海からただいま
ザザーン。ザブーン。と海を掻き分け進む船の音がします。
三巳達はクロの里帰りを終えて帰途についているのです。
「にゅぅ~ん。旅行が終わるのってあっという間なんだよ」
三巳が甲板の手摺りに両手を置いて、爪先立ちで船の下を眺めています。三巳の背では手摺りが少し高いのです。
船にぶつかって出来た白い空気の泡が、後方へと流れて行く様は少し寂しくもあり、帰って来たという安堵感もあります。
「帰りも順調に来れたから冬前には帰れそうだね」
三巳の斜め後ろに立ち、片手で手摺りを握るクロが言います。三巳を見てニコリとしています。海に落ちない様に見守っているのです。
「うぬ。栗拾いには間に合わなそうだけどワンチャン焼き芋は食べれる!」
落ち葉の焚き火で焼き芋は毎年の楽しみです。自然と口いっぱいの涎がジュルリと出て、危うく海に垂れ流しそうになっています。
「ん?」
海の流れと潮の香りを楽しんでいると、ふと嗅ぎ慣れた匂いを感じて視線を船の進む先へと向けます。
ぐにゅにゅと眉根を寄せて目を細めると、水平線の向こうにチョンと出た陸地が見えていました。
「んあ!グラン!見えた!」
三巳はパッと笑顔を輝かせてトテテと前へ駆け出します。波を乗り越える度に船も大きく揺れていますが気にしません。大きな尻尾で上手にバランスを取って船首までやって来ました。
「父ちゃん!グラン!三巳達の大陸に帰って来たんだよ!」
大きく指を差して後ろを振り返れば、クロが頷いてくれます。
「冬前に帰れたねぇ」
冬が苦手なクロはホッと一安心です。これで雪山を歩いて帰らなくてすみますからね。
「うにゅ!あっ!あっ!あーっ!!」
徐々に近付くグランを目を凝らして見ていれば、目の良い三巳は嬉しい発見をします。
クロは嬉しそうな三巳を嬉しそうに見てニコニコです。
「レオだーっ!」
クロは三巳程目が良く無いので見えません。
けれども両手をブンブカ振って今にも飛び跳ねそうな後ろ姿にクロまで嬉しくなります。
「本当に三巳はレオが好きだね。お兄ちゃんがいたらこんな感じなのかな」
「お兄ちゃん……」
三巳がふと両手をバンザイの状態で止まります。
そしてゆっくり降ろしながら首を傾げました。ちょっと違和感を感じたのです。
「レオは、かっちょ良いんだよ」
三巳は片眉を上げてクロに振り向きます。
クロは何とも言えない三巳の顔を不思議に思います。
「格好良いお兄ちゃんは嫌かい?」
「んーん。でもレオはなんかそんなと違う。気がする」
前世の友人がアイドルにどハマりしていたのを思い出して、
(あんな感じ?)
と思います。でも何だか違う気もしなくはないです。
でも結局それが何かわからなくて首をプルプル振りました。
「よくわかんないけどレオが大好きなのはわかる!」
この場に母獣が居れば
『恋情であろう』
とでも言ったかもしれません。生憎今は船室に篭っていますが。
まだまだお嫁に出したく無いクロは勿論その可能性を考えません。何よりレオが良いお兄ちゃんしてくれているので暫くはこのままでいたいのです。
「そうかい。それじゃあお迎えしてくれて嬉しいね」
「うにゅ!」
元気良く頷いた三巳はまたグランを向いて目を凝らします。そしてレオには見えないのに一生懸命に両手を振りました。
「ふふふ。レオにはまだ見えないんじゃないかな」
「いーの。こういうのは気持ちなの」
大好きが溢れて止まらない三巳は、レオが気付いて手を振り返してくれるまでそうしていました。
一方レオは姿こそ見えないものの2柱の神気を感じ取っていました。十分に抑えてある神気ですが、レオも守護者をやる位には強いモンスターです。馴染みの気配は直ぐにわかります。
「手、振られてる気がするな」
港にあるベンチに腰掛けていたレオは、遠くにポツンと見える船から嬉しいのオーラが出ていて苦笑します。
「どれ、出迎えてやりますかね。と」
三巳にはバッチリと見られている自覚を持つレオです。
ベンチから立ち上がると停泊予定の船着き場まで行きます。
そしてレオの目にも三巳が見える様になると、やっぱり盛大に振っていた両手に軽く吹き出して笑い、手を振り返すのでした。




