猫の習性?
三巳は今、麦畑をひたすら進み、大きな木が生える木陰が涼しそうな川縁へとやって来ました。
「あ。いた」
そして木陰を見て呟きます。
三巳の視線の先には木陰で寝転がり思い思いに寝こける猫獣人達がいたのです。
「そういえばお昼寝日和だねぇ」
良く見れば案内してくれてた斑猫獣人もいます。
そして三巳は思いました。
(猫獣人も猫)
お魚大好きなクロといい今の光景といい、もう三巳は猫獣人を人族より猫としての認識が強くなります。そしてそんな血が三巳にも流れています。
「あふ……」
気持ち良さそうに寝ている姿に三巳も何だか眠たくなってきました。欠伸が漏れてきます。
「私達も寝るかい?」
ちょっとソワッとさせて言うクロに、チラリと見上げた三巳は悩みます。
(気持ち良さそう。でも風車小屋も見たい)
チラリと風車小屋を見れば風を受けて気持ち良さそうに回っています。
しかしサワサワと揺れる麦畑の音や、遠くに聞こえるカッコンコットンという音に加え、目の前で流れるサラサラという川の流れる音が夢の世界へ誘ってきます。
「……今風車小屋行ったら誰かいる?」
「さて、どうだろう。この天気だと寝ていそうだけれど」
見上げたまま問えば、クロは更にソワワとさせて髭も揺らして言います。
「じゃあ寝る」
その様子が誘惑には負けているけれど三巳の為に我慢してくれてる感満載だったので三巳は眠る事を決意しました。決して自身が負けた訳ではない。ないったらないのです。
クロより先にそそくさと良さそうな木陰を見つけて丸まった三巳に、苦笑を漏らすのは母獣だけです。
クロは三巳が丸まるのを確認したら自身も良さそうな場所に寝転がりました。
母獣はそんなクロを守る様に寝そべり、尻尾で囲んで自身も目を閉じるのでした。
三巳が目を開けたのは日が傾いて木陰が木陰でなくなった頃です。
日差しが熱いなと目を覚ました三巳が起き上がると、寝る前までいた筈の猫獣人達がいません。寝起きでぼーとする頭で寝る前と今の景色の不一致に混乱しています。緩慢な動作でキョロキョロしちゃいます。
「おはよう三巳。今なら風車小屋に誰かいると思うけれど、行くかい?」
上半身だけ起こしていた三巳の上から、覗き込むクロが笑って聞きました。クロ達は少し前から起きて活動を再開していたのです。
「うにゅ……。行く……」
未だ眠気眼な三巳はボーっとしたままクロに手を引かれて歩き出しました。
寝る前とは違いクロが三巳の手を引いて行く様子に、クロは我が子可愛いと目尻を下げてしまいます。
そんなクロを愛しいと母獣は見守りついて行きます。川や麦畑には働く猫獣人達がいて、足元には元気に駆け回り見知らぬ猫獣人と獣神を興味深げに見る子猫獣人達がいるので、大きさはゴールデンレトリバー程度にしています。うっかり踏んだら子猫獣人が潰れてしまいそうですからね。
「すげー。獣神様だー」
「獣神様。僕らの守り神様と違う。狼だね」
「おとぎ話に出てくるのと一緒だ」
子猫獣人には遠慮がありません。思った事は素直に口に出ています。
母獣はそれらに取り合わずクロだけを愛でています。獣神たるもの地上の者に感化されないのです。
子猫獣人達もそれがわかっているので反応が無くても気にしません。
「こっちは黒猫獣人だわ」
「狼の獣神様と黒猫獣人ってまんまお伽話じゃん」
聞こえてくる会話から船でやって来た三巳達の話はまだ出回っていないようです。
母獣がチラリと斑猫獣人を見れば丁度今話しているのが聞こえました。
(まあ、寝こけておったしの)
猫獣人は自由気ままな性質を持っているらしく、直ぐやる精神が無いのだと、母獣は嘆息を漏らします。
クロは未だ眠気眼な三巳を愛でながら、懐かしい故郷の性質に居心地の良さを感じていました。
(山の民も自由だけれど、矢張りここの自由さは格別だねぇ)
ヴィーナ村は最近迄名前が無い程自由な村でしたが、それでも一応の決まりや規律は存在します。山の雪国は結束力が大事なのです。自然災害が多いので自然とそうなっているのですが、元々働き者な村民性もあるのかもしれません。
クロはどちらも心地良いと顔をほっこりさせます。
「ほら三巳。着いたよ」
「うにゅぅ……」
未だに眠気眼な三巳の手を揺すれば三巳はノロリと顔を上げて、
(風車小屋だー)
とぼんやり思いました。
(あれぇ?さっき迄お昼寝してたのになー?)
気分は瞬間移動です。それだけ起き切れてはいなかったのです。しっかり歩いて来た感覚がありません。
(お昼寝。気持ちーかったのになー)
もさりとさせた尻尾を眠たげにふわんさふわんさと揺らしてクロの手に寄りかかります。もうちょっと寝ていたい気分の様です。
クロはクスクスと苦笑を漏らして三巳を抱き上げました。
『重くないかえ』
「ふふふ。幸せな重みだよ」
赤ちゃんな三巳は抱っこ出来ませんでしたが、まだ中学生程度の背丈しかない三巳はまだまだクロには抱っこ出来る重さなのでした。
そして三巳は心地の良さにまた目を瞑るのでした。




