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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
275/372

安全な航海

 船旅を再開してから十数日が経ちました。

 船は相変わらず海の上です。


 「停泊予定の島はまだなのか?」


 三巳は飽きもせず釣りをしています。そしてまったりな空気に欠伸をしながらのんびりとした口調でクロに尋ねます。


 「大分流されていたし、途中の渦潮回避でまた遠回りしているからねぇ」


 クロは途中の災難を災難とも思わない口振りで髭をそよがせています。


 「うーにゅ。あの渦潮は凄かった!操舵の人の回避が神がかっていて感動したんだよ!」


 幾つもの渦潮が横に広がり通せんぼする形で突如発生したエリアで、ビックリビクビクする三巳を他所に船員さんは皆冷静に対処していました。

 特に操舵の人が渦潮と渦潮の間を擦り抜けた瞬間など、三巳は興奮して拍手が鳴り止まなかった位です。


 「いやぁ、三巳ちゃんに褒められると照れるな」

 「あ!操舵の人!こんちわ!」


 三巳が絶賛しているタイミングでたまたま通り掛かった操舵の船員です。筋肉隆々の口髭と顎髭の似合うナイスミドルです。


 「こんにちは。今日は釣れてるかい?」

 「今日もさっぱしだなー」


 借りている桶の中身を見せると、操舵の船員はクッカッカと歯を見せて笑います。


 「だろうな。この辺りは大型のモンスターがいやがるから、普通の魚は海底近くに引っ込んでやがんのさ」


 操舵の船員の言葉に泡を食うのは冒険者であるブラインです。


 「おいおいマジかよ!それを早く言え!」


 慌てて竿を引っ込めるブラインに、操舵の船員はニヤリとします。


 「釣り程度で釣れるモンスターなら釣りする前に見つかって海底に引き摺り込まれてんぜ」


 青褪めるブラインに、エイミーが小突きました。


 「彼等はプロなんだからその辺は考えてるわよ」


 冷静なエイミーにブラインは「でもよぉ」と食い下がります。一応リーダーなのでパーティーメンバーの安全確保に余念がないのです。


 「姉ちゃんの言う通り。俺達に任せとけ。ダメな時は言うからよ」

 「まあ、それなら良いけどよ」


 渋々引き下がるブラインをなお笑っていた操舵の船員ですが、不意に真面目な顔をしました。


 「でもよ。何か変なんだよな」

 「変って?」

 「本当ならもう何度もモンスターに遭遇してんのに、気配は感じるけど近寄る様子がありゃしねぇ」

 「?何だそれは」


 急に真面目な少し張り詰めた感のある空気が出来て、三巳はギクリとします。


 (もしかして……母ちゃんと三巳乗ってるから皆遠慮してくれてるのかな……)


 船とモンスターが出会えば戦闘必須でしょう。

 そうなっても三巳達親子は手も足も出せません。何故ならどちらの味方も出来ないからです。嵐の時の様にどさくさに紛れて眠って貰うのも難しいでしょう。

 もっとも、その嵐の時の経緯が元で遠目で見られているのですが。


 「何かの前触れじゃなきゃ良いけどな」


 そう言い残して操舵の船員は操舵室に行ってしまいました。これから交代の時間なのだそうです。

 何ともフラグっぽいセリフに戦慄する人達です。しかしそれらは杞憂に終わる事でしょう。

 雷に打たれて眠らされたモンスターが、『あの船ヤベェ』と噂していますから。


 「俺、今日はここで止めとくかな」


 そう言ってブラインはそそくさと船室に戻って行きました。勿論エイミーも一緒です。戻って武器や防具のチェックをするのです。

 残ったのは三巳とクロとパドウィックです。


 「パッちゃんは良いのか?」


 三巳はパドウィックを見て聞きました。


 「私はしがない商人だからね。今更足掻く何かは無いよ。それより1匹でも多くの魚を釣り上げる方が重要さ」


 まさに商売人根性です。

 三巳はその潔さが格好良く映り拍手しました。


 「三巳ちゃんこそ良いのかい?」

 「うぬ。三巳も今更足掻く事ないしな」


 そして今仕入れた格好良い事をドヤ顔で言ってみるのでした。


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