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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
324/372

赤ちゃん世界樹の精霊

 『ママ。ママ』


 ピヨピヨと浮遊して、短い手足をパタパタさせて、ゆっくり近付く精霊がいます。


 「ヴィン」


 誕生したての時はすっぽんぽんだった赤ちゃん世界樹の精霊です。

 今は橙率いる妖精達によって作られた可愛らしいワンピースを着ています。性別はありませんがワンピースが似合うので満場一致でデザインが決まっていました。

 三巳が名を呼べば近くに居たリリも振り返り破顔します。


 「あら、ヴィンクルム」


 精霊の赤ちゃんはヴィンクルムと名付けられました。遠い地の言葉で絆を意味するそうです。そしてそれは樹が正式に世界樹なった時の名にもなります。


 『ママ』


 まだ赤ちゃんのヴィンは言葉を発せません。なので意思を直接伝えて来ます。


 「どうしたんだ?」


 両手が塞がっているリリに代わって三巳が手を伸ばします。

 ヴィンはその手に飛び込んでゴロゴロスリスリ甘えて来ました。甘えん坊をしたかった様です。

 三巳とリリは互いに目を合わせてクスリと笑います。


 「ヴィンは甘えん坊だなあ」

 「ふふふ。可愛いわ。ヴィンクルムは樹が世界樹になるまでこの姿なのかしら」

 「うぅーん?さてなぁ。三巳も精霊の赤ちゃんには初めて会ったから。母ちゃんに聞いても偶に見る程度らしくて謎が多いらしいんだよ」

 「サラちゃんに聞ければ良かったのにね」


 ヴィンが生まれて直ぐにサラちゃんの元へ行った三巳でしたが、相変わらず気持ち良く寝ていたので聞けず仕舞いです。

 心配を他所にヴィンは三巳の掌の上で寝息を立て始めました。


 「良く寝るわね」

 「本来ならまだ生まれる筈が無かったんだ。寝れるだけ寝とけば良いんだよ」


 三巳はヴィンを人撫でするとそっと頭の上に寝かせました。落ちない様に耳をピンと立てて壁代わりにしています。


 「それじゃあ三巳は他に精霊いないか探して来るんだよ」


 お仕事中のリリにお別れを告げて三巳は精霊探しの旅に出ます。旅と言っても山からは出ませんが。


 「にゅぅーん。さて何処から行こうか」


 頭にヴィンが寝ているので傾げない首の代わりに腕を組み、フンと鼻息を強くします。気合いは十分です。

 しかし精霊の情報が無さ過ぎてそのまま途方に暮れています。ファンタジーは"でぃずにー"と"じぶり"しか知りません。ゲームなんてした事無い昭和世代なのでシルフやウンディーネなど思いもつかないのです。


 「ま、いたら気配でわかるか」


 考えても仕方がないので取り敢えず真っ直ぐ進む事にしました。

 ヴィンを起こさない様にスキップなんてしません。慎重に雪道をザクザク進みます。

 ザクザク。ザクザク。

 しかし村と違って道なんて無い上に、雪が柔らかかったので埋もれてしまいました。


 「さむい」


 温かい格好をしていても寒いものは寒いです。

 一旦戻って体勢の立て直しです。

 どうしたものかと考えて、田舎のばっちゃの所で教わったスキーを思い出しました。スキーといってもアルペンではありません。かと言ってクロカンでもありません。いえクロカンは近いかもしれません。

 三巳が思い出したのはネイチャーです。山歩きのスキーです。山深い田舎だったのでカンジキもありましたが、三巳が友達と遊び倒したネイチャーの方が印象が深かったのです。


 「にゅふぅ~ん♪どんなだったかなー?確かこんな。だった様な?」


 田舎は地元では無かったので詳しくは知りません。うろ覚えで楽しかった思い出だけを頼りに魔法で再現します。


 「完成!」


 出来たのはネイチャースキーの板に似た何かでした。

 けれども大丈夫です。一応神族が作った魔法の板です。イメージさえ確かならそれはもうネイチャースキーの板も同然なのです。

 三巳は調子っ外れの鼻歌を奏でて前へと進みます。


 「うはっ!楽しい!」


 久し振りに行うネイチャーはとても楽しいものでした。

 三巳は精霊探しも忘れて前へ前へと進みます。


 「うははっ!にゅほはっ!にゃははははっ!」


 平の場所や上り坂はスッスッと足を出し、下はスイーと滑ります。そんなの体験したら三巳はもう変な笑い声が止まらなくなるってものです。


 『う~?』


 お陰でヴィンが起きてしまいました。

 眠気眼な声に三巳も「ハッ」として動きを止めます。

 右足を前に、ストックを雪に突いたままの格好で、まるで彫像の様に動きません。そのまま静かな時を刻み、ちょっとそろそろプルプルしだす頃合いで、


 『すー……』


 聞こえた寝息にやっと脱力出来ました。

 楽な姿勢に直してそっとヴィンの様子を伺います。


 「危ない危ないなんだよ」


 小さな小さな声を心掛けてヴィンを起こさない様に指で撫でました。

 気を取り直して精霊探し続行です。


 「雪の精霊ならいるかな?」


 今度は慎重に進む三巳は、精霊を探してモンスターや動物達に聞き込みを頑張るのでした。


 「ぬぅ~ん。神族以上に出会いが少ないんだよ……」


 そして中々見つからなくて耳も尻尾も垂れ下げるのでした。



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