猫じゃらす
シターン!シターン!と尻尾を打つ音が聞こえます。
「そーれそれそれ♪」
そんな音に愛おしそうに目尻を下げる三巳がいます。
そしてその手には猫じゃらしが握られていました。
「んなぁー……」
「ぐるなー……」
「……」
そしてそしてそんな三巳の前には伏せた状態で瞳孔を細くする子猫獣人達がいました。
子猫獣人達は思い思い唸ったり、無言だったり、苛立ち気に尻尾を叩いたりしています。しかしその目は一心に猫じゃらしを見ていました。
「そーれ♪」
三巳が猫じゃらしを大きく振れば子猫達は一斉に飛び掛かりました。我先にという勢いで飛び掛かり、「俺んだ!俺んだ!」と言わんばかりに奪い合いが勃発しています。
本人達は真面目に闘争本能剥き出しにしていますが、それを見る三巳は完全に子猫の戯れを見るものでした。
(癒されるー♪)
元々ささくれだった思いは有りませんが癒された気分になっています。
そんな三巳ですがチラリと視線を遠くにやって冷や汗を掻きます。
その視線の先。麦畑で仕事をしている大人の猫獣人達が作業中にも関わらず、爪を剥き出しにして三巳達を、いえ猫じゃらしを凝視していたのです。
(流石猫をじゃらす天才の草なんだよ)
後で大人達とも猫じゃらそうと密かに計画しつつ、今は子猫達の相手です。
油断をすると猫じゃらしの穂の部分だけ千切れて持って行かれるので、絶妙なタイミングで手を離すのです。
「ふにゃー!」
「ふしゃー!」
宙に浮いた猫じゃらしを2人の子猫獣人が奪い合います。熾烈な空中戦です。
シターン!シターン!
しかしそれに加わらない強かな子猫獣人もいました。目は真っ直ぐ三巳の手を見ています。
「うにゅ!それ!」
その目の言わんとしている事を察知して、三巳は予備の猫じゃらしをパッと素早く取ってシュビッ!と素早く振りました。
「ぐるにゃー!」
子猫獣人は直ぐにそれに飛び掛かりますが、猫じゃらしが真上に逃げてしまいました。それを更に飛び上がって捕まえに行きます。
「あっ!」
「あー!」
三巳の手を離れた猫じゃらしを奪い合っていた子猫獣人達は、その様子に気付いて声を上げました。そして地に落ちた猫じゃらしにはもう目もくれずに新たな猫じゃらしに突進して行きます。
「うにゅ!元気が合ってとっても花丸!」
今度は二刀流で相手をしだした三巳に、子猫獣人達は満足行くまで遊んで貰えたのでした。
子猫獣人達が遊び疲れてお昼寝タイムに入った頃、今度は大人の猫獣人達が仕事を終えてゾロゾロと三巳の元へ集まって来ました。
「俺達も良いかにゃー」
子猫獣人達と違い一筋縄ではいかない歴戦の空気を醸し出す猫獣人達です。
「いーともー♪」
それに三巳は受けて立つとニッパリ笑みを深くして構えます。気分は二刀流の剣豪です。足を踏み締め、腕は前後に広げて構え、相手の出方を伺います。
「っ!」
猫獣人の1人が声にならない気合と共に地を蹴りました。
瞬間肉薄して来た猫獣人を、三巳は体を捻り、猫じゃらしでいなしました。直ぐに猫じゃらしに目が行く猫獣人に足払いを掛け、体勢を崩した背を踏み台に、他の猫獣人へと向かいます。
「あーそーぼー!」
しなやかな猫獣人達は三巳が全力遊びするに不足は無いと、とっても良い笑顔です。
対する猫獣人達も瞳孔を獲物を狙う目に変えて煌めかせました。
「しゃー!」
1人が鋭く伸ばした爪を猫じゃらしに突き立てる様に伸ばせば三巳は横にターンをして躱します。
「に゛っ……!」
1人が跳び上がり真上から両手を突き出して襲いくれば三巳は後方へ跳んで回転します。
「ぐるるぅっ!」
1人がその隙を突いて跳び掛かれば三巳は回転を生かしてモフモフ尻尾で顔を叩き落とします。
「にゃっはっはー!甘い!甘々なんだよ!」
軽やかなステップで挑発をする三巳です。人族とでは違う躍動的な動きに心躍っています。
先程からご満悦に揺れる尻尾は、しかし猫じゃらし並みに猫獣人達の気を引いてしまいました。
「ごくり……。何ていう蠱惑的な尻尾にゃ……」
「ああ……。僕たちを誘っているにゃ……」
「ふえ?ど、どしたんみんな。こあい目になってるんだよ!?」
三巳は背筋に、いえ尻尾に寒気を感じ、ブワリと毛を膨らませ逆立てます。その様子すら猫獣人達の気を引くとも知らずに。
すっかりハンターモードに移行した猫獣人達によって、三巳はこの日、ついに三刀流を会得したのでした。
「三巳別に剣の修行してないんだよ!?」
この日、噂を聞き付け集まった猫獣人達の良き遊び相手となった三巳の悲鳴が聞こえたとか聞こえなかったとか。




