第一停泊島到着!
嵐も渦潮も海の病気も乗り越えて、やっと予定の第一停泊島に辿り着きました。
三巳の乗る船は色々な島を順番に回る客船兼商船です。2つの地点しか巡らない船もありますが、大抵はご近所さんにしか停まらないので、今回の様な遠くて一般的ではない島を行く場合は巡回船に乗るのです。
一緒に乗っていた船客達の中にもこの島が目的地の人もいます。
「パッちゃんとはここでお別れかー」
商人のパドウィックは売買の為に暫く残るのです。
「そんな顔をしないでおくれ。後ろ髪引かれてしまうよ」
飼い主の外出を見送るペットな目をして見上げていた三巳に、商会の人達はグッと胸を詰まらせました。
「せめて最後に何かお買い物したいんだよ」
「それならこの先で店を開くから見ていっておくれ」
「うぬ!行く!」
パドウィック商会とのお別れを済ませ、その他にもこの先は乗らない人達にもお別れをして少しの間島観光です。
停泊している島はグランより大きく、しかし山らしい山は見当たらない島でした。代わりに砂浜がとても広く、浅瀬も遠くまで続いています。
「見渡す限り海ばかり」
左を見ても、右を見ても、何処までも続く白い砂浜に、三巳は感嘆の溜息を漏らしています。
足元を見れば砂浜と海との堺で海水が寄せては離れてを繰り返しています。そしてその波を遮る様にあるのは島に来るのに乗って来た小型の手漕ぎボートです。
この島は浅瀬に広く囲まれている為に船は遠くに泊めて、三巳達は小さな舟に乗り換えて上陸しているのです。
「三巳達の乗って来た船小さく見える」
「そうだねぇ。まるで絵画を見ているみたいに綺麗だね」
「うにゅ。とっても素敵」
楽しそうに尻尾をふわっさふわっさと振る三巳に、クロも目を優しく細め、髭をそよがせて嬉しそうです。
美女母は獣姿になれそうな場所が見当たらず、少しゲンナリしています。本当は美女母の姿より母獣の姿の方が落ち着くのです。
「滞在予定は3日だったかの」
しかし人型ならクロと腕を組めるという嬉しさもあります。と言う事で美女母はクロと腕を組んで離しません。
「そうだね。先ずは宿を決めよう」
クロが美女母の頭を労わる様に耳を擦り合わせ言いました。
勿論否やが無いので宿屋へGOです。
「ようこそドーナツ島へ!一部屋ですか?二部屋ですか?」
宿屋へ着くと、受付の人が滑らかな口調で話してきました。
三巳はそれに目をパチクリさせて驚きます。
「違う言語って無いのかな?グランの人達は片言っぽいのに」
国が違えば言語が違うのが三巳の中で常識になっています。なんなら同じ日本語なのに方言になるとちんぷんかんぷんになるくらいです。
「言葉は神族から伝わっているという説があるからね。神族は同じ神界の出だし、世界に万遍なく広まっているからじゃないかな?尤も方言はあるから伝わり難い国もあったりするよ」
受付を進めながらクロが説明してくれます。
三巳は成る程と納得しました。そして同時に神族語と日本語と混ぜ込ぜで話していた自分に今更ながら気付きました。
本当に今更なので顔に出ていた三巳は、クロと腕を組みっぱなしの美女母に呆れと小ばかにした目で見られてしまいます。
「……」
「……」
お互いに無言ですが言いたい事は伝わっています。
曰く、「うちの子はホンに抜けておるのう……」と美女母。「つ、伝わってるんだから問題無いんだよっっ」と冷や汗を掻く三巳です。
そんな無言のやり取りを見ていなかったクロは、バッチシ見ていた受付の人の苦笑に首を傾げました。
「それでは一部屋で受付します。こちらの鍵はお帰りの際にお返しください」
疑問に思いながらも鍵を受け取ったクロが三巳達に振り返ると、三巳はわざとらしくニパリと笑顔になりました。
「宿も取れたから島観光したいんだよ!」
そしてクルリと回転して逃げる様に宿の外へと駆けて行くのでした。
「ところで"ドーナツ"島って、ドーナツが名物なのかな?」
ジュルリと涎を滴らせそうな勢いで、頭にミスターなドーナツ達を思い浮かべる三巳なのでした。




