梅雨の日の山登り
シトシト、サアサア。
今日も今日とて梅雨の雫が降っています。
「むっふふー。
温泉施設が出来たから泥んこになっても大丈夫ー♪」
雨粒を全身で感じながら、三巳は上機嫌に跳ね回ります。
「ピーチャピッチャ、ジャーブジャーブ、るんるーらるん♪」
前世の子供の頃の歌を歌いながら、軽快なステップで水溜りを踏んでいきます。
上がった水飛沫をさらに風魔法の遠心力で上に上げて、光魔法による光の反射を見て楽しんでいます。
「るんたったー♪」
樹木の少ない山頂付近まで上機嫌にお散歩しながら楽しみます。
時折水飛沫が葉っぱに当たってさらに飛沫が四方八方に広がるので見ていて飽きません。
「ふひひー、みんなも濡れ鼠だー」
途中すれ違う動物やモンスターと戯れます。
動物は嫌がって逃げますが、モンスターの中には一緒に遊んでくれる子もいました。
一緒に水溜りをパシャパシャバッシャーン。
上がった水飛沫を巻き上げて、光の反射でキラキラを楽しみます。
上へ上へと上がって行くと、とうとう雲の中に入ってしまいました。
「うーん。流石に雲の中だと見づらいなー」
雲の中の光はそれはそれでぼやけた感じが綺麗で面白いですが、ズンタカッタタと登っていたらいつの間にか周りに誰もいなくなってしまいました。
「くんくん。
んー、もう近くにいないなー。
おっきい匂いと一緒だからお母さんモンスターのとこ戻ったみたいだなー」
三巳は辺りの匂いと気配を探って、皆親元に帰ってしまったと気付いて寂しくなりました。
耳をしゅーんと垂らして項垂れます。
「ま、いっかー」
そしてすぐにケロリと復活しました。
一人に戻った三巳は雲で視界が悪い中、足取りに迷いも危なげも無く軽快に山頂に向かって歩きました。
「くーもくーももーくもくー。
生き物の蜘蛛じゃーないんだよー♪」
一人でも楽しく即興で歌を作って調子っぱずれに歌います。
「あまぐもあまぐもばーちゃばちゃー。
雷光ってごーろごろー♪」
雲の中ではまるで三巳の歌に合わせるかの様に雨粒が荒れ狂い、そこかしこで稲妻がゴロゴロピシャーン!と光っています。
時折稲妻が三巳に直撃しますが、その度に三巳は可笑しそうに笑いころけます。
「むむー。フカフカ尻尾ならもっと帯電して面白そーなんだけどなー」
雨でビチャビチャにしぼんだ尻尾をつまらなそうに振ります。
魔法で一時フカフカにしても直ぐに雨でしぼんでしまうのは明白です。
ですので三巳は尻尾を乾かす事は諦めました。
そうして時折稲妻を直撃させたり、むしろ近くを走る稲妻に突撃したりしてズンズン山を登って行きました。
しばらくすると上の方が明るくなってきて、そしてとうとう雲の上まで出てきました。
「おおー」
周りを見渡すと黒い雲が一面に漂っています。
三巳はモワモワの雲を足に絡ませながら、上ではなくて横に歩いて行きました。
「まるで雲の上を歩いてるよーだなー」
両手でバランスを取る振りをしながら横に横にと歩いて行きます。
「あ」
しかし途中で崖にあたってしまいました。
「ま、もーいーかー」
ある程度楽しんだ三巳は、横歩きを止めて山頂に向かって歩きます。
「うえはーあおぞーらーはれてーいるー♪」
雲の上は晴天が広がっていてお散歩日和です。
途中止まって体ごと尻尾をブルブル震わせて水気を取りました。
「服はブルブルじゃ取れないから魔法でチョイっと」
服は魔法でササっと乾かしました。
そしてまた山頂に向かって歩きます。
山頂までは木も少なく、視界を遮るものがありません。
まっすぐトコトコ進んで直ぐに山頂に着きました。
「とーうちゃーく」
軽くジャンプで山頂に登りました。
そしてくるんと片足回転で周囲の景色を見ます。
「おー、上から見る梅雨雲の稲光も面白綺麗だなー」
黒い暗雲の中から明るい光がピカッピカッと光る様はとても綺麗で迫力があります。
三巳は日が沈むまでその稲光を堪能してから村に帰るのでした。




