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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
306/372

クロの回想 続きの8

 準備は着々と進められている。

 海が荒れている為に海神様への祈りの場。

 風が荒れている為に風神様への祈りの場。

 空が荒れている為に空神様への祈りの場。

 他にも誰か祈りを聞いてくれる神様への祈りの場。

 この街に教会は無いけれど、昔から航海が盛んな港町だからこその土着の祈りはあった。それを基に祈るらしい。


 「クロウドは他の神族への祈りを担当してくれ」

 「任せるにゃ」


 門番をしていたガリオンに、向かうべき先を指で示された私はそこへ向かう。

 何故私が門にいたかと言うと、冒険者達を見送っていたからだ。神頼みが上手く行くとは限らない。だから他の方法もまだ探していて、冒険者の中でも信頼出来るチームに他の街に情報集めの依頼を出したのだ。

 とはいえ祈りが成功して嵐が収まった場合は好きに行動をしても良い事になっている。報酬は前払いで済ませているから。


「此処かにゃ」


 案内されたのは門の上の見張り台。大陸の先に願いが届く様にだそう。

 見上げた壁は高く、石造り故に頑丈そう。壁に沿って作られた階段があるのでそれを登る。

 見張り台には既に何種族かが集まっていた。

 人族に魚人族に獣人族。もう既に祈りは始まっていて、台の上にはお供えの果物や穀物。それにお酒もある。島神様もお酒をお供えするけれど、神様は皆お酒が好きなんだろうか。

 吹き荒ぶ空を見上げ、此処には居ない神々に祈る。


 「島神様と愛しい神様の仲裁をして欲しいにゃん。私達は穏やかな空と海が好きにゃ。こんなに荒れてたらお魚食べられないにゃん」


 一生懸命に祈ったら、何故か周囲から視線を感じた。

 祈りを止めて見渡せば、何故か視線を逸らされた。皆一様に肩を震わせているのは何故だろう。

 疑問に思ったけれど、今は穏やかな島を取り戻す方が先だ。視線を遠く遠くまで届く様に見て祈る。


 「お魚はマグロが美味しいにゃよ。でも焚き火で焼いた秋刀魚や鮎も美味しいにゃん。平和は美味しいにゃ。だから島神様と愛しい神様のお話し合いがもう少し穏やかに出来る様に仲裁して欲しいにゃん」


 一生懸命に祈って。祈って。

 祈る度に周囲から生暖かい視線を感じた気がしたけれど、祈る方が大切なので気の所為だと思った。

 きっと遠くに居るだろう神様。祈りが届くのも何日掛かるだろうかと思っていた。


 「面白い願いをするのはそこの猫さん?」


 笑い含みな声がした。

 初めは何も無い空に、声と同時に空気が揺れる。揺れと同時に景色も歪み、そしてそれは次第に別の形となって現れた。


 『面白い。実に面白い願いぞ』


 それも複数。


 「神族!それもこんなに一度に現れるなんて!」


 周囲の声からそれらが神様だとわかる。様々な姿形をしている神様に、色々いるなぁと思う。島神様は島だし、愛しい神様は狼だし。人族型や鳥型がいるのはまあわかるけれど、あの光る玉も神様なのか。明滅していてちょっと眩しい。


 「これ光の。眩しいから明滅止めい」


 そして光る玉神様は人型の神様にチョップをされた。


 『ごめ〜ん。面白くて笑いが止まんなかった〜』


 舌は出ていないのにテヘペロという擬音が聞こえた。神様は凄い。


 「それで猫獣人の子。お前達の願いを叶えたとして、我等に得はあるか」


 得?島神様はお願いを聞いてくれる時、喜んで叶えてくれていたけれど、普通は違うのだろうか。

 疑問はキョトンとした顔に出ていた様で、神様達にも周囲の人達にもドン引かれた。


 「島神の奴……」

 『これ。アレだね。ダメなやつ』

 『一番是正しなければならないのに。猫獣人の子よ、他の者達も島のに願いを普通に叶えられているのか』


 頭に手を当てて首を振る神様に問われて頷くと、何故か皆一様にして天を仰いだ。


 『これ。手遅れポイやつ』

 「あの野郎まぢで一回絞めるか」

 『悪影響にも程がある』


 天から私達に視線を戻した神様達は、とっても良い笑顔なのに、怒りの血管が沢山出ていた。

 何より神気の気迫が空気を圧迫して、私達は顔を青くして息を詰める事になってしまった。


 「今回のは我等神界の落ち度。故に見返りは求めぬ。既に神災が起きてしまっているしな」

 『まあ、狼のはクールに見えて面白がりだからね。島の住人に被害が出ない様に調整はしてるだろうけど』

 『島のが相手だからな。我等も早急に対処しよう』


 神様達はそれだけ言うと、空気に溶ける様に姿を消した。と同時に神気も無くなり息が楽になる。


 「私は何か可笑しな事を言ってしまったのかにゃ」


 ボーゼンと天を仰ぐ私の肩は、この場に居合わせた人達に次々と叩かれていく。

 叩いた人達を見ると皆既にこの場から撤収を始めていた。


 「お祈りは終わりかにゃん?」

 「あれだけの神族達が早急に対処すると言ったんだ。これ以上俺達が出来る事はないよ」

 「見返りも求めないみたいだしな」


 見張り台から降りて行く人達にハッとした。


 「見返りって何にゃん?神様達も似た事言ってたにゃ」

 「あのなぁ。あんたは人から何かを貰う時に代わりに何かをあげたりしないのか?神族への願いも同じで、ただ願う内容は大抵大きな事だから見返りも相当に大きくなる。のが普通なんだよ」


 肩を竦めて呆れた様に言われた私に衝撃が走った。

 何故なら島神様にはいつも貰ってばかりで何かお返しをした事が無かったからだ。


 「な、な、何ということにゃ!帰ったら皆に教えてあげないといけないにゃ!」


 こうしてはいられないと、私は見張り台から壁の下まで飛び降りた。そしてそのまま門へと急ぐ。

 門まで戻るとガリオンがまだそこにいた。


 「ガリオンありがとうにゃ!私は急いで島に戻るのにゃ!」


 別れの挨拶をする時間ももどかしく、その場足踏みをして早口で礼を言う。

 ガリオンは面食らった顔をしたけれど、直ぐにニヤッと笑い手を振ってくれた。


 「おう。島が元に戻る事を祈ってるぜ。もしも島神が天へ帰るなら、島民全員この街に移住出来る様に話を通しておく」


 ガリオンの暖かい言葉にもう一度お礼を言って、私は元来た道を駆けた。


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