ミッションインポッシブル?
大荒れの大海原で、三巳は今とっても神経を研ぎ澄ませています。山でも中々に無い集中振りです。
(突然消すのは勿論無し。何処かへ追いやるのも急には無理だし、確か台風ってお天気お兄さんやお姉さんが気圧である程度の進路を予測してた筈。
って事は気圧を読めない三巳がやると不自然になっちゃうかな?)
転覆しちゃうんじゃないかなっという位の水飛沫を浴びて揺れる船の中、三巳は仁王立ちで両耳の下辺りを押さえて考えています。
その様子を母獣は寝そべり欠伸を掻いて見守り、クロは目をキラキラさせて応援しています。
(出来るのは船が壊れたり沈んだりしない様にタイミングを合わせて波を乗り切る位かなぁ。何か、あの、波乗りの人達みたいな感じで。何て言ったっけ……)
頭に思い描くのはウェットスーツを身に包み、細長い板に足を乗せて波を乗る姿です。
そう。三巳は今サーファーになろうとしているのです。
グラグラグラリ。波に揺れる船。勿論その船は舵取りをされています。船員が波に飲まれない様に細心の注意を払って嵐を乗り切ろうと頑張っているのです。
三巳はその波の動きと舵取りの動きと嵐の行く道を全て感じ取ろうとしています。
(嵐はこっちに流れてる。大きさは……とっても大きい。今いるのはまだ入り口だからこれから中に入っちゃうと酷くなるんだよ。
船は……。嵐の中心を避けるのかな?進路がさっきと違う。今のところ波を上手く避けてるけど、このまま避け続けられるのかな?プロだからいける?)
そう安心した瞬間です。予期せぬ波が出たのでしょう。船があわや飲まれそうになりました。しかしその前に波が左右に爆ぜたので、三巳はビックリして耳と尻尾の毛が膨らんで、真上にビン!と立ちました。
「な、今の、魔法??」
『ああ、そういえば幾人か乗っておったのう』
「ああっ!今の衝撃で押し流されちゃってる!」
折角船員が嵐を避ける進路を取っていたのに、今ので大分嵐側へ流されてしまっています。
船室の外からは船員の怒鳴り声が響いています。
曰く「勝手な事をするな」です。
それはそうでしょう。プロの経験と技術で計算をしながら航行しているのです。予期せぬ動きをされては計算が狂ってしまいます。
それに返すのは船客でしょう。曰く「あのまま飲まれるなんて冗談じゃない」です。
それもそうでしょう。経験なんてない人にはそれが大丈夫だと確信なんて持てないのですから。
現に三巳も今の波は飲まれると思っていました。
「これは……。更に難易度が上がったんだよ……」
三巳は珍しく戦々恐々と震えています。
だって船員の計算も考慮に入れなくてはならなくなったのです。
『どうした三巳よ。早よ何とかせぬか』
「うぐぅっ。頑張るんだよっ」
クツクツと愉しそうに笑う母獣に、三巳は歯軋りが立ちそうな程口を真横に引き結びます。完全に寛いで尻尾をパタリ、パタリと優雅に布団に落とす様は三巳にやる気を起こしました。母獣ならきっと何とか出来てたんだろうなと思うとちょっぴし悔しいと感じています。
(乗せられた気がしないでもない)
今更気付きますが後の祭りです。
もうやるっきゃないので三巳は大の字でしっかりその場に立つと、普段しない位に神経を研ぎ澄ませました。
(舵取りの人は指示する人に従ってる。なら三巳も良く聞くんだよ)
本気出した三巳の耳はとても良く聞こえます。遠い操舵室の声もクリアに聞こえています。
(北緯30度……?ってどっち!?)
しかし聞こえても意味を理解出来なければ意味がありませんでした。
思い出してみれば、映画の船長さんはよく「おもかじいっぱい」と言っていた気がします。意味はわからずとも大きく舵を取っているんだとわかった気でいました。
(船乗りって難しいんだよ!?)
今更勉強しても間に合わないと判断すると、直ぐに方針を舵取りの人のみに神経を集中します。
(えっと……左にちょっと……波は……上手く避けれそう。でもその後ろに船を狙っているモンスターがいるんだよ。船員さんは……え?気付いてない!?レーダーは無いのか!?あ!レーダーってこの世界の技術じゃまだ無いのか!気配探れる人は?いるけど気付いてない!)
そうこう考えている内に船は波を一つ乗り切りました。
その一瞬の隙を突いてモンスターが大波を起こそうとしています。
(ごめんなんだよ!ちょっち眠ってて!)
三巳は躊躇わずモンスター目掛けて雷を落としました。
雷雲から落としているので人にはバレていません。
ただ思ったより近くに落ちたので雷光が眩しかったのが玉に瑕です。
三巳の狙い違わず雷はモンスターに直撃して気絶させる事に成功しています。浮いて来ちゃうと人に攻撃されちゃうかもなので、あえて海の底に沈む様に働きかけます。
(ふぅ。これで良しっと……。ってまた次の波が来るんだよ!?)
一つ終わってもまだまだ嵐は抜けません。
三巳の気が抜けない1日は始まったばかりなのでした。




