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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
330/372

風邪っぴき

 近頃山では寒暖差の激しい日が続いています。


 「げほっ!ごほごほっ!」


 暑いのに慣れる前に寒い日が来て、寒いのに慣れる前に暑い日が来て。お陰で体調を崩す人が出ました。

 その殆どがリファラから来た人達です。


 「大丈夫か?ディオ」


 心配そうに顔を覗かせるのはロハスです。

 風邪を拗らせて学校を休んだディオのお見舞いに来ています。


 「う、ごほごほっ!あ゛ー……大丈夫……げほん!くない……」


 いつも元気なディオが額に濡れタオルを置いて布団に齧り付いています。顔は赤くて熱があるのが丸わかりです。


 「全然大丈夫くないな。コレ、人参ジュース貰って来たから飲みなよ。三巳姉曰く、コレ飲めば直ぐ良くなるってさ」


 今まで無かった山での風邪の流行に、三巳もてんやわんやです。自身も転生してから風邪なんて引いて来なかったので、記憶の淵から風邪を引いた時の対処法を検索するのに時間が掛かっています。

 その中から思い出したのが人参ジュースです。

 すり下ろした人参とリンゴと牛乳をミキサーに掛けるだけの簡単ジュースです。お好みによりバナナやキウイなどを入れてお召し上がりくださいのやつです。


 「うえ、人参……しかもすり下ろしたの入ってる……」


 見ただけで飲む気が失せるのか、ディオは鼻まで布団に隠れました。


 「あれ?ディオ人参嫌いだっけ?」


 首を傾げるロハスに、ディオはバツが悪そうに顔を出します。


 「嫌いじゃない。苦手なだけ」


 それは嫌いとどう違うのかとロハスは思いましたが、口にしませんでした。ロハスも日々成長しているのです。空気を読む所は読むのです。


 「でも普段は食べてるじゃん」

 「……ロハスは何でも食うだろ」

 「うん?まあ、この村じゃ好き嫌いある人のが珍しいぞ」


 山の民は三巳の影響か何でも美味しく頂きます。何なら三巳が苦手の物も美味しく頂きます。


 「皆食ってるのに、食わなきゃ格好悪いじゃん……」


 ディオは視線を逸らして蚊の鳴くような声で言います。

 ロハスは目をパチクリさせてディオを凝視しました。


 「それで何が格好付くのか知らないけどさ、食わないより食った方が強くなる気はするよな」


 ニカリと笑って人参ジュースを差し出せば、ディオは今度は渋々受け取りました。そして顔を顰めながらも鼻を摘んで一気飲みです。


 「う。ごほごほっ!」


 途端に咽せるディオの背を、ロハスは呆れた顔でトントン叩きます。


 「喉やられてるのに一気に飲むから」

 「げほっ!ぐふんぐふん!あー……あ?あれ?」


 苦手な物はさっさと無くしてしまいたくて飲んだのだと、伝えようとしたディオはある事に気付いて喉に手を当てました。

 ロハスはもう効いたのかと目を見開きますが、勿論そんなに直ぐには効きません。


 「ロハスお替わりある?」

 「え?あるよ?飲む?」

 「飲む」


 お替わりを貰って今度は味わう様に飲みます。

 そしてその味に目を見張りました。


 「……美味い……」


 そうです。苦手な人参独特の苦味とエグ味がしなかったのです。むしろ人参は甘く、リンゴの酸味と牛乳でスッキリまろやかに仕上がっていたのです。


 「そう?良かったな。今度三巳姉に会ったらお礼言っときなよ。作ってくれたの三巳姉だから」


 ミキサーが無いこの世界。どうやって作るって、魔法で作るしか無いのです。そして説明が下手っぴな三巳は魔法で実演するしかないのです。

 勿論その後山の民がミキサーを作るのは決まった未来です。


 「ん。ロハスも、ありがとな」


 素直に頷くディオに、ロハスもニカリと歯を見せて笑います。


 「良いってことよ。それよか早く元気になってまた遊ぼうぜ!」

 「おう!」


 お友達のお見舞いと、リリとロキ医師の薬と、あと多分おそらく三巳の人参ジュースで、ディオは辛いのなんてどこ吹く風になるのでした。


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