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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
308/372

謹賀新年今年も宜しくお願い致しますなんだよ!※新年に合わせた少し先のお話です。

 「明けましておめでとうございますなんだよ」


 今年も新しい年がやって来ました。

 寒いのが苦手なクロは山頂の日の出を一緒に見れなかったので、三巳は帰っていの一番に新年の挨拶をします。


 「おめでとう三巳。今年も宜しくね」


 クロは良く冷えた三巳を炬燵へと誘い、温まる様にとお汁粉を用意してくれました。

 寒かった三巳は嬉しそうにお椀を持ち、


 「あちっ、あちっ」


 と言いながらハフハフと啜ります。

 炬燵とお汁粉で温まった三巳はキョロキョロ辺りを見渡しました。


 「うにゅう?今年は年神のひと来てないのか」


 残念そうに言ってお餅を伸び~んと食べます。

 母獣は伏せて寝ていたのに、片耳だけヒョコリと上げます。そして片目だけでチラリと三巳を見ました。


 『今年は辰の年じゃからの。チロチロとて冬は水底で寝ていよう』


 言われてみればそうでした。

 三巳は得心がいって残りのお汁粉を平らげました。


 「じゃあ冬の間は年神のひとに会えないのかー」


 空っぽになったお椀をクロに伸ばします。お替わりの催促です。

 クロはクスリと笑うといそいそと鍋の元へと行きました。ついでにお椀を2つ追加して、今度は一緒に食べるようです。


 『会いたいなれば会いに行けば良かろう。彼奴なら今年の冬はグランに居ると言うておったぞ』


 それだけ言うと母獣はまた目を閉じて寝てしまいました。

 しかし三巳はそんな母獣に構っていられません。何故ならグランと言えば大好きな大好きなライオーガのレオが居るのです。お汁粉を食べるのも忘れてポーッとしちゃいます。

 そんな三巳にクロは些か気分が宜しくありません。


 「……お嫁にはまだまだ行かなくて良いんだよ」


 お汁粉のお椀を両手の肉球でギュッと握り、溢した言葉はしかし三巳には届いていません。三巳の頭の中はレオでいっぱいだったのです。


 「三巳。グランに挨拶に行ってくるんだよ」


 思い立ったが即行動。お替わりのお汁粉を一気に平らげて素早く立ち上がりました。

 名目が一応年神様への挨拶なので、クロは止めるに止められません。悔しそうに少しだけ鼻に皺が寄っています。


 「なるべく早く帰って来るんだよ。お節もいっぱいあるからね」

 「お節!うにゅ!パッと行ってパッて帰って来るんだよ!」


 お節に釣られた三巳は意識の三分の一はレオからお節に変わります。涎を垂らしながら急いで出発をしました。

 深く降り積もる雪山を転がり落ちる勢いで脱すると、直ぐに本性に戻って駆け抜けて行きます。寒いからか外を歩く生き物も居ないので、良い笑顔でモフモフの毛並みを最速で流しています。

 そしてアッと言う間にジャングルに到着しました。


 「あーけーまーしーてーおーめーでーとーおー!」


 入り口で人型に戻った三巳は、山よりは暖かいジャングルですっぽんぽんのまま大声で挨拶しました。両手をメガホンにして、尻尾もブンブカ振って、喜色満面です。

 果たしてレオは直ぐに来てくれました。そして来て早々に三巳の額をペチンと肉球で叩きます。


 『人型の時は服を着る物なんだろうよ』


 獣のレオですが人の羞恥心がわかるレオは視線を逸らしてくれています。


 「うにゅ」


 対して三巳は叩かれたのに大層嬉しそうにだらし無くもニヤケが止まりません。

 「エヘエヘ」と片手で額を抑えて器用に片手で着替えを完了させました。

 着替え終わったのを感じたレオが改めて三巳を見ます。


 『よう。おめでとさん。今年も宜しくな』

 「んにゅ!今年もその先もずっとずっと宜しくなんだよ」


 三巳はレオの鬣にモフリと抱き付き改めて新年のご挨拶です。


 『っふ。そうだな、今年だけじゃ物たんねぇよな』


 モフモフを堪能する三巳に、レオは頬擦りをしてクツリと笑みを漏らしました。


 『で。雪の時期に山を出るなんて珍しいよな』

 「うにゅ。毎年この日に年神のひとがお家に遊びに来てくれてたんだけど、辰のひとは寒いの苦手だから代わりに三巳が来たんだよ」

 『ああ。あの方なら滝の所に大抵いるな』

 「レオ知ってた!」

 『当たり前だろうが。一応ここの守護役だぜ?』

 「うぬ……。だから三巳のとこ中々来てくれないの寂しい」

 『そりゃ悪かった。まあ、今年はあの方が居てくれるみたいだし、夏にでも行くかな』

 「ホント!やったー!そいじゃあ辰のひとには余計に宜しくお願いしに行くんだよ!」


 早足踏みでレオの鬣を引く三巳に、レオはクックと笑いを噛み殺して大人しくついて来てくれます。


 「んふふ〜♪冬なのにあったか〜い♪」


 軽快なステップでジャングルを行く三巳です。

 その前を駆けるレオは「はて」と温度を確かめる様に空を見ます。


 『そうか?今年は何時もより寒い気がするけどな』

 「うにゅっ?寒い??あったかいんだよ」


 雪国育ちにとって暖かい温度でも、南国育ちのレオには夏との気温差で寒く感じます。しかし三巳にはそれがわからず、不思議そうに寒いを感じ様とうにょうにょ変な動きになってしまいました。


 『……すげぇな。良くそれで転けねぇで走れるもんだ』


 後ろ目に確認したレオが心底感心して言います。けれども真似をしたいとはちっとも思いません。


 『ほら、着いたぜ』

 「にゅ!懐かしい!」


 うにょうにょしながらも滝に辿り着きました。そこはレオと初めて出逢った滝でした。

 「ほあ〜」と感嘆しながらゆっくり見渡せば、滝の真上にちょんと出てる岩の出っ張りに人影が見えました。


 「あー!辰のひと!?」


 手足を広げて飛び上がった三巳は、着地と同時にター!っと滝の縁にやって来ました。川を分断している岩は少し遠いですが、目も耳も良い三巳には関係ありません。


 「あーけーまーしーてーおーめーでーとー!なんだよ!」


 ペコリンと頭を下げてご挨拶です。

 岩の上の人影は、ゆっくり三巳を見ると目を細めました。


 「ほっほっほっ。これはご親切にありがとう。狼のの子にしては礼儀深いのぅ」


 人影はとってもお爺ちゃんでした。

 純白の長い長いお髭を手で梳かし、やっぱり純白の長い長い髪を後ろで軽く結んで、着流しの着物っぽい服で胡座をかいて、片手で竹で出来た釣竿を持っています。その釣り糸は遥か下。滝の流れ落ちる先に続いています。

 三巳はその姿に仙人を連想して目をキラキラと輝かせます。


 「あーっ!かっちょいい!じっちゃ!」


 大興奮の三巳はそのままの勢いで辰神に突撃しようとして、そこが滝である事に気が付きます。真っ逆さまに落ちながら。


「あ゛―――――!?」


 その先は、レオに神族でも痛いと言われた刺々しい場所です。三巳は真っ青になっていて、鳥に変身するという簡単な方法を思い付きません。


「三巳!?」


 焦って手を伸ばすレオですが勿論届きません。


「ほっほっほ」


 岩の上の辰神はそんな様子に好々爺とした笑みを讃えて釣竿を振りました。しなやかに揺れる竿と釣り糸は、まるで意志を持ったかの様に動き、そして辰神がクイッと竿を引き上げると、そこには三巳がいたのでした。


 「こ、こあかったんだよ……」


 三巳はピルピルと耳と尻尾と言わずに全身を丸めて震えています。

 釣竿にプランプランと揺れる三巳は、その誘導のままにポスンと丸のままで降ろされました。


 「元気じゃのぅ。どぅれ、大丈夫、大丈夫じゃよ」


 ポンポンとあやされる三巳は辰神の膝の上に収まっています。

 丸まる三巳はピルピルとしながら目の前にある真っ白な長いお髭に顔を埋めてホッとしました。


 「うぬ……。うぬ……。ありがとうなんだよ……」


 その場所はあまりにも心地良く、何とかお礼を伝えるとそのままストンと眠りについてしまいます。


 「ふぅむ。狼の子にしては素直な良い子じゃ」


 辰神がそのままあやしていると、気持ち良さそうに揺れる三巳の尻尾から何かがポロリと落ちました。


 「うん?あぁ、成る程のぅ、これが虎のと兎のが言うておったしめ飾りじゃな。わざわざ持って来てくれたんじゃのぅ。律儀な子じゃ」


 嬉しそうに相合を崩す辰神を見て、レオも安堵してその場に伏せました。三巳が起きるまで一緒にいてくれる様です。


 「ふぅむ。レオや」


 辰神の呼び掛けにレオは顔を上げます。


 「今年は儂が居るでな、この子の元へ行っておやりなさい」


 辰神は緊張が解けてダラリとなる三巳の体勢を直して、むにゃむにゃ言っているその頬を手の甲で優しく撫でながら言いました。


 『心遣い感謝します』


 レオはお座りの状態になると、そこから深く頭を下げるのでした。


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