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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
318/372

招待状を貰ったんだよ

 三巳が山に帰って来て暫くが経ちました。

 村もすっかり冬景色です。


 「招待状……」


 玄関を開け放ち、面前に雪景色を望みながら仁王立つ三巳が呟きます。その両手には白い葉書サイズの紙が握られています。


 「うん。三巳には絶対来て欲しいの」


 紙を渡したのはリリです。何時もよりおめかしをしています。


 「僕もそうして欲しいから三巳の帰りを待ってたんだ」


 隣でやっぱりおめかしをしているロダが言います。

 三巳は紙からリリとロダに視線を移すと、その両目からウルルと涙が溢れ落ちました。


 「結婚おめでとー!」


 溢れた感動は体に直接伝播し、ガバリとリリに抱き付く事で表されます。

 ぎゅうぎゅうに抱き締められたリリは嬉しそうに破顔して抱き締め返します。


 「ありがとう三巳」


 尻尾をブンブカ振って耳もピーン!と立てて。隣に立つロダを視界に収めればやっぱり嬉しそうに破顔しています。

 三巳は良くやった!という思いを込めて親指をビッ!と立てました。

 それにロダは誇らしそうに、満貫の想いを込めて頷いて返します。


 「日程は春じゃないんだな」


 気持ちを落ち着けた所でもう一度招待状をしっかり確認します。

 そこに書かれている日付は冬でした。


 「年明けの最初の満月の夜に。雨天は次の満月に延期で」


 ロダがリリの肩を抱き寄せて、書かれている内容を言葉にして伝えます。

 それだけで三巳にはわかります。

 だって三巳もリファラには数年住んでいたのですから。


 「リファラ式でやるんだな」

 「うん。リリの大事な故郷の風習を、僕も大事にしたいから」

 「でもヴィーナ式も取り入れるのよ。私だってここが大事だもの」


 ヴィーナ式といえば完全に三巳の前世感に影響をされた式です。洋式も和式もごっちゃ混ぜに影響されたので、何が何だかわからなくなっていますが。

 三巳はヴィーナの式とリファラの式をあれやこれやと想像してワクワクしてきます。


 「絶対参加!」


 言うなり家に戻って筆を持って来ました。

 そして招待状の参加の文字に大きく太く丸を書き足しました。

 それをリリに渡して満足気にニカリと笑います。

 リリは返信を受け取り一度胸に抱き留めます。そして今度はリリから三巳を抱き締めるのでした。


 さてはて招待状を貰ったは良いですが、リファラ式の結婚式を知る者は少ないです。

 三巳はならばとお手伝いをしようと思い立ちます。

 けれどもキッパリと断られてしまいました。

 だって一番招待したい人には当日まで楽しみに待っていて欲しいです。

 そう言われれば引き下がるしかありません。

 という訳で三巳が出来る事は普段と同じになりました。


 「にゅぅ〜ん。クリスマスプレゼントは島神のじっちゃのとことグランで用意終わっちゃってるし。

 ツリーの飾り付けもロウ村長とロダ主導でほぼ終わっちゃってるし。

 お節作るのもまだ早いし」


 つまりお暇様です。

 三巳はダラリとへそ天で縁側に寝転がり、冬の空を見上げます。

 外はもうすっかり雪景色ですが、お日様が出ているとポカポカしていて暖かいです。

 結果、三巳は気付いたら昼寝をしていたのでした。


 冬の空気は晴れていれば暖かい日もあります。

 けれども日が出ていないと……。


 「へぶちょっ!」


 寒いです。

 三巳はブルブル震える体を起こして辺りをボーと見渡します。そして寝落ちしていた事に「ハッ」と気付きました。

 お腹の上にはいつの間にか布団が掛かっています。

 家の中を見れば気付いたクロがニコリと笑って手招きしました。


 「父ちゃん布団ありがとー」


 布団を持って中に入れば、家の中はぬくぬく暖かい空気に包まれています。


 「ふふふ。良く眠れたかい?」

 「うぬ。気付いたら外が夕焼け色でビックシなんだよ」


 布団を受け取ったクロが問えば、三巳は神妙な顔付きで頷きます。


 「それは良かったね」


 寝る子は育つと微笑ましく思ったクロは、寝癖のついた三巳の髪を撫でて直します。そして寝癖が直ったのを見届けてから布団を仕舞いに行きました。

 その場に残った三巳は暖かな空気にホッとする匂いを感じます。

 良く嗅ごうとクンカクンカすれば、その匂いの元は直ぐにわかりました。

 

 「クリームシチューだー!」


 三巳は顔をパァッと輝かせて、埃が立たない様に慎重に、でもやっぱり心を代弁する様にフリフリと大きく振ります。

 戻って来たクロがそれを見て頷きます。


 「今日も寒いからね。シチューで温まろう」

 「やったー!」


 片足立ちでクルクル周り始めた三巳は気付きません。

 寒いのが苦手なクロは、暖かい場所から戻って来た事でより寒さを感じていた事に。

 そしてそれ故にシチューや鍋が毎日続いていた事に。


 『クロの手料理はいつ食べても美味いのじゃ』


 勿論クロなら何でも良い母獣もそれを指摘しません。

 お陰で今日もいつもと変わらない夜が過ぎて行くのでした。

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