精霊の赤ちゃんはいるの?
ダム湖で雪の精霊達とお友達になりました。
三巳は雪の精霊達を招いて家に帰って来ています。
『暖かい?暖かい?』
『ボクら雪だから』
『暖かいのは苦手なの』
玄関を開けた所で雪の精霊達が俄かに騒ついています。後退りする様に綿毛が少しづつ少しづつ遠くなっています。
「うにゅ?そーなのかー。それは気付かなくてゴメンなんだよ。じゃあ縁側行こー♪」
気付いた三巳は玄関を閉めて家の裏手に向かいます。
縁側は雪が入らない様に雪囲いがしてあります。けれども日向ぼっこが大好きな三巳の為に開けやすい仕様になっています。
三巳は雪掻きでプチお庭になっている場所の雪囲いをスライドさせて開けました。横スライド式の雨戸と同じです。
「にゅにゅっ。考えたらあったかい飲み物もダメなのか」
お茶を用意しようとした三巳ですが、途中で気が付いて縁側に片足乗せた状態で止まりました。
『ごめんねごめんね』
『ありがとありがと』
『お気遣いだけでも嬉しい』
雪の精霊は気にしてない風にニッコリお目々でポワポワ舞います。
三巳はふむと雪掻きで出来た雪山を見ました。そして家に入るのを止めて雪山に近付きます。
「確かこの辺だった」
雪山の前でクンカクンカ匂いを嗅いで辺りを付けると、両手をズッボと差し入れました。そのままワキワキモギモギ動かして目当ての物を探します。
「ん。あった」
手に触れた物をしっかり握って手を抜き出すと、その手には蓋をした陶器の器が有りました。その蓋を取れば美味しそうなアイスクリームが現れます。
「お茶代わりにこれどーぞ」
それを雪の精霊達に差し出せば、とっても嬉しそうにピョンコピョンコと跳ね回ります。
『ありがとありがと!』
『嬉しい嬉しい!』
『三巳好き三巳好き!』
とても喜ばれて三巳も嬉しそうにニッコリ笑顔です。
雪の精霊達がアイスクリームを食べてる内に、三巳はササっと自分用のお茶を用意しました。
一口啜ってあったまったら本題です。
「という訳で精霊の未熟児?赤ちゃん?について知りたいんだよ」
『良いよ良いよ』
『何でも聞いて』
『聞かれたら答える?』
『三巳になら答える!』
三巳が身振り手振りでヴィンの事を説明しだすと、部屋の中からフヨフヨ眠気眼で当の本人がやって来ました。
甘えて来るヴィンを両手で抱き、撫で撫であやしながら最後まで説明します。とはいえ同じ精霊なので見ただけで大凡の状態は把握していました。
『成る程成る程ね』
『珍しいけどあるよ』
『珍しいから滅多にないよ』
『ボクらは自然そのもの』
『ボクらは雪で雪はボクら』
『世界樹の精霊は世界樹でもある』
『でもでもまだまだ世界樹になるには赤ちゃんだから』
『普通は生まれない』
『危険だから世界樹になるまで生まれない』
『『『あれあれ?でもでも生まれた生まれた珍しいね』』』
雪の精霊達は答える側だったのに今度は自分達が疑問を持ってしまいます。その場でクルクル回って不思議なのを楽しんでいます。
「うーにゅ。こあいのは世界樹も嫌いなんだな。でもここは三巳の山だからこあいの無いぞ」
同じ怖がりさんだと知って三巳もウンウン頷きます。
しかしそれを聞いて雪の精霊達はピタリと回転を止めました。
『『『あ―――!!それだ―――!!!』』』
そして一斉に三巳に詰め寄ります。
疑問が解けてスッキリした雪の精霊達は嬉しそうにピョンコピョンコと跳ね回ります。
『三巳の山は神の山』
『神の山は守りの山』
『とっても平和な三巳の山』
『『『んふふぅ~♪ボクらも大好きっ』』』
『此処に住む?』
『住んじゃう?』
『夏は危険』
『冬だけ住む』
『冬だけ住もう!』
どうやらどさくさに雪の精霊達の移住が決定しています。
勿論三巳も雪の精霊達が大好きになっているので否やはありません。どーぞどーぞと迎え入れはバッチリです。
『ママ』
ヴィンが三巳の手の平の上で幸せそうに微睡み寝返りをうちました。
三巳はヴィンの頭を指の腹で優しく撫でます。
「ヴィンは世界樹になるまで赤ちゃんなのか?」
いつ成長するかもわからない世界樹に、三巳は心配になります。
雪の精霊達はヴィンに寄り添いフヨフヨと様子を伺いました。
『世界樹の赤ちゃんの精霊は赤ちゃん』
『世界樹の子供の精霊は子供』
『世界樹の大人の精霊は大人』
『この子はなぁに?』
『この子は赤ちゃん』
『見守る?』
『見守ろう』
『『『だって世界樹はボクら精霊の宿木』』』
「ふふふ。心強いお友達が増えたねぇ」
雪の精霊達と話していると部屋の奥からクロがやって来ました。冬の寒さで着膨れしています。
「父ちゃん大丈夫か?寒くない?」
「大丈夫だよ三巳。ヴィンの事わかったかい?」
三巳は隣に座布団を用意して着席を進めます。そして座った所でお茶を渡しました。
「うぬ。取り敢えず三巳の山にいる間は精霊は赤ちゃんでも平気そうなんだよ。ただ世界樹の成長に合わせて大きくなるからいつまで赤ちゃんかは世界樹次第らしい」
「そうか。それなら大切に守っていこうね」
「うぬ!」
こうして精霊の事を少し学んだ三巳は、それを山の民にも広めました。
そしてそれを聞いた山の民達によって世界樹を育む会が発足されたのでした。




