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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
279/372

砂浜の終わりまで歩いてみよう♪

 見渡す限り砂浜で出来ている島で、三巳はその砂浜が何処まで続いているのか探検中です。


 「サクサクサクサク」


 何時もの如く素足で歩く三巳です。平気な顔で歩いていますが通りすがりの人は熱くないのか心配そうに見ています。


 「熱いなー」


 やっぱり熱い様です。火傷をしない体だけど熱さは普通に感じています。


 「靴を履くかい?」


 クロが聞けば三巳は首を横に振ります。


 「靴を履くと歩き難いんだよ。あと上手く衝撃逃せないの辛い」


 人型であっても元々は獣な三巳です。前世では靴を履いていたから忌避はありませんが、肉球で走り回る感覚に慣れてしまった今は素足が楽なのです。


 「水のとこ歩いてるー」


 熱さから逃れる為に三巳は浅瀬を歩くことにしました。

 ジャブジャブさせてあるく砂浜は冷たくて気持ちが良いです。ふと獣型になりたい衝動に駆られますが、人目があるのでグッと我慢です。代わりに尻尾でバシャバシャさせながら歩いて行きます。


 「にゅーん。まだまだ続く」


 前を向いても後ろを向いても白い砂浜と薄っすら水色の海が続いています。


 「可笑しいなぁ。カーブ描いてるのにそのカーブがずっと終わんない」


 三巳は不思議そうに首を傾げます。


 「いつ気付くかのう」


 その後ろから美女母がクツクツと含み笑いで面白がっています。世界を転々としてきたのでこの島がどういう島なのか知っているのです。


 「教えてあげては駄目かい?」

 「この程度、己で気付かねばの」


 勿論一緒に転々としてきたクロも知っています。

 甘々なクロに反して厳しい美女母です。飴と鞭です。

 クロも教育方針には口を出しません。心の中で頑張れとエールを送るに留めます。


 「にゅー?にゅーん。にゅあー?」


 バシャバシャチャプチャプ。進んでも進んでもカーブを描いた砂浜は続きます。


 「にゅおーん。にゅぐーん」


 最早意地になりつつあります。絶対に果てを見つける意志です。

 若干早歩きになって、途中で休憩を挟みつつも先を進み続けます。

 その様子をクロは可愛いと目尻を下げながら、美女母は良い加減に気付けと目尻を上げながら見守っています。


 「にゅあ!?」


 そうこうしているうちにどうやら一周してしまった様です。

 遠く遠くに三巳達の乗ってきた船を見つけたのです。


 「一周しちゃったんだよ!?」


 驚いて振り返ればニコニコ笑顔のクロと、据わった目の美女母が目に入りました。

 思わずビクリと毛を逆立てて膨らませます。


 「やっっっと。気付いたかのう」


 最後まで気付かなかった三巳に呆れと情けなさでおどろおどろしい空気を醸し出す美女母に、三巳はピャッとその場で飛び跳ね3歩後ろに下がりました。


 「グ、グランみたいなのもあるし!もしかしたら瓢箪みたいな形だったかもしれないし!初見で気付くのは無理なんだよ!?」

 「只人ならばの。して、三巳は何であったかのう?」

 「うぐっ。い、今は、神気隠してるしっ。仕方ないやつ!……多分……」


 言い訳をしながらもジリジリと後退して行く三巳に、美女母はやれやれと嘆息します。


 「では折角の機会故、地理把握能力向上していくとしようかの」

 「うみゃ~ん……」


 教鞭持った教育ママな目でニヤリと笑われて、三巳の耳も尻尾もシューンと垂れ下がり叱られた子犬の様になるのでした。


 という訳で“一人で観光案内出来るもん”という名の試練勃発です。

 試練内容は道を人に尋ねず観光を全うし、夜になる前に宿へ戻るというものです。


 「人に……聞けない」


 三巳が望むのは美味しいと楽しいです。

 美味しいは匂いでわかるとして、問題の楽しいで悩んでしまいます。


 「島の事知らないのに、観光ガイドも無いのに」


 美女母の無茶振りに三巳も困惑を隠せません。


 「さて、三巳は我等を何処へ導いてくれるのかえ?

 のう、クロや。楽しみだのう」


 と意地悪そうにクツクツ笑って言う美女母です。


 「そうだねぇ。楽しみだねぇ」


 と本当に心の底から楽しみなクロがニコニコ笑って言います。


 「うぐにゅっ」


 後ろからの種類の違うプレッシャーに三巳は言葉に詰まります。


 「ま、先ずは腹拵えなんだよ!」


 結果、食欲に逃げる三巳がいるのでした。

 なお尻尾は終始落ち着きなくソワソワしていたりするのはご愛嬌です。

 兎にも角にも早速鼻をフンスフンスさせて一番美味しそうに感じたお店をピックアップです。歩き過ぎてお腹がキューキュー鳴いているのでご飯の匂いはとても魅力的です。

 折角なら嗅いだことの無い匂いに行こうと入ったお店は、ヤシの木と葉っぱで作られた簡素な建物でした。

 メニューは先に会計で済ませる形式で、写真も絵も無く店員の説明だけで決めて空いている席を探します。


 「ご・は・ん!ご・は・ん!」


 席に着き、フォークを持って準備万端な三巳がご機嫌に尻尾を振り振り大人しくなく待ちの時間も堪能です。

 暫く待てばウェイトレスの人が大きなプレートを手にやって来ました。

 三巳はプレートに目が釘付けで涎が出そうなのを必死に止めています。


 「うはー!美味しそうなんだよっ」


 目の前に置かれたのはロコモコちっくなプレート料理でした。

 平たいお皿に富士山型に成形せれた黄色いライス。その周りにハンバーグの様な物、巨大な半熟目玉焼き、細かく砕かれたチーズが掛かったサラダ、そして焼かれたバナナが盛り付けられています。

 三巳は早速ハンバーグの様な物を一口食べ、そして黄身を割って蕩け出した半熟たまごを乗せてもう一口食べました。


 「んまーい!」


 そうすれば、もうご満悦な三巳の出来上がりです。


 「牛でも豚でも無い、初めて食べたお肉の味なんだよ」


 それもその筈、小さなこの島では牛の放牧も豚の放牧も難しいのです。なので別のお肉を使っているのですが、良い感じにスパイスが効いていてとても美味しいのです。

 美味しそうに平らげていく三巳をクロが楽しそうに見て、それを更に愛情深い目で美女母が見て、とても幸せそうな家族がそこにあるのでした。


 (んまんま!んふー。これなら母ちゃんも満足だろー)


 そう思いながらチラリと美女母を見れば、クロを見ていた目を三巳に移し、そして意味深に目を細めました。


 (わ、笑ってるよーで笑ってないんだよ……)


 それはそうでしょう。

 三巳は今、自分の力だけでドーナツ島の地理を理解し、両親を観光案内せよと試練を与えられているのです。

 匂いでわかる美味しい食べ物はやれて当然だと、次はどんな名所に連れて行ってくれるのかと、美女母の目は言外に語っているのでした。


 「つ、次は……。食べたあとは……」


 三巳は目をウロウロさせながら冷や汗を掻いてしまいます。それでも食事の手だけは止まっていませんが。


 (ど、どーしよ。どーしたら。ていうか観光ガイドも旅行雑誌も無しに知らない土地紹介とか無理難題にも程があるんだよ!?)


 折角転生してのんびりまったり暮らしていたのにまるで会社員に戻った気分です。

 いえ、仕事では無理難題を言われても下調べ出来る分マシだったと初めて思えました。


 (ご、ごはん……もーすぐ食べ終わっちゃう)


 ウロウロソワソワし、焦っている時です。緩やかな風が三巳の頬を撫でていきます。

 何処からか流れて来たその風は、熱い筈の島にあって冷たく澄んでいるものでした。


 「うにゅ?」


 少しヒンヤリした頬を触り、風の来た方を見てみます。けれどもそこにはアイス屋さんもカキ氷屋さんもありません。氷の魔法を使った様子もありません。

 三巳は風の来た方を探る為に、神経を研ぎ澄まして風の通り道を感じ取ることにしました。

 すると先程までは気にしなかった風の流れが見えて来ます。

 風はあらゆる方向からあらゆる方向へ流れて行っています。しかしその中にあって一定の流れを持つ風が有りました。


 「母ちゃん父ちゃん。次はあっち行ってみたい」


 三巳はその風が来る方を指差しました。

 それに美女母は目を細めて笑います。どうやら正解を引きそうな気配に三巳の気持ちが上がっていきます。


 「それはどれ程の距離かわかるかえ?」


 しかし美女母は訪ねます。

 正解っぽいのにすんなりいきそうにない気配に、意味がわからない三巳の尻尾が不安気に揺れます。


 「え、えと……んと……」


 一生懸命風の流れを読んで大凡の距離を測ると、チロリと美女母を見上げました。


 「多分、島の真ん中辺りなんだよ」

 「そうじゃの。して、今日は島を一周するのにどれ程掛かったかのう」

 「えと、半日位」

 「じゃのう。その中心を往復するのにゆっくり出来る時間はありそうかえ?」

 「あ。」


 そうです。

 慌てて三巳が見た空は、もう夕焼けに染まっていたのでした。


 「我は夜になる前に、と言うた筈だが。本性に戻るつもりかえ?いやそうであってもゆるりとする時間は取れるであろうか。のう?三巳よ」

 「ごめんなさい無理です」


 素直にテーブルに両手と額を付ける三巳に、美女母は眇めていた目を呆れた目に変えて見やります。

 

 「では三巳よ。我の試練は何であったかの」

 「夜までに観光終わら……あ」


 そうです。別段“今日の”夜とは言われていません。島にはまだ明日もいます。

 それに気付いた三巳は、今日はもう帰って寝る事にしたのでした。

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