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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
284/372

クロの故郷へ

 ゆらゆら揺れる船の上。三巳達は岩壁を前に何もせず思い思いに寛いでいます。

 6発の花火が上がってから数刻経ちました。しかしあれから特に何も行動の変化が起きていません。

 不思議に思っているのは三巳だけの状態で時だけが過ぎていきます。


 「今日はここでお泊まりなのか?」


 正座をしたクロの上に寝そべり、毛繕いをして貰っている三巳はもうすっかりまったりモードでだらけています。

 ほこほこと嬉しそうにせっせと毛繕いをするクロは、次は我だぞと頭を寄せる美女母を撫でながら首を横に振りました。


 「もう直ぐ迎えが来るよ」


 果たしてその言葉通りに岩壁の上に誰かが来たのを気配で察知しました。

 見上げれば三角お耳がピョコンと出ています。


 「茶虎と斑と灰色だ。父ちゃんと毛色が違う」


 色は違うけれどもそれが確かにクロと同じ猫獣人のものだとわかりました。

 三巳は三色の耳とクロの耳を交互に見比べます。


 「ふふふ。私達は獣人の中でも沢山の色を持って生まれる珍しい種族なんだよ」

 「ほへー」


 もう一度見比べてから自分の耳を押し下げて確認します。

 残念ながら見る事は出来ませんでしたがちゃんと狼の耳です。犬の耳かもしれないけど。そう思おうとして思いとどまりました。美女母に鋭い眼差しで笑みを向けられたからです。


 (母ちゃん誇り高い狼の神だからなー)


 冷や汗を一つ掻いて視線を逸らす為に岩壁の上を注視する事にします。

 すると三つの耳は顔を出す事なく縄梯子を勢いよく降ろしました。梯子の下は船長の風の魔法で船に取り付けられます。


 「さて、ここはこれ以上停泊しない。行く者は帰れる保証も無いが一応二月後にはまた船は来る。覚悟して下船する様に」


 そして船長は物々しく言いました。

 何だかちょっぴし怖くなる三巳です。そういえば猫は縄張り意識が強い生き物だなと、猫パンチで追い遣られる自分を想像してしまいます。


 「私も島を出て随分経つからねぇ。知り合いはもう誰もいないだろう」


 少し毛が膨らんでいた三巳をヨシヨシと撫でながらクロは眉尻を下げました。

 それを聞いた三巳はちょっぴし寂しい気持ちになります。


 (三巳も、向こうで知り合いが次々鬼籍に入るのは辛かったんだよ)


 お婆ちゃんまで経験しているという事は、見送る経験も沢山して来たという事です。

 それを思い出した三巳はクロにギュッと抱き付きました。慰めになれば良いとギュウギュウに抱き締めています。


 「ふふ、ありがとう三巳。私は大丈夫だよ、もう随分と昔の話だから」

 「うぬ……」


 もう少しギュッとしていたかった三巳ですが、どうやら梯子を登る人は三巳達以外はいない様です。


 「三巳ちゃん達は此処で降りるんだろう?私達としては幾らでもいて欲しいけど、あまり長く降ろしてはくれないんだ」

 「ぬ。そーなのかー。それじゃもう行くんだよ。ありがとー船長」


 名残惜しい気持ちもありますが、クロの実家に行けないのは困るので梯子に手を掛けスルスルと登りながら船に残る人達に手を振り別れを告げました。

 三巳を先頭にクロ、美女母と続きます。

 岩壁の上に辿り着くと茶虎の耳を持つ猫獣人が引っ張り上げてくれました。


 「ありがとー」


 お礼を告げれば茶虎獣人は目をパチクリさせてから破顔します。続けてクロも同じく上げて貰います。しかし美女母はそれより早くクルリと跳ね上がって自力で登り切りました。

 美女母ならば梯子など使わなくとも岩壁を飛び越えられたのです。クロを守る為にわざわざ登っていただけなのです。


 「同種に人間……いにゃ、違うにゃ。これは……」


 クロを見て美女母を見て来訪者の確認をしているのは灰色猫獣人です。慣れている風に確認していた灰色猫獣人は、美女母をさらりと確認して終わるつもりだったのに、その奥底に感じる匂いを察知して瞠目してしまいました。


 「これは、白狼神様。という事は貴方はクロ殿にゃ」


 そしてそう言いながら片手を胸に当ててお辞儀をします。

 それに倣って茶虎猫獣人と斑猫獣人も同じ仕草でお辞儀をしました。


 「???父ちゃんと母ちゃんを知ってるのか?」


 ビックリするのは三巳です。もう随分と昔に、それこそ知り合いは既に鬼籍に入っている位昔に島を出たと聞いていたからです。


 「勿論にゃ。貴女は娘さんにゃね。匂いが同じにゃ」

 「うにゅ。三巳は三巳という。それで何で知ってるんだ?」

 「それはもう先祖代々伝え聞いているからにゃ」


 灰色猫獣人がニコリと笑って言うと、クロは苦笑を漏らしました。


 「君はもしかしてアッシュの子孫かな」

 「そうにゃ。ご先祖様からもしもクロ殿が戻る事があれば家族の様に迎えて欲しいと伝え聞いてるにゃ」

 「アッシュ……。うん、ありがとう」


 クロは胸にジーンとくるものを感じ、少し目が潤みます。

 目を閉じれば懐かしい友人達の姿が鮮明に映し出されました。

 そして目を開けて見れば成る程、3人とも友人の姿に何処か似ています。世代を超えてまた会えた様に錯覚しますが、その魂が別者なのは承知しています。


 「クロ殿の家は皆で守って来たにゃよ。いっぱい寛いで、それでたまにご先祖様達のお話聞かせて欲しいにゃ」

 「うん。うん。勿論だとも。ありがとう」


 こうして三巳達はクロの故郷の島へと歓迎を受けて上陸したのでした。


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