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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
302/372

クロの回想 続きの4

 島神様が島の中を気にする気配を感じる。

 愛しい神様も出方を伺っている。

 暫くすると島から光の柱が立ち昇って消えた。あれは里のある辺りだと思う。

 島神様は頷く気配を見せると直ぐにまた神気の帯を私に向けて放った。


 『ち』


 愛しい神様が舌打ち一つ溢していなしていく。

 そこからまた神気のぶつかり合いが始まってしまった。先程より激しいそれに、島神様の一歩も譲らぬ姿勢を窺える。


 「何でにゃ!?止まるにゃ!止まってにゃぶっ!」


 必死に言葉を続けたが、激し過ぎた神気の奔流に顔面を打たれ、そのまま遠い後ろまで転がってしまう。

 全身を打ちつけ、草だらけになった私を愛しい神様が心配そうに見る。けれども島神様の対応で精一杯らしく、私に何かを出来ずにいる。

 声も聞こえない所をみるに、恐らくもう私の声も島神様に届いていないのだろう。

 しばし逡巡した後、私は走り出した。島神様の所ではなく、今いる島の中心へ。

 神々の戦いに手出し出来る人はいない。けれども荒ぶる神様を鎮めた人ならいるかもしれない。

 此処が何処かもわからない。だから先ずは島を見渡せる高い場所を目指す。幸い島神様から離れているこの島は荒れてはいても島神様の上よりはマシだ。

 嵐を全身に浴びながらも私は目の前の一番高い山を目指した。それがどれほど遠く、高いのかも知らず。島ではなく、大陸の広さを知る者は当時の猫獣人族にはいなかったのだ。

 それでも私は駆けた。島神様の加護の無い島がどれ程に生き辛いかを肌で感じながら。何せ食べ物を探すのにこれ程苦労するとは思わなかったのだ。

 それでも私は諦めなかった。仲間達は食べる事すら出来ていないと思って。


 駆けて、駆けて。


 どれ程走っただろう。夢中でわからないが、視界の端に踏み固められた道を発見した。近くで見るとこの嵐でか、大分水や泥で埋まっている。発見できたのは僥倖だ。

 問題は右に行くか、左に行くか。

 右は海に戻る道。

 左は山に向かう道。

 ならば決まっている。右だ。少しでも早く仲間達に救援物資を届けたい。

 ひどい嵐で人気の無い道をひたすらに走った。

 泥や水溜まりに何度か足を取られたけれど、私は諦めず、めげずに走り続けた。

 厚く暗い澱んだ雲で、昼も夜もわからない暗さの中、どれ程走ったかわからないが、視界の先に街が見えた時には安堵した。そのまま速度を上げて街に向かう。


 「にゃにゃ!?」


 しかし近くで見た私は三つの事に驚きの声を上げた。

 一つは里と違う栄えて大きい港街である事。

 二つ目はそんな大きな街なのに、嵐と津波で大惨事であった事。この様子では他所に救援する余裕は無いだろう。

 そして最後に、視界に映った人々が、猫獣人ではない事。

 それ迄私は猫獣人以外の人を見た事も聞いた事も無かったのだ。つるりとした肌に、横に付いた小さな丸い耳。尻尾なんて影も形もない。

 これが私の人族との初めての邂逅だった。


 「にゃ!?にゃぁっ??何にゃ!?何なんにゃ!?」

 「ん?猫獣人か。こんな嵐の時に何をしている!早く中に避難しろ!」


 横長に伸びる高い高い壁の、ポッカリ空いた穴に立つ人族。槍を持つのとは別の手で大きく招いてくれる。

 私はボーゼンと高い壁と穴と人族を見ながら中へと急いだ。


 「他にはいないな。良し!閉めるぞ!」


 招いてくれた人族が上を見上げて叫ぶと、ガラガラガラ!と甲高い音を響かせて穴は格子状の鉄の棒に塞がれた。

 その大きな音にビクリと震わせ毛が少し逆立つ。警戒を顕に尻尾を揺らして塞いだ物を凝視する。


 「一人旅か?仲間はいないのか?」


 ボーゼンと見ていたら人族が心配そうに声を掛けてきた。

 そうだ。ボーゼンとしている場合ではなかった。


 「仲間は島に取り残されてるにゃん!島神様の島にゃん!嵐と地震が凄くてご飯も用意出来ないにゃ!」

 「島神様?ってあの入れずの島の住人か!流されて来たのか!?怪我は!……無いようだな。詳しく聞こう」


 招いてくれた人族は穴の横に建てられた家に私を連れて行く。正直な所全身ずぶ濡れで気持ち悪かったから屋根のある場所は嬉しい。

 中に入ると同じ人族と魚人族がいた。この時は魚人族を知らなかったので、一瞬美味しそうな魚だと思ってしまった。


 「ぎょぎょっ!猫獣人族か!おでらは猫科は苦手だじょ!?」

 「あ、ああ。すまなかった。そうだったな。とはいえ緊急時だ、すまないが門番を代わってくれ」

 「おでが代わるじょ!外にいた方が安心だじょ」

 「すまないがそうしてくれ」


 魚が意志を持って言葉を交わせた事に心底驚いた。

 直ぐに食べてはいけない魚だと気付けたのは良かったと思う。それ程までに美味しそうな魚に見えたのだ。普通の魚と違うのは筋肉質な手と足が生えている位。背丈は私の半分程。食い出が有りそうだったのに。


 「あー……。すまないが彼は俺達の仲間でな。涎は勘弁してやって欲しい」

 「あにゃ」


 いけない。心ではダメだとわかっているのに体は正直だ。

 受け取ったタオルで濡れた体のついでに涎も拭き取っておく。拭き終わったタオルは女性の人族がお茶と引き換えに持って行った。

 私は勧められた椅子に座って熱そうなお茶をフーフーして冷ます。


 「それで察するにこの状態の理由を知っているとみて間違いないか」


 お茶が冷め切らない内に、案内してくれた人族が目の前に座って問いかけて来た。両手を組み、ひたと見据える視線は真面目で冷静。


 「うにゃ。神様達のあり様を変革するので愛しい神様が島神様を説得しているからにゃ」


 フーフー冷ましながらも端的に伝えられた。しかしお茶はまだ冷めない。


 「「「神族同士の争いか!!」」」


 ガタンと音がしたので視線を上げる。そこには全員が立ち上がり、恐怖と驚愕に彩られている顔があった。



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