ?」


 三巳は間抜けな声を出して入りかけた夢から帰ってきました。


 「まだ引くな。もっと大きくしなってからだ」

 「お、おー」


 ログに言われて竿の先を見ながら待ての姿勢を維持します。

 じっと待ちます。


 ク、クン!


 「まだだ」


 さっきより大きく引きましたがまだGOサインが出ません。


 ク、ク、ククン!


 「もう少し」


 ググン!


 「今だ!引け!」

 「おー!」


 竿の先が折れるのではないかというくらいしなって漸くGOサインが出ました。

 三巳は勢い良く竿を引きました。

 勢い良すぎて魚との攻防戦をする前に、魚は天高く上がりました。


 「「「お―――……」」」


 あまりの光景に釣りバカ達は間抜けな顔で口を開けてポカーンとしました。


 「いや、まあ、三巳だしな」

 「ああ、まあ、三巳だよな」

 「糸が切れないのも三巳だからで済むのか……?」


 釣りバカ達の何とも言えない空気なんてどこ吹く風。三巳は初めて釣った魚に大興奮です。


 「釣れた釣れたー!」


 魚を両手で掲げて、ピョンピョン跳ねて喜びます。

 三巳が釣ったのは全長50cm位のニジマスです。出来たばかりのダム湖では大物の部類です。

 釣りバカ達は何か言いたそうにしていましたが、諦めて脱力して自分の釣りに戻りました。


 「塩焼きにして食べたい!」


 三巳が盛大に鳴らした「グウ」と言うお腹の音に、つられて自分達のお腹をさすります。


 「メシにするか……」


 三巳に釣られた三人は早々に釣り具をしまいました。

 釣った魚は棒に刺して焚き木で炙ります。

 数匹は残して持ち帰ります。でないとお家で待っている奥さんが怖いですもんね。


 「これは焼けてる」


 焼けたニジマスを受け取った三巳は「ふーふー」してからガブリ。勢いよく食べました。


 「んまーい!」


 目をキラキラさせてあっという間に食べきってしまいました。


 「初めて自分で釣った魚は美味いなー」


 ニジマスが美味しかったので、三巳は釣りが大好きになりましたとさ。

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