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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
332/372

いらっしゃいなんだよ!

 シトシト、シトシト。今日も今日とて雨模様です。

 こんなに連日雨が降られると、普段嗅ぎ慣れた匂いも雨に流されてしまいます。


 「うーにゅ。雨の匂いしかわからん」


 尻尾と耳を覆う三巳専用雨合羽に身を包み、三巳は村を散策しながら鼻をヒクつかせています。


 「へぶちょっ!」


 時折り雨を吸い込みクシャミもしています。

 でも最近何だかソワソワしているんです。雨合羽に隠れた尻尾もいつもより毛艶良くご機嫌に振れています。


 「なんなんだろ」


 指で鼻を拭いながら空を見上げます。

 パタパタ。ポタリ。と顔に当たる雨が気持ち良いです。

 わからないけれど、今日はとっても良い事が起きそうな予感がしています。

 パシャパシャパシャンと水溜りを撥ねさせて、三巳はドキドキする鼓動を感じながら村を出ます。

 急かされる気持ちを感じながら本能に従い動く足。前へ前へと進む先は中心山を越え、大きな川を越え、囲み山の頂上へと行く毎に速度はドンドン早まっていきます。

 まろぶ様に駆け抜けた先は篩の森です。


 「う、うあうあーっっ。何。あー!落ち着かないんだよ!?」


 訳も分からず駆け抜けて、とうとう篩の森の出口まで来てしまいました。

 森全体が雨の匂いに包まれる中、三巳の忙しなく動く耳が雨音以外を聞き取ります。

 三巳はそれに「はっ」として良く聞こうと耳を研ぎ澄ませます。

 そうすれば聞こえて来るのは足音です。それも人の足音ではありません。蹄の音でもありません。

 三巳と同じ肉球を持つ物の足音です。

 三巳はその力強い足音に聞き覚えがありました。

 とってもとっても大好きなモンスター(ひと)の足音です。


 「ま、まさか……!そんな!でもこれは!」


 ドキドキ。ワクワク。ソワソワ。

 三巳の毛という毛が興奮で膨らみ、尻尾が落ち着きなく動きます。

 まさかまさかと思いつつ待っていると、遠く木々の向こうの向こうで見知った影が見えて来ました。


 「あ、あ、あ―――!!」


 見えた途端に三巳は駆け出します。

 服が破れるのも厭わずに駆けながら小型化した本性の姿に戻りました。そしてそのままの勢いのまま、見知った影こと、


 『おっと』


 ライオーガのレオに真正面から体当たりしに行きました。

 森の中にも関わらず神速で来た三巳の勢いを、レオは難なく受け止めてくれます。


 『レオ!レオだ!レオ?レオだ!?レオがいるんだよ!?』


 三巳は顔をグリグリ擦り合わせ、大好きな匂いをクンカクンカ嗅んで確かめ、目を大きくして顔を良く見て、何より尻尾をはち切れんばかりに振りまくります。

 レオはそれを全て甘んじて受けて苦笑します。


 『相変わらず元気だな』

 『んにゅあ―――!レオが山にいる!!』


 上限突破気味に感極まった三巳の雄叫びが山に響きました。

 4本脚で器用にピョンコピョンコと飛び回り始めた三巳ですが、


 『落ち着けって』


 レオの前脚で頭を抑えられて止まります。


 『レオ。ジャングルは大丈夫だいじょぶなのか?』


 喜色満面で、でもちゃんとジャングルを心配する三巳です。最も大丈夫で無くとも折角来たレオを帰すなんて出来っこありません。それ程三巳はレオが大好きなのです。


 『ああ。年神様が守って下さってるからな。てか、その年神様が新年のお礼に行って来いってよ』

 『じっちゃ!ありがとなんだよ!』


 三巳は嬉しくて後ろ脚だけでピョンコピョンコ飛び跳ねます。レオに頭を抑えられたままなので前脚はステイのままです。


 『レオ!山を案内するんだよ!』


 レオの前脚から脱した三巳は、その場でクルクル回ってレオを誘います。

 レオも口元を笑みの形にすると、篩の森の奥へと視線を向けました。そして森に掛かっている守護の力に目を細めます。


 『良く、守ってんな』


 今は母獣の力も混じっていますが、元々の三巳の力も凄いものだとレオは見抜いています。


 『んぬ?三巳はこあいの来んなー!ってしただけなんだよ』

 『ふはっ!それでこの結界か!凄えもんだな』


 とても凄い力の筈なのに、その成り立ちが情け無くてレオも思わず吹き出します。そして今の自分にこれ程の結界が作れるのかと考えます。

 勿論神族の力に匹敵するなら、それこそ物語に出て来る様な魔王にでも成らねばならないでしょう。

 それでもレオは、大切な妹分を守れる存在位には成りたいと思うのでした。


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