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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
299/372

クロの回想 続きの1

 「起きたかにゃ」


 心配そうに覗き込むのはアッシュ。覚めたばかりの目をゆるりと動かして周囲を確認する。

 うん。どうやら皆避難出来たようだ。良かった。


 「皆を避難させてくれたにゃね。ありがとにゃ」

 「ばかっ。今は自分の心配してろにゃ」


 お礼を言ったのに何故か額を叩かれてしまった。

 寝転がったまま見上げたアッシュは、顔をくしゃりと歪ませていた。如何やら思ったより心配させてしまったらしい。


 「ごめんにゃ」

 「いや。俺も1人で行かせちゃったからにゃ」

 「あれは仕方ないにゃ。誰かが誘導に残る必要あったにゃ」

 「だとしてもクロウドが残って俺が行った方が安全だったにゃ」


 確かに私は里の中では運動能力が劣っているけれど、猫獣人としての平均ではある。流石に何と言い返したら良いものか。何せ信用に置けない帰り方をしただろうから。


 「ビックリしたにゃか?」

 「当たり前にゃ。いきなり島神様の膜に覆われて気絶したクロウドが帰って来たにゃよ」

 「うにゃー……。不可抗力にゃん」


 不可抗力だよね?私はただ声の元へ行きたかっただけなのだから。

 ……。そうだ!声!

 思い出した私は思いのままに思い切り上体を起こした。


 ゴン!


 そしてアッシュの顎を頭で打ち付けた。


 「あ。ごめんにゃ」

 「ク~ロ~~ド~~」


 おどろおどろしい声音で頭を掴まれて、そのまま枕に戻されてしまう。


 「本当にお前は相変わらずの石頭にゃ。顎が割れるかと思ったにゃん!」

 「だからごめんにゃて」

 「いーや許さないにゃん!罰として暫く大人しく寝てろにゃん!あとで向こうの様子をじっくり聞かせて貰うにゃん」


 そう言って避難した仲間達の元へ行ってしまうアッシュ。その後ろ姿を見ながら、私は崖で聞いた声を思い出していた。


 「あの声のひとは誰なんだろうかにゃぁ」


 見えてる光景は外の災害を怖がる仲間達の姿なのに、私の心は声の元へと飛んで行った。

 逢いたい。

 ただ無性に逢いたくて、逢いたくて、堪らない。


 「でも……向こうの様子を仲間に伝えず行けないにゃ」


 ふと話を止めたアッシュが振り返って私を見る。

 私は笑みを作って目を閉じた。不恰好な笑みになった自覚はあるけれど、アッシュなら意図を汲み取ってくれるだろう。

 私は目を瞑り、声の主に想いを馳せながら、緊急猫集会の話が終わるのを待った。

 目を瞑って心ここに有らずとはいえ、アッシュ達の声は聞こえて来る。

 如何やらこの集会場だけ島神様の結界で強力に守られ、他は作物も家もボロボロで、目の前で家が飛んでった人もいるらしい。

 幸い私の家は里の中でも南の外れで無事らしいのが申し訳ない。

 そう思っていたら母さんが横に来て腰掛け、尻尾を私のお腹に乗せた。


 「母さん」

 「私はね。クロウドが大事にゃ。あの人との大切な子。だから、いつだってクロウドのやりたい事を応援してるにゃよ」


 如何やら思い詰めていたのがバレバレの様だ。


 「心残りをしない様に、やれるだけの事はやりなさいにゃ」


 ポンポンとお腹を叩く尻尾は、とても優しかった。


 幼少期振りにあやされたからか、その後直ぐにストンと眠りに落ちた私は、近くにアッシュの気配を感じて起きた。

 横を見ると母さんはいない。少し視線を遠ざければママ友達といるのが見えた。


 「話せるかにゃ」


 気遣わし気なアッシュの声に、私はゆっくりと上体を起こして頷いた。


 「勿論にゃ」


 そして私は見て聞いて感じてきた全てをアッシュに話した。

 全てを黙って聞いていたアッシュは、聞き終わると内容を深く落とし込む様に頷く。


 「そうかにゃ。これは神々の戦いの余波なんだにゃぁ」


 アッシュは遠い北の空を見上げながら遠い目で呟いた。

 それはそうだ。自然災害ならそう長くは掛からないだろうけれど、神災とくれば下手をすれば数百年規模で終わらない可能性もある。

 何故なら神々は私達と違い、時間経過の概念が希薄だからだ。その上体力も無尽蔵とくる。


 「兎に角皆に伝えて来るにゃ」


 そう言ってアッシュはまた仲間達と集会を開きに行った。

 伝えるべきを伝え終えた私は、ここでの役目がもう無い。

 体調も万全だ。

 そもそも気を失ったのは島神様の神気にやられたからであって、外傷的要因は無いのだから。

 立ち上がった私は母さんの元へ行く。

 母さんも何か悟ってくれたのか、ママ友から離れて人気の無い隅に来てくれた。


 「行くのかにゃ」

 「うにゅ」

 「そう。気を付けて行って来るにゃよ。そしてちゃんと帰っておいでにゃ」

 「うにゅ。ありがとにゃん。行って来るにゃ、母さん」


 言うなりそっと集会場を抜け出し、荒れた外に出るなり駆け出す。行き先は勿論島神様の耳崖。

 行きすがら、島神様の神気が私を囲もうとするのを避け、全速力で崖まで戻って来た。

 けれども此処で止まればまた島神様の膜に捉われ、集会場へ戻されてしまう。

 今度は止まらずに力強く駆け、崖の縁で思い切り海に向かってジャンプした。


 「っ!っ!」


 空中では島神様とあの声の神様の神気が渦となっていた。

 その奔流に揉みくちゃにされ、所々に傷が出来る。

 それでも構わず私はあの声の主を探して天を仰ぎ、手を伸ばした。

 伸ばした手がミシミシ音を立てて傷付いていく。


 「っ!!」


 名前も知らない神様を呼ぶ事も出来ない。

 けれどもその手はその声を求めて何処までも伸ばす。

 流石にただの猫獣人の体で神気の渦は耐えられず、体中から血が流れ、神気の渦に流れていく。そして気を失い掛けた時、唐突に2つの神気はパッタリと消えた。

 抵抗の無くなった空中で、私は為す術も無く荒れ狂う海に落ちていく。

 それでもなお伸ばし続けた手。

 その手は気を失う寸前で白銀に輝く大きな神狼の口に咥えられ、そして私の体は上昇していった。



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