竹の子狩りで
三巳は今、久し振りの竹の子狩りに参加しています。
「オリンピック……間に合わなかった……」
大きな籠を背に背負ってしょもんと項垂れています。楽しみにしていた分ガッカリは大きいのです。
「まあまあ気を落とすなって三巳姉!」
背負い籠ごとパンパンと背中を叩くのはロハスです。あれから年長組の仲間入りをしたロハスは、年中組の時から更にグンと背も伸びて大人の男らしさが出て来ました。
頼もしくなったロハスをロダは嬉しそうに見ています。
今回の竹の子狩り参加は、保護者兼護衛としてロジンとロダ。その他はロハス達年長組に、年中組とその母親か父親か又はその両方です。子育て中の母熊が近くに居なければ、毎年行う子供達のお楽しみ行事なのです。
「ロハスはもうすっかりお兄さんだなー」
何年経っても子供達の成長は嬉しいものです。
三巳は頼もしくなったロハスにホロリと涙しています。
「まーな!ってもロダ兄にはまだまだ追いつかねーけど」
グヌヌと悔しそうに力瘤を震わせるロハスに、隣を歩くミオラが呆れた溜め息をこれ見よがしに吐きます。
「ロダ兄ちゃんはロウ村長に次ぐ人だよ?そう簡単に追い付ける訳ないじゃない」
「そうだけどよー……」
冷静な指摘にロハスはそれでも悔しそうに肩を落とします。
「ほらほら。楽しくお喋りするのも良いけど、足元や周囲の気配を疎かにしないようにね」
幾許か速度が落ちていたロハス達を、ロダが直ぐに気付いて注意します。ロダは殿を務めているので皆の動きが良く見えているのです。
「「はーい」」
それに頷きつつも唇を尖らせるロハスは、周囲を見て息を吐きます。
「そうは言っても最近モンスターって俺達襲って来ないんだよな」
ロハスはボソリとミオラにだけ聞こえる様に呟きます。
ミオラも苦笑して頷きつつも、
「油断大敵だよ」
と嗜めます。
「ミオラはお姉さんになったなー」
それを全て聞こえていた三巳がまたしてもホロリと涙しました。
それはそれとして三巳はミオラの言葉でふと周囲を確認します。
(居るは居る。けど、確かに何かしたがってる感じはしないなー)
何年か前までは三巳の目がない所は自然界の営みの世界でした。しかしリリが来てから少しづつ変化していた山の生き物達は、山の民達に攻撃性を見せなくなっていたのです。
(まあ、リファラのモンスターが人族と夫婦になって子供も産まれてるしなー)
もしかしたらもう家族の一員みたいになってるのかなと、三巳は平和な空気に酔いしれます。
とはいえ理性でカバー出来ないのが子育て中の母熊です。彼女達は子供達しか見えていません。三巳ですら子育て中は近付いたら威嚇されるのです。
そんな事を思っていたからでしょうか。漸く竹の子のエリアに入った所で熊の気配を感じ取りました。
ロジンとロダは一気に警戒体勢になります。
そんな2人にいち早く気付いた保護者組が警戒体勢に入り、次いで子供達が防衛体勢に入りました。
三巳は邪魔をしない様にお口にチャックをするが如く、毛を膨らませて毛玉三巳になります。お顔だけだして様子を伺っていると、竹藪からガサゴソと近付く音がしてきます。
緊張感が高まる中、ロダがロジンと先頭を変わります。
ロジンが最後尾に付いた頃合いで竹藪から黒い影が見えたと思ったら、ゆっくりとロダ達に近寄りすっかり大きな熊の形を見せました。
息を呑む子供達を他所に、大きな熊はその場にペタリと座ります。そしてその後ろから可愛い可愛い子熊達が顔を出したではありませんか。
これにはもう皆ビックリです。三巳も開いた口が塞がりません。
子育て中の母熊の気の立ち用は、話し合いが通じないレベルの筈だからです。
「ええっと?僕達竹の子取りに来たんだけれど、良い……のかな?」
警戒体勢はまだ解きませんが武器からは手を離したロダが尋ねます。
母熊は脚にしがみ付きつつも興味深そうにロダ達を見る子熊を見ます。そしてロダを見て、
「がう」
と言いました。
全く威嚇感が無い所か、穏やかなその様子にロダは困惑します。そしてこの異常事態に三巳を見ました。
「良いかな三巳」
山の主は三巳です。母熊が良しとしても三巳が良しとしなければ良しではないのです。
三巳はトトトと母熊に近寄ってみます。一歩離れた所で止まってしゃがむと子熊達を観察します。
その間母熊は様子は見ていても特に何もして来ません。
子熊達は初めて目にした生き物達に興味津々。でも怖い。という感情を如実に表しています。
「うーにゅ。どーしたんだ?警戒しないのか?」
三巳も初めての事に困惑しています。
母熊は穏やかな表情で三巳に顔を近付けると、その頬をペロリと舐めました。
『この山は子育てするのにとても良い環境ね。最近はとても心が落ち着いているのよ。それはきっと貴女という神の守護と、リリの癒し手のお陰』
母熊の話に三巳は成る程と得心がいきました。
リリの癒しの力は動物やモンスターの心に作用しています。だからこそリリには動物やモンスターが心を許しているし、リファラも共存出来るまでになったのでしょう。
そして今リリが住むこの山でも同じ事が起きようとしているのです。
「それじゃあ一緒に竹の子狩りする?」
楽しい予感に三巳は尻尾をワサワサと振って興奮気味に聞きました。
それに母熊はニコリと笑って頷きます。
『是非一緒させて欲しいわ』
そんな訳で竹の子狩りは、急遽参加者が増えて賑やかに行われたのでした。




