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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
304/372

クロの回想 続きの6

 誰もいない。嵐で荒れた広場を通り過ぎ、そのまま進んだ直ぐ先に目的地はあった。街を初めて見た時から建物が大きくて頑丈そうに見えたけれど、此処は更に大きくて重々しい建物だ。

 入り口は鍵が掛かっておらず、簡単に入れた。そして入ってその理由がわかった。


 「色んな種族の大人や子供がいっぱいにゃ」

 「彼等は家が壊れて避難して来た人達だ」


 色んな目がこちらを見る中、私達はカウンターに向かった。


 「この嵐の事で調べたい。図書を開けて貰えるか」

 「警備兵の貴方がですか?それに其方の方は?」

 「彼はこの不自然な災害の情報をくれた旅の方だ。これを収めるのに知識が欲しい。領主様へは他の者が話を通す様に動いているが、災害は待っちゃくれないからな」

 「では既に解決に向けて動き出しているのですね。わかりました。司書に連絡を取りますので少々お待ちください」


 カウンターにいた魚人族の人が後ろで作業をしていた人に言うと、その人は奥の扉から何処かへ行ってしまった。

 ガリオンはそれを見て頷くと近くの椅子に座って、私を手招きする。

 近付けば椅子を指されたので、ソワソワしながらも座ってカウンターの魚人族の人を見た。門にいた魚人族は鯛に似た姿だったのに、カウンターの人は耳のエラや鱗などのパーツは魚類に見える。けれども全体のシルエットは人族と同じだ。流石に美味しそうには見えなくて安心する。


 「魚人族にも色々いるにゃぁ」


 ポツリと呟くと、ガリオンが「ぷっ」と軽く吹き出した。隣をチラリと見ると肩を震わせて笑っている。


 「まあ、確かに門番仲間のアイツは見るからに魚だしな」


 聞くとあそこまで魚形態の魚人族が陸で暮らす事は珍しいらしい。定期的に海水を浴びないと干からびてしまうんだとか。でもカウンターの魚人族の人はその必要がない。濡れる事がないから事務職も出来るんだと説明してくれる。

 この街にどんな姿の獣人族がいるのか説明してくれていると、奥に消えた人と一緒にメガネを掛けた人族が出て来た。その人はカウンターの魚人族に声を掛けてこちらを見る。

 ガリオンが立ち上がったので立つと、メガネの人族はニコリと笑うと近くに来て会釈した。


 「ガリオン殿が調べ物とは珍しいですな。感心な事です」

 「非常時だから仕方無くだ。普段から文字の羅列なんて読んでられるか。眠くなる」


 どうやら顔見知りらしい。メガネの人族が図書館の司書だと紹介を受けてから案内をして貰った。役場の真後ろに建っているとは聞いたけれど、なんと従業員通路が役場から繋がっているらしい。非常時という事でそこから向かった。


 「これが図書館にゃ。凄いにゃ。いっぱいにゃ。崩れて落ちて来ないかにゃ?」


 島にも本は有るけれど、こんなに沢山の本は見た事が無い。天井まで続く本棚に隙間無く収まっている本に圧巻を隠せない。パカリと口が空いている自覚はある。


 「この中から探すのかにゃ?何年掛かるのにゃ……」


 そんな時間は無いというのに、絶望が胸を締め付ける。


 「ん?ハハハ!まさかこれ全部は調べないさ!大まかな話はこの司書にしたから当てはまりそうな本だけを物色して貰う。俺達はそれを調べれば良い」


 成る程。それならば大丈夫か。そう思ったのに司書が持って来た本は机に乗り切らず、隣の机まで占領して山と積まれた。

 ガリオンもそれに唖然として顎を落としている。よく見れば顔も少し青い。そういえば読書は苦手そうな事を言っていたな。


 「私が読むから情報収集して来るかにゃ?」


 気遣って聞けばガリオンはブルブルと顔を横に振って両手で頬をバチン!と叩いた。痛そうな音に尻尾の毛が膨らむ。


 「いや。今は選り好み出来る状況じゃない。やるさ」


 ガリオンはフンスと気合いを入れて、必要のない腕捲りをすると、手近な本を手に取り読み始めた。

 私も気合いを入りて本を取る。ペラリと捲って読み始めると、島にある本とは洋装がまるで違う。繊細で緻密な文字の羅列。深くまで考察された文献。島では得られない知識に、非常時だというのにワクワクしてしまう。


 「……凄いなクロウド。もうそんなに読んだのか」


 途中でガリオンの声が聞こえた気がしたが、それに応える事なく読書に没頭する。読んでも読んでもこれという情報は無い。気付くと読み終わった本が山となっていた。


 「終わった本は片付けますね。役立ちそうな本があったら別に避けといて下さい」


 置き場に困って固まった私から司書が本を取ってくれる。それに頷いて次の本へと移った。


 「速読も真っ青な読みっぷりだぜ」

 「ここまで読んで貰えると司書冥利に尽きますね。貴方も是非見習ってください」

 「……善処する……」


 横でガリオンと司書が話をしていても気にせず読み進めていると、不意に肩にガリオンの手が乗った。


 「こんを詰め過ぎだ。一旦飯にするぞ」


 食事が活力に大切な事は理解している。私は逸る気持ちを抑えてガリオンに続いた。


 「凄えな」


 チラリと私の背後を見たガリオンに釣られて私も見る。読み終わった本はやっと三分の一といった所。まだまだ先は長い。


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