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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
303/372

クロの回想 続きの5

 私は首を傾げている。


 「争い……。確かに激しい言い争いだったにゃー」

 「い、言い争い……?」

 「え?これ言い争いの所為でこんなに荒れてるの?」

 「これだから神族って奴はあああああ!!」


 詰所に集まった人達がボーゼンと魂を抜かしていたり、遠い目で「あはあは」変な笑いを溢していたり大絶叫で地面を叩き出したからだ。

 確かに私もビックリしたけれど、茫然自失に成程じゃなかった。筈。


 「落ち着くにゃん」

 「いやあんたが良くそんなに落ち着けてるな!?」


 前のめりで言われても私だって慌ててる。仲間の命が掛かっているのだから。

 でも、だからこそ話を進めたい。だから私は敢えて此処に至るまでの経緯を全て話した。


 「流石猫獣人族。マイペースに進めるし」


 とか言われたけれどそんな場合では無いから全て話した。


 「あー……。まぢかー。そんなかー」


 全てを話したら脱力してヤル気を失っていた。


 「神様止めるの手伝って欲しいにゃん。本当は救援物資が欲しかったけれど」

 「すまない。此処も今の状態だと他に割ける余力が無いんだ」

 「うにゃ。大変そうなの見てわかったにゃ。そこは求めないにゃ」

 「神族の説得ってのもな……。そんな勇者居たらこんなに被害出てねーな。トップクラスの冒険者なら何とかなるか?」

 「いやいや。出来たとしても神族相手に口出す奴なんているか?」

 「だよなー」


 話を聞くに、どうにも神族同士の話し合いに参加するのは難しそうだ。

 私は意気消沈して耳も尻尾も力無く落ちてしまった。


 「あー。そんな顔するな。俺達だって何とかしないとやばいのは一緒だ。協力はする」


 そんな私を見て額をポリポリ掻いた人族は、バツが悪そうに言った。


 「!ありがとにゃん!」


 どんな気持ちで言ったにせよ、協力者を得られた私は希望を得た。落ちた耳と尻尾が元気に立ち上がる。


 「問題はどうするか、だ」

 「国に要請出すか?」

 「ばっかお前、それで救援来るの何ヶ月後だと思ってる」

 「だよなぁ。取り敢えず冒険者達に話振ってくるわ」

 「なら俺は隊長に話してくる。領主様にも話を通さないといけないしな」

 「だな。そっちは任せた」

 「「おうっ!」」


 3人いた人族から2人が部屋から出て行った。


 「冒険者って何にゃ?」

 「え?そこから?」


 憧れていたのに情報が無かった外の世界。知らない事が多過ぎて疑問を口にしたら、そこから外の世界講座が始まった。今の状況を説明した私より話が長く掛かった。


 「ただいまー!」


 出てった人族が戻って来ても尽きる事が無く、大まかに教わって終わりになった。それでも憧れの外の世界の話は胸が踊った。こんな状況でも無ければ何晩でも語りたい位だ。


 「取り敢えず冒険者達は情報集めに協力してくれる事になった」

 「そうか、有難いな。あとは領主様の出方だが……」

 「そっちはまだ時間が掛かるだろう。リュノから隊長。隊長から大隊長。大隊長からやっと領主邸に知らせをやって、領主様に話すまでに何日掛かるやら」


 掻い摘んで外の世界を教わったけれど、本当に大変そうだ。災害時にそんなに時間を掛けてどうするというのか。私には理解出来そうもない。


 「すまないな。領主様のお人柄によってはこんなに時間は掛からないんだが。今の領主様は気難しくてな。手順やら決まりやらに固執する面ど、大変に生真面目な方なんだ」


 今、面倒って言い掛けた気がした。矢張り人族もこのシステムには不満らしい。


 「こんな嵐でもなければ他の街まで情報収集に行けるんだが。まあ、仕方がない。住民からそれとなく話を聞いてみよう」

 「この非常時に図書館って閉まってたよな。役場行って開けられるよう交渉してこよう」

 「図書館。本がいっぱいある所にゃん?私も行けるかにゃ?」

 「うん?クロウドって言ったか。ああ、字が読めるなら文献探しに協力を頼む」

 「にゃ!任せるにゃ!」

 「……こんな時に何だけど。クロードと話してると何か癒されるな……」

 「わかる。猫獣人語って、警戒心を薄れさせるよな」


 そう言われて初めて言葉の違いを理解した。その後愛しいひとと旅をする中で標準語にはなったけれど、それはまだこの時よりずっと遠い先の話だ。

 目的が決まれば善は急げ。直ぐに席を立って外へと向かった。


 「何してるにゃ?早く行くにゃ」


 足音が続かない事に気付いて振り返れば、人族達はまだそこにいたので手招きをして呼ぶ。


 「あ、ああそうだな。悪い今行くにゃ」

 「おい、伝染ってるぞ。俺は門番を代わってくれる奴か、情報収集してくれる奴募ってくるわ」


 やっと慌ただしく動き出す。私を招いてくれた人族で、ガリオンと名乗った人が私と共に役場へと向かう。

 大きな通りなのに嵐で人気の無い暗い道をひたすらに駆ける。視界が悪く、雨で匂いも散漫になっているからガリオンから離れない様に注意しないと。


 「そこの広場を超えて最初の二又の分かれ道の真前が役場だ。図書館はその後ろだから鍵さえ開けて貰えれば直ぐに入れる」


 ザアザアと雨の音が煩いから耳を研ぎ澄ましてガリオンの声を聞く。


 「わかったにゃ」


 私は頷きガリオンに付いて行き、建物の中へと入って行った。


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