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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
293/372

島民流お墓参り

 三巳は今、剥き出しの土の上に裸足で立ち、里を見下ろして吹く風を一身に浴びています。


 「風がひんやりしてて、でも日差しポカポカで、とっても気持ち良い場所なんだよ」

 「そうだろう。だからご先祖様達はここを眠る場所に決めたのだろうね」


 クロは尻尾を揺らす三巳の肩に手を置き、丘の上の中央を向く様促します。

 素直に従う三巳にニコリと笑みを見せて自身も丘の上の中央、招き猫に似た石を向きました。


 「先ずは御神体をお清めしよう」


 クロはその半球体の平になっている部分に持って来た御神酒を掛けました。


 (日本のお墓と(おんな)しだ。向こうじゃ先に水で墓石洗ってたけど)


 感心して見ている側で、クロは半分になった御神酒を置いて両手を翳しだします。

 流石にそんな風習は知らないので三巳は首を傾げ様として、しかし傾げずに留まります。


 「魔力だ」


 翳した半球の石が光輝き、そして魔力が形を帯びて浮かび上がったのは、


 「三巳のお婆ちゃんの生前の姿だよ」


 年老いて座布団に座る猫獣人のおばあちゃんでした。

 クロの言葉に三巳は耳と尻尾をピーン!と立たせてその映像を凝視します。


 「ばっちゃ!?この人三巳のばっちゃ!?」

 「そう。私の記憶の奥底に眠る一番好きだった姿。私達が忘れてしまっても島神様が思い出させてくれるのさ」

 「ほえー……じっちゃ凄い」


 神道に熱い。いえ、猫獣人に甘い島神の粋な神業に、三巳はジーンと感動します。

 どうにもこの島の猫獣人は神の力に頼り切っているようです。しかし三巳は見る事は叶わないと思っていた今世の祖母を見れて感謝しています。

 

 『お陰で此処の猫獣人達は考える力が衰えていたがの』


 しかし母獣のスンとした物言いに、三巳は戦慄します。


 「え。それって猫獣人の皆、自力って養えてるのか?」

 「少なくとも私が島にいた時よりはマシになっていたよ」


 震える三巳を安心させようと、サラリと言ったクロでしたが、三巳は即座に思います。


 (ダメ人間製造マシーン……!)


 今は亡き友人にもいました。付き合った恋人を自堕落人間に堕として行く人が。そして言うのです。


 『あの人は私がいないと駄目だから。』


 そこまで思い出して三巳は毛を逆立ててブルルと大きく震えます。若干顔が青くなっています。


 「山の民達が働き者でとっても良かったんだよ!」

 『お陰で三巳が自堕落になっておるがの』


 心の底からの叫びに母獣が半眼で言います。そしてそれは三巳の耳を右から左に流れていきました。まったり大事絶対です。


 「さて、これで今この場は母さんの、三巳のお婆ちゃんのお参りの場になった。お墓参りをしよう」


 石の上の映像は浮かんだままです。

 三巳はクロの指示でちょこまか動きながら聞きます。


 「今はって事は合同葬なのか」

 「そうだよ。守り神様から生まれたこの島の民は、守り神様である島に帰る事を望む。その方法が土中火葬なんだ。骨まで土に帰るまで焼くからか、この辺りは猫じゃらし一本生えないと言われているね。そして守り神をあまり痛めない様にと火葬する場所はこの場所のみとなっているんだ」


 三巳が魔法の雨を降らせて辺りを濡らし、クロが肉球でにゃんこ石を撫で洗い、母獣が邪魔にならない様に移動しながら見守って、乾燥していた土がしっとりした所で綺麗にするのは終わりました。


 「それじゃあ次は三巳の選んだお花達をここに飾り付けてくれるかい」

 「飾るの?花束止めるのか?」

 「そう。飾る人の思いを形にするんだよ」

 「うにゅ。やってみる」


 頷き一生懸命綺麗な布で包んだ花束を外し、布は広げて半球の石に敷いてみます。するとちょっとテーブルクロスの様になりました。

 続けて先ずは紫陽花の装飾花部分を一つ一つに分けて敷き、花部分は下側に飾ります。次に朝顔を円を囲む様に並べて行き、中心に向日葵を置きました。隙間にサルビアを斜めに立てて置いて、花束の花が全て無くなりました。


 「うーぬ。うーにゅ。うぬ!これで良し!」


 出来上がりを左にチョロチョロ、右にチョロチョロ動いて確認して三巳は納得します。出来上がりはやっぱりもっさりしていますが三巳らしい元気なものになっています。


 『とっ散らかっておるの。まあ三巳らしいが』


 母獣もその仕上がりに満更でも無さそうです。耳をピコリと動かすと、ふぁさりと尻尾揺らします。


 「そうだねぇ。母さんも喜んでいる様に感じるよ」


 クロの言葉を裏付ける様に、石の上。いえ、今は花の上の祖母の顔がニッコリとして嬉しそうに見えました。なんならニャンコ石も嬉しそうに弧を描いて見えています。


 「んふー♪ばっちゃ。三巳だよ、孫の三巳。お花気に入ってくれると嬉しいんだよ」


 尻尾を左右にワサワサ振って、寧ろ三巳の方が嬉しいと言っている様です。


 「それで?これからどうやってお祈りするんだ?」

 「うん?う~んお祈り……はしない様な?している様な?この後はここでご飯を食べるのさ。勿論ご先祖様も一緒に」

 「おお!それは楽しそう!三巳も死んだらお祈りより皆でご飯のが良いんだよ!」

 『三巳なればそうであろうの』


 万歳しながら飛び跳ね喜ぶ三巳に、母獣は然もありなんとクツクツと笑いました。


 『まあ、そうそうその機会は来ぬであろうが』

 「良いの!こういうのは気持ちなの!」


 この場にいるのは皆時の流れとは縁遠い者達です。

 三巳も山の民達からお墓参りされることは無いでしょう。しかしもしもまだ地球があるならば、きっとそこには自分のお墓がある筈だと鼻息を荒くします。


 「悲しみより楽しみの方が、三巳は貰って嬉しいんだよ」


 そう言った三巳に応える様に、祖母の映像から『にゃ~ん!』と聞こえた気がするのでした。


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