雨の日の、予感。
「おーい三巳やー」
止まない雨の中、パン屋でまったりしていた三巳の元にロウ村長がやって来ました。
「おー、どしたー?」
三巳はミクスの手で作り出されるワンコ顔のパン達から視線を外して入り口を振り返りました。
「山が落ち着かんようだ。
こりゃどっか崩れるかもしれん」
ロウ村長は雨合羽(水属性モンスターの素材で出来ている)を脱いで、軽く手で払って水気を落とすと、入り口にかけました。
そして三巳が座る隣に腰掛けます。
「おお、良い匂いだ。新作か……これは三巳か?」
調理台に並ぶワンコ顔のパン達を見たロウ村長は、パンと三巳を見比べました。
「ふふ。やっと完成したとこだよ。
味もだけど、この形がなかなか決まらなくて」
「おー見事な耳だろー」
ミクスは否定しませんでしたが、三巳はそのワンコパンが三巳をモチーフにしているとは思ってもいませんでした。
三巳と耳を勘違いして聞いています。
「そうだな。見事な三巳だ」
「うん可愛い耳だー」
まるでナルシストな発言に聞こえますが、ここにツッコミ役はいませんでした。
「それでこれは何パンだ?」
「それは食べてのお楽しみ。三巳も匂いでネタ晴らししないようにね」
「はーい」
「うん。じゃあ一つ頂こうか」
手を伸ばすロウ村長でしたが、ミクスにその手をパシリと叩かれてしまいました。
「なんだ。交換品ならあるぞ?」
ロウ村長は痛くはないけど叩かれた手を擦って、恨みがましくミクスを見ました。
「お花見には間に合わなかったけど、これはリリに回復祝いにご馳走するって約束してたんだ」
「なんだそうだったのか。それならいっそパンパーティでも開かんか?」
それなら仕方ないとロウ村長はウンウン頷いて、名案とばかりに提案しました。
「!それはいいなー!」
「ふふ。張り切りがいがあるね!」
勿論そんな名案に乗らない乗りの悪い人は此処にはいませんでした。
「それじゃ、パンは任せてね!」
そう言ってミクスは腕をまくって、パンの製作に戻りました。
「さて、楽しいパーティを実現させる為にも山をなんとかせんとな」
「そーだった。可笑しいってどんな塩梅だ?」
三巳とロウ村長は向き合って深刻そうに話します。
「小さいし、遠い感じだがな。時折地響きが起きている」
「それは……やばいな」
「地魔法探査で探ったが、近くは大丈夫そうだ」
「けど山の上が雪崩れたらここも危ないな」
「そういう事だ。流石にそこまで広範囲な魔法はワシには放てない」
「それで三巳のとこ来た訳か。
わかった。ちと待ってて」
三巳は目を閉じ耳を精神を澄ませました。
三巳から探査魔法の波動が、静かにしかし速く放たれます。
探査魔法は円形に広がって、直ぐに山全体を覆いました。
「ああ、地下水が許容値をオーバーしてる。
土もそろそろ持たないな。
位置は此処から左上、山頂まではいかない。崖のあたりだ」
三巳は魔法で得た情報をロウ村長に伝えました。
「ああ、やはりあそこか。
あそこは多いな」
三巳が言った場所は地盤が緩く、割とがけ崩れが起きやすい場所でした。
「そーだなー。一回溶岩でも流れて固まってくれればいーけどなー」
割と物騒な事を言う三巳ですが、この世界には魔法があるので、たとえ火山が噴火してもそうそう大惨事にはなりません。
「うむ。まあ自然の事だ。今は今できる事をせんとな」
「うん。
で?どーする?」
尋ねる三巳にロウ村長は顎に手を当てて考えます。
「土魔法の使い手と水魔法の使い手を集めるか」
「雨が止まないから万一の為の防衛魔法系もいた方がいいだろ」
「そうだな。帰って人選を練ることにする」
ある程度話がまとまったところで、ロウ村長は「じゃましたな」と言ってパン屋を後にしました。
外では雨がシトシトサアサア降り続いています。




