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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
262/372

導き出した答えは

 山では三巳が居ない日々が普通になりつつあります。

 何故ならここ数年不在の日が多かったからです。


 『最近三巳がお出掛けしてもいってらっしゃいが軽くなってる気がするんだよ』


 てってかてってかと大きな体を揺らして歩く三巳は今山にいません。


 「それだけ不安が少なくなっているんじゃないかなぁ。送り出しても三巳は必ず帰ってくるのだから」


 三巳を上から見下ろし微笑みながら言うのはクロです。

 今回は三巳だけでなくクロも一緒にお出掛けです。と言う事は勿論もれなく母獣もいます。


 『本来生物は我等神族が居らぬとも生活出来る。過保護も過ぎれば毒になりよう。気軽に出掛けられるならば良い傾向であろうな』


 母獣はクロを背中に乗せて三巳の隣をのっしのっしと歩いています。

 三巳も母獣も歩いてはいますが、その時速は高速道路を爆走する車並です。三巳はオーウェンギルド長に言われた事を守り、足元の生き物達に配慮しながら歩いていました。


 『うーにゅ。改めて足元に気を付けるともつれそうになるんだよ』

 『ほう。それは鍛え直した方が良さそうよのう』

 『!?だいじょぶなんだよ!ならないんだよ!』


 目を細めて冷たい空気を醸し出した母獣に、三巳は間髪入れずに前言を撤回しました。お陰で足元の気が抜けません。


 「嬉しいねぇ。こうして家族旅行に行ける日が来るなんて」


 母獣の背中を撫でながらほくほく笑顔のクロが言います。横に伸びるお髭も風に揺られて気持ち良さそうです。

 母獣も撫でられるのが気持ち良くて目を細めています。その目も口元も弧を描いていて穏やかな顔付きです。

 三巳は取り敢えず怖い事は去ったと感じ、見えない様に安堵の息を吐きました。


 『でもまさか母ちゃんがOKくれるとは思わなかったんだよ』

 『別段否やを言う事でもなかろう。我とて水辺は好む所よ』

 「水浴びをする愛しいひともとても魅力的だよ」

 『クロはほんに我の心を掴んで離さぬのう』


 隙あらばイチャイチャモードに入る両親に、何時もはチベットスナギツネの顔をする三巳も今日は違います。


 『イチャイチャは後でー!三巳も一緒に家族旅行なんだよ!?』


 どうやらだだっ広い砂漠で一人ぽつねんとするのは寂しかったようです。プンプンと狼なホッペを器用に膨らませています。


 「ごめんね愛しい子。勿論三巳が水浴びをするのもとっても可愛いよ」


 大好きな父親に可愛いと言われて三巳は膨らませたホッペを萎ませました。そして照れて尻尾があらぬ方へ行ったり来たり揺れ動きます。


 『にゅ。水浴びは楽しいんだよ。今から行く所は海が広いから父ちゃんといっぱい泳ぐんだよ』

 「三巳と泳ぐのは魅力的な誘いだけれど私は深い所は苦手でねぇ」


 眉尻を下げて申し訳なさそうに言うクロに、三巳は


 (猫さんだからかな?)


 と思いました。お風呂は普通に入るのでたんに泳げないだけかもしれません。けれども無理強いは駄目だと思うので三巳は一緒に泳ぐのを諦めます。


 『浅瀬なら平気か?』

 「足が着くなら大丈夫だよ」

 『うにゅ!なら、水掛けっこしたり蟹探したりするんだよ!』


 別の遊びの誘いに今度こそクロは縦に頷いてくれました。


 『ほれ、言うてる間に着いたぞ』


 母獣が速度を落としながら言います。

 その視線の先を三巳もクロも見ればそこには視界に広がる広大なジャングルが見えました。

 三巳と母獣はジャングルの前で足を止めます。そして母獣はその場で伏せをしました。


 『お話してるとあっという間なんだよ』

 「ふふふ。それも旅の醍醐味だねぇ」


 クロは母獣から降りながら言います。

 そして三巳は人型に、母獣はハスキー犬程の大きさになりました。


 「レオにお手紙でお知らせしたら、母ちゃんも父ちゃんも入って良いよって言ってくれたんだよ」


 そうです。三巳達は今グランに向かっているのです。

 三巳は結局グランへ行く事を捨てられませんでした。そして家族旅行も捨てられていません。どっちも取ったのです。


 「良いお友達を持ったね三巳。お友達は大事にしないとね。お友達は」


 クロがとても穏やかに笑って言っています。

 三巳は嬉しそうに尻尾を振っていますが、その横で母獣は何とも言えない顔をしていました。友達を強調しているのがバレバレです。


 「そいじゃレオとグランで遊んで、カカオ買って」


 三巳が旅行計画を指折りしながら言っていきます。


 「その後私の故郷へ向かおうね」


 三巳の言葉の続きを、クロがニコリと笑い三巳の頭を撫でながら言いました。


 『全く我等が娘はほんに欲張りよの』


 苦笑を漏らして母獣が言えば、三巳は心外なという顔をします。唇を尖らせてアヒルのようになっています。


 「全部出来るならやらない選択肢は無いんだよ!」

 『ふむ、まあどのみち海を渡るのだ。少々遠回りであろうとも大差はそうあるまい』


 意地悪気な笑みを浮かべてクツクツと喉を鳴らす母獣は、実は初めから寄れる事をわかっていました。ただ三巳に選択をさせる為に敢えて選択肢を分けていたのです。

 けれども三巳も一応これでも多分ちゃんと社会人していた経験者です。下調べをちゃんとしたら寄れる事に気付いたのです。

 クロの故郷は海を越えた先にある別の大陸にあるのでした。

つまり必ず海を渡らねばなりません。

 なら海にあるグランから普通に行けるのです。しかも荒野と砂漠とジャングルがある為人通りが少なく安全に行けたりもします。

 リファラ方向へ行くと近道にはなりますが人里が多いので少し面倒です。

 三巳は「急がば回れ」「急いては事を仕損じる」等と両親を説得し、大義名分を大々的に掲げてグランへ来る事が出来たのでした。


 (ものは言いようよのう)


 そして勿論そんな思惑も母獣にはバレバレなのでした。

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