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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
339/372

レオにおもてなしをするんだよっ

 「皆集まったな!ではこれより"レオ歓迎!ダンジョン探索で誰が初めに地獄谷へ辿り着けるかゲーム"を開始する!各出場チームは村の入り口から一斉にスタートとする!ワシと三巳とレオは百数えてから出るから抜かれぬ様にな!ガッハッハ!」


 小鳥もモンスターの鳥も囀る山の朝です。

 村の広場ではロウ村長が高らかにレオの歓迎会の始まりを宣言していました。


 「昨日の夕方に突貫で考えたにしては楽しそうな企画だな」

 「回って来た回覧板も賑やかに描かれていてワクワクしたわ」


 宣言を聞いている山の民達も山始まって以来のダンジョンにワクワクが隠せません。あまりに大人が楽しそうなので、参加したがる子供達が増えて宥めるのに苦労した位です。


 「いっその事オリンピック種目にしたかったんだがな。流石に完走日数が読めないから断念した」


 とっても残念そうに言うのは宣言台から降りて来たロウ村長です。

 今から参加者を入り口まで先導するので背後にゾロゾロと引き連れています。

 三巳と今回の主役のレオは最後尾でついて行きます。


 「レオ後発になっちゃったけど、良かったのか?」

 「まあ、人族相手にハンデは必要だろうよ。それよかロウ村長は凄えのな。本当に人族か?」


 ロウ村長の強さを感じ取っているレオがニヤリとしています。相手にとって不足は無さそうです。


 「んにゅ?ロウ村長って凄いのか?昔からあの位の人達は山には居たんだよ」

 「……それ、外の基準にすんなよ。確か冒険者ギルドでもあのクラスは全世界でも一握りだった筈だぜ」

 「ええ!?そうなん!?でもでもっ、オーウェンギルド長もロウ村長位(つお)いんだよっ」

 「そうなのか?俺はまだ会ってねえけど、それなら会っておきてえな」

 「うにゅっ。今日はダンジョン発生だから事務仕事がどーとか大変そうだったから、落ち着いた頃紹介するなっ」

 「おう。楽しみにしてるぜ」


 話している間に村の入り口に着きました。

 予め数人で組まれたチームが所持している武具や防具、それに道具や役割分担の確認をしています。そして確認が終わったチームから入り口に引いた白い線の前に並んでいきます。


 「皆準備は良いな!では探索開始!」


 参加者が全員線の前に並んだ所でロウ村長が柏手を大きく打ち鳴らして合図を出しました。

 パァン!のパの字で一斉に駆け出したチームは皆一応に童心に返った顔で輝いています。

 三巳はロウ村長とレオと共に入り口に残って彼等を見送っています。一般より強い山の民達ですが、それでも神族の三巳と神族に育てられたモンスター外の強さのレオは勿論。人外な強さのロウ村長よりは流石に()()()のですから、公正をきす為のハンデです。

 残った三巳はゆっくりと100まで数え初めました。村の入り口から間延びした声で、


 「いーち。にーい。さーん」


 と響きます。

 先に出発したチームはその声から早く遠ざかる様に足を急がせました。


 「……きゅーじゅーはーち。きゅーじゅーくー。ひゃ―――くっ!」


 数えるリズムを取る様に踵を上げては下ろしていた三巳がピタリと止まりました。三巳の番がやって来たのです。

 三巳は瞳孔を縦に伸ばして尻尾を大きく一回振りました。その口元は犬歯を剥き出しにしてニヤリとしています。


 「三巳の番」


 遠く先を行っているだろうチームと、ダンジョンに思いを馳せて見やります。そしてクルリと上体を捻ってレオとロウ村長を見ました。


 「ホントに三巳先で良いのか?レオもロウ村長も後からで三巳に勝てる?」

 「ガッハッハ!ワシは若い頃冒険者としてダンジョンも経験済みだ!未経験の三巳より分があるぞ!」

 「にゃるほどー。レオは?」

 「ん?俺は、まあ。公平な勝負したいからな」


 そう言ってレオがチラリと見やるのはロウ村長です。

 如何やら男同士の勝負が知らず知らずの内に勃発していた様です。

 三巳はうむと頷くと


 「そうかー。そんじゃお先に行って来るなんだよ!」


 と言って颯爽とダンジョンへ向かって駆け出しました。

 住み慣れた元寝ぐらを抜けて中に入ると、凹凸に引っ込んでいる壁から熊の手が手招きしているのが見えて来ます。チラリと覗く片目と耳はグッちんに他なりません。

 三巳は周囲に人が居ないのを見てサササッと駆け寄ります。


 「どしたん?グッちん」

 『如何したはこっちのセリフだ。昨日の今日でゾロゾロ奥へ通って行って何なんだ』

 「ん?今レオの歓迎ダンジョン探索勝負中なんだよ」

 『また、わけのわからん事を……。まあ良い、俺は出てて良いのか?』

 「そりゃ勿論。ここがグッちんの巣なの皆知ってるぞ。三巳が話したし。ていうか挨拶されなかったん?」

 『……隠れてたのに視線が合って手ぇ振られた』

 「うにゅ。挨拶大事」

 『そうか……。もう何も聞く気なくなったわ……』


 脱力したグッちんとは直ぐに別れて奥へ急ぎます。

 いずれきっと多分グッちんがダンジョン入り口の受付になってくれるかもしれないと思いつつも急ぎます。

 だって足踏みしてたら直ぐにレオとロウ村長に抜かれそうなんです。


 「えっと、昨日はこの先で二又に別れてたのの右行ったから、今日は左に……増えてる!?」


 昨日のアドバンテージを活かそうとニシシと笑っていた三巳は、目の前に広がる三又の道にビックリ仰天飛び上がりました。

 更に変化する発想が無かった三巳は混乱して目を回します。


 「にゅ。にゅあ。にゅおおおおっ」


 そのまま頽れて膝を突いてしまいました。


 「摩訶不思議!楽しいけど!面白(おもし)いけど!昨日の今!」


 これは悠長に探索している場合ではありません。変化が刻一刻と起こっているならば、山の民達が危険です。

 今回の参加者は腕に覚えのある人達だけですが、万が一を常に考えて行動するのが山の鉄則です。

 急遽三巳はグッちんにロウ村長とレオへの伝言を頼み、独りダンジョン伝言探索ゲームへシフトチェンジを余儀なくされたのでした。

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