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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
321/372

リリとロダの結婚 真昼の始まり

 良く晴れた冬の、太陽が一番高く登る真昼時の事です。

 それは粛々と行われました。

 診療所から紋付き袴と医師服を合わせた様な服を着たロキ医師が出て来ます。そしてその姿に辺りがシンと静まった所で宣言をしました。


 「これより我が家は婿殿をお迎えに参ずる」


 宣言と共にロキ医師が前にすすむと、診療所から白と新緑色の花嫁衣装を纏ったリリが静々と出て来ます。

 花嫁衣装は花をあしらったベールを被り、長く伸びるその先をリファラ式の儀礼服を着たハンナが両手で持っています。ベールが地面に付かない様に一定の距離を保って後に続きます。

 ベールで顔は隠されています。しかしリリは迷いの無い足取りでロキ医師の後をゆっくり、ゆっくりと進んで行きました。

 何年も過ごした村の地図は、もう完璧に頭に入っているのです。

 その様子を三巳は固唾を飲んで見守ります。三巳も着物と紋付き袴を合わせて動き易く改良した様な服を着ています。

 隣に立つミナミ達も冠婚葬祭用の着物を動き易く改良された服を着ています。

 外との交流で質の良い布に、服飾の技術が入ったのでやっと皆に行き渡る程の儀礼服が作れたのです。

 着物がベースなのは雛祭りと三巳の知識故でしょう。

 そんないつに無い華やかな装いがリリが進む道の先へと続いて行きます。

 言葉はありません。

 シンとした空気の中で、ロキ医師の先導の元にその歩みは進みます。

 道の両端で見ていた人々は、その最後尾に続いてついて行きます。

 勿論その先頭は三巳です。リリの後ろ姿がバッチリ見える特等席です。

 三巳はむず痒い気持ちで尻尾をブンブカ振りたいのを抑えて進みます。流石にこの時ばかりは尻尾も空気を読んで大人しくしていました。

 行列は大きく膨れ、上から見るとまるで龍の様です。

 綺麗に飾り付けられた道々は、ベールに隠れたリリには見えません。それでも飾られた花々が目に浮かぶ様で、リリは自然と笑みが溢れてきます。

 静々と。

 静々と。

 進んだ先はロダの家です。

 ロダの家の前ではロダの家族や親戚が外で待っていました。

 一列に並んでいた人々は、リリが見えると一礼します。

 そして真ん中から別れて道を作りました。

 ロキ医師がそれに一礼を返し、ロダの父親の隣に立って止まります。

 リリも一礼をして、そしてロダの家に入って行きました。

 ベールを持つハンナは入り口ギリギリでそっと手を離し、ロダの母親の隣に立ちました。

 三巳達も扇状に広がりその場で待ちます。

 リリは1人で中へ進みました。

 家の中。その更に奥。勝手知ったる足取りで着いたのはロダの部屋です。矢張り綺麗に飾られたロダの部屋は、扉が開かれた状態で直ぐにわかります。


 「ロダ」


 部屋の入り口ギリギリで立ち止まったリリは大好きな人の名前を呼びました。

 部屋の中で待っていたのは勿論結婚衣装に身を包んだロダです。


 「リリ」


 顔の隠れていないロダは勿論直ぐにリリが来た事がわかります。


 「貴方を迎えに来ました」


 ベール越しにもリリがフワリと笑ったのが感じ取れます。

 ロダもニコリと笑って踏み出しました。

 そのまま進んでリリの前で止まります。


 「喜んで貴女の元へ帰りましょう」


 差し出した手は、しっかりと握り返され、そして2人でロダの過ごした家を外へと向かって歩き出します。

 長年親しんできた家を懐かしみ、思い出を噛み締めて。

 これからはもう別の場所に住むのだと思うと、子供の頃から成長していったロダの姿が見えては消えていく様です。

 けれどもロダに迷いはありません。

 それらは全てこれからの今の礎になっているのです。その積み重ねの上に、これから向かう先にも続いて行くのです。

 何よりロダにとってリリはそれ以上に掛け替えのない存在なのです。

 リリへの想いが強くなり、無意識に強めた手は、同じ様に返されました。

 リリを見ればベール越しにもロダを見ています。

 ロダはこれからもリリとの時間を大切にしていくと改めて思います。

 玄関に辿り着くと一度止まり、クルリと向きを中へと変えます。

 そして深く、深く一礼をします。


 「今まで僕を育んでくれてありがとう。僕はリリとその先へ進んで生きます」

 「今までロダを慈しんでくれてありがとう。私達は共に明日へと旅立ちます」


 家へのお礼を言い、明日と言う名の外へと歩を進めました。

 外では皆が並んでいた向きが逆になって待っていました。そしてリリとロダを見ると手を診療所の方へ向けて導きます。

 その中央を歩き、また長い長い龍の様な列になって進んで行きます。向かう先はリリの家である診療所です。

 外へ出た事でまたハンナがベールの裾を持って後ろに続きます。その目はウルウルと潤みそうになっているのを笑顔で抑えています。侍女として、姉代わりとしてみっともない姿は見せられません。リリを誇らしく思い、その後ろ姿を見守ります。

 今度はハンナの隣にロダの母親も加わって裾を持っています。

 ロキ医師はそんなハンナの後ろでロダの父親と並んでいます。

 今度は先導無しです。

 リリとロダとで進んで行くのです。

 沢山の人々に見守られながら、リリとロダは迷いの無い足取りで診療所に戻って来ました。

 今日からここがロダがリリと過ごす家となるのです。

 入り口で立ち止まり、一礼をします。


 「「ただいま」」


 今度は2人で一緒に言います。

 家は言葉を話さないけれど、でも「おかえり」と言って貰えた気がするのでした。

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