洞窟案内
大好きな大好きなレオが三巳を訪ねて来ました。
三巳は大張り切りで山を案内中です。
『そいでな、ここがチロチロのいる川。両側が高い崖の所とここみたくそうでも無い所とあるけど、何処も深さはえげつないんだよ』
本性の姿でワフワフ鼻息荒く元気満タンです。
レオも説明される度に『そうか』等、相槌を打ってくれるのでヤル気は増すばかりです。
三巳はチロチロを紹介しようと川に顔を突っ込んで川底を探します。けれどもチロチロは見当たりません。
『うぬぅ?何時もこの辺にいるのに。今日はお出掛けしてるみたいなんだよ』
ザバリと川から顔を上げてプルプル振ります。振る度に水飛沫が飛び散っています。
『ま、そんな日もあるさ』
レオは水飛沫を一歩下がって避けてから、残念そうな三巳の頭をポンと叩いて慰めてくれました。
三巳も梅雨だしそんな気分の時もあるだろうと納得し、気を取り直して案内を続けます。
『此処は三巳の昔の巣なんだよ。今は母ちゃんと父ちゃんがいるから村外れの家に住んでるけど。此処も良い洞窟だった。この先にも見所あるけど、うーにゅ。外とどっち先案内しようか。妖精の世界とかいっぱいいっぱい案内したいんだよ』
洞窟の奥と外を何度も見て悩みだす三巳に、レオはヤレヤレと思って額同士をコツンと合わせます。
『焦る必要なんてねぇさ。オレは暫くいるんだからな』
『んにゅふぁっ!?』
至近距離で合う目に三巳はドキンコと心臓が跳ね上がりました。そして毛並みを赤く染めてブンブカ頷きます。
『うにゅ!うにゅ!それじゃ今日はこのまま洞窟案内するんだよっ』
目を若干回しつつも平常心を装う三巳が洞窟の奥へと進んで行きます。
レオはその姿を見て、
『ふはっ。器用な奴だな』
と呟きます。
だって三巳ってば獣の姿なのに右前脚と右後脚を一緒に前に出していたのです。
その器用な歩き方に気付かないまま奥へと進めば見知った姿が顔を出しました。
『よう獣神。結婚の挨拶かよ』
熊型モンスターのグッちんです。
前脚を上げて挨拶をする姿からはレオに対する忌避感は有りません。寧ろ少し面白そうに観察しています。
レオは自分が割と恐れられている方のモンスターの自覚があるので、グッちんの余裕振りに片眉を上げてニヤリと笑いました。
『へえ。三巳の山だから優男が多いと思ったんだがな。中々良い面構えの奴がいるもんだ』
『へっ。確かに此処は比較的平和な山だがな。生きていく以上狩りは必要なんだぜ』
グッちんの言葉にレオも確かにそうだと思います。
『確かに三巳は甘っチョロい割りにゃ、食いもんに関しちゃシビア、だよな』
『そんなんだよな。まあ、そうじゃなきゃ俺達みたいな肉食の獣は山にゃ住めなかったんだけどよ』
初対面なのに何故か意気投合している2頭に、三巳は何度も顔を見比べてから嬉しそうに相合を崩しました。
(仲良しになってくれて嬉しいんだよ)
三巳の気持ちは尻尾に伝染します。直結で、速やかにです。
『『…』』
つまりそれを見たレオとグッちんは照れてしまった訳ですが、三巳が嬉しそうだからまあ良いかの精神で黙ってしまったのです。
『んにゅ?』
勿論わかっていない三巳は急に黙った2頭に首を傾げます。
『まあ。結婚の挨拶ってよりかは保護者の紹介ってのが妥当か』
頭をポリポリ掻くグッちんに、レオも微笑み返します。
『ま。そんな所さ』
『??何の話かわかんないけど……。レオは三巳が一等大好きな存在なんだよ!レオはかっちょいくてな!そんでなっ』
『あー。話したい事が多いのはわかったけどよ、折角遊びに来てくれてんだろ。話より色々連れてってやれよ。俺とはいつでも話せんだからよ』
グッちんは三巳のレオ自慢話が長くなりそうな事を正確に悟りました。話の途中でもバッサリ切って三巳の背中を押して進ませます。
三巳は話の腰を折られてもさして気にせず、寧ろ「そうだった!」と目を見開いて気付きます。
『うにゅ!今度レオの話いっぱいするな!』
という訳でグッちんに手を振ってさよならします。
グッちんの方は
(忘れてくれて良いんだがな。いや忘れろ)
とか思っていますが勿論三巳は知りません。
きっとレオが帰った辺りで寂しさ紛れに話に来る事でしょう。
レオはレオで
(何でこんなに好かれてんのかね)
とか思っていますが勿論三巳は知りません。
誰が何と言おうと好きなものは好きなのです。
『レオっ、こっち行くとな、凄い泉があるんだよ』
散歩にはしゃぐワンコが如く、三巳はワフワフと尻尾を振って先導します。
レオはその後を追いつつ洞窟を観察しています。ジャングルには無いタイプの洞窟が珍しいみたいです。
(へえ。流石活火山だけある、てことか。火山エネルギーが満ちてるな)
そうです。ジャングルは水源は沢山有るけれど火山は無いのです。獅子の大きな肉球脚にジワジワと感じる地熱も心地良いです。
『三巳』
しかしだからこそレオは気になる事が出来たので三巳を呼びました。
洞窟内だというのに器用に4本脚スキップをしていた三巳は、着地した姿勢でレオに振り返ります。
『なーに?』
呼ばれたのが嬉しいのか目がキラキラしています。
瞬いキラキラがレオの顔面をビシシと直撃し、レオは思わず短く小さく呻いて目を瞑りました。とはいえ一瞬で平常心に戻ったレオは何食わぬ顔で続けるのですが。
『この先はグランの夏より熱くなるんじゃないか?』
『んにゅ』
それに即答で頷く三巳に、レオはやっぱりなと思います。
『三巳は熱いの苦手だろ』
『ん。普通の生き物は生きてられない位熱い。だから流石にこの先は魔法でクーラー付けるから安心してなー』
レオはクーラーが何かは知りませんが涼しくする魔法を使うことだけは察し、安心するのでした。




