グランのお宿はどんなとこ?
自然に閉ざされた国とはいえ、グランにも宿屋はあります。人数が少ないだけで他所の国の商人も来るからです。
そんな訳で三巳達はグランの宿屋へやって来ました。
「海辺に建つ素敵なホテルだねぇ」
「うにゅ。前来た時は顔役の人の家に泊めて貰ったからこんなに素敵って知らなかったんだよ」
そうです。前回は顔見知りなレオがいたので泊めてくれていたのです。
けれども今回は家族旅行です。流石に泊めて貰う訳にもいかないので宿屋に来たのです。
「うにゃ……。お値段もいーお値段なんだよ……」
受付をした三巳はビックリ仰天で毛を膨らませます。グランの宿屋は素敵な分高級ホテル並みな宿代だったのです。
リファラやウィンブルドンで稼いだお金はあるけれど、それはお小遣いの範囲です。
三巳はお財布の中身を見て耳も尻尾もショゲらせてしまいました。
「ふふ。大丈夫だよ、三巳。家族旅行の費用はお父さんの私がちゃんと出すからね」
苦笑するクロは、シオシオの三巳の頭を撫でてお財布を出しました。お父さんらしい事が出来るのが堪らなく嬉しいのです。
「2泊お願いします」
「ハイナ。2人部屋二ツト、4人部屋一ツ。ドッチニスルネ」
「おや。4人部屋があるのかい?ならそれでお願いします」
悩まず即決したクロでしたが三巳も皆一緒が大好きなので否やは有りません。むしろ嬉しさから目を輝かせて尻尾も小さくブンブンと振っています。大きく振ると大惨事なのでそこは自重です。
「マイドアリ。鍵ハコレネ。部屋ハ横ノ通路進ンデ突当タリ左ノ青ノ扉ヨ」
「ひゃー!旅行っぽい!凄い!楽しいんだよ!」
クロが鍵を持たせてくれたので受け取った三巳はピョンコピョンコと跳ねて喜びを表し、そしてそのままの勢いで奥へと進んで行きました。
「レオ!こっち!早く早く!母ちゃんと父ちゃんもー!」
3人を置いて先に進んでいた三巳は、振り向き大分離れていた事に気付きます。そして置いて行ってしまったと思い、その場に留まり両手を振って呼び寄せました。
その姿に美女母は呆れて目を細め、クロは微笑ましく笑い、レオはヤレヤレと言いたげに苦笑をしています。
「レオー!」
「はいはい。今行くから良い子で待ってろよ」
三巳が口を尖らせ始めたのでレオは心持ち歩幅を大きくし、速度も早めて歩きました。
その後ろをクロが歩き、その横を寄り添う様に美女母も続きます。
レオが目の前まで来ると、三巳はもう離れない様にしっかりと手を握りました。そしてそのまま引っ張って先へと進みます。
「おいおい。そんなに慌てなくっても部屋は逃げねーぞ」
「にゅぅー。わかってるけど久し振りの家族旅行だから興奮が止まらないんだよ」
フンスフンスと鼻息が荒い三巳です。家族旅行なんて前世まで遡ってももうずっと行っていないのです。
レオは三巳の生きた時間の長さを思い、それ以上野暮な事を言うのは止めました。
「なら、楽しまねーと損だな」
空いてる方の手で三巳の頭をポンと叩いて、そして耳の裏を優しく掻きながら言います。
「にゅあ!うにゅ!いっぱい遊ぶんだよ!」
そう言うと三巳はレオの手を引っ張って部屋の前へとやって来ました。
「ふわーっ。部屋ごとに扉の色と模様が違うんだよ」
「だな。ここは空と海って感じか」
「うにゅ。ここヒトデがいるんだよ」
扉全体を見渡すレオに続き、三巳も下から見て指を指します。
「ああ。それヒトデか。ならこっちは差し詰め雲ってとこかね」
三巳の指した場所を見たレオは、上を見てフワリとした白っぽい絵に納得しました。
「はあー。扉だけでワクワクさせてくれるから旅行マジック恐るべしなんだよ」
とはいえずっとそこに立っている訳にもいきません。
美女母とクロが追い付いたので鍵を開けて中へと入っていきました。そしてその景色にまたドキドキしてきます。
「はわー!窓広くってでっかい海の絵みたい!」
入った部屋は左右に二つづつベッドが置かれており、その奥に小さなテーブルと椅子があり、その後ろは大きな窓になっていました。しかも窓の外は一面の海です。ウッドデッキから砂浜まで直で行けます。
そのウッドデッキにはハンモックもあり、まさにリゾート気分を満喫出来る作りになっていたのでした。
「ああっ、どうしよう。ドキドキし過ぎて心臓破裂しそうなんだよ」
思わずレオから手を離して両手で胸を抑える三巳です。
その姿にクロはここに来て良かったと思い、レオも愛おしい気持ちを感じるのでした。




