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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
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ワクワクドキドキの忍者屋敷

 忍者屋敷。それは魅惑の響き。

 忍者屋敷。それは飽くなき探究心。

 忍者屋敷。それは一度は夢見る理想郷。


 三巳は今、はち切れんばかりに尻尾を振りまくっています。

 三巳の耳も、忙しなくピクピク動いています。

 三巳の瞳は穢れを知らない無垢な少年の様にキラキラと光り輝いています。


 三巳は今、自らの設計がいかに貧相で面白みに欠けていたかを身を以って体験していました。


 「やばいぞ。楽しいぞ。面白いぞ。くそーコッチはどーなってんだ!?」

 「待ってー三巳~」


 三巳は二股に分かれた通路を熱心に見比べています。

 その後ろから三巳の飽くなき探究心の速さに付いてこれないリリが、息を切らして追ってきます。


 「むむー。さっきは登ってたのにいつのまにか地下にいたしな。

 今度こそ休憩室にたどり着くぞー」


 そうです。

 三巳とリリが今居る温泉施設は三巳の設計以上に複雑怪奇な作りになっていたのです。

 とは言っても忍者屋敷に興味ない人の為の真っ直ぐ通路もあるのですが、勿論そんな通路なんて目もくれずに忍者屋敷通路を突き進んで来たのです。

 それに付き合っていたリリも当初は一緒に楽しんでいたのですが、余りの複雑怪奇さに体力の方が先に根を上げてしまったのでした。


 「お。ココにリタイアドアが有ったぞー。

 リリ先行ってるかー?」


 心配そうにリリに訊ねる三巳でしたが、耳と尻尾は寂しそうにしゅーんと垂れています。


 「!ううん、大丈夫。一緒に行くわ」


 モフモフキューンに内心悶えながら、気丈に答えるリリでした。しかし息は明らかに上がっています。


 「そーだよなー。

 元気でもまだ病み上がりだもんなー。

 じゃーも少しゆっくり行こー」


 そう言われて手を握られたリリは、余りの可愛さに頭を撫で撫でしました。


 「はにゃーん」


 途端に恍惚となる三巳です。


 「はうっ。

 いかんいかん、危うく我を忘れるとこだったぞ」


 しかし現状を思い出して、最大限のなけなしの自制心を働かせてそっとその手から逃れました。


 「ああ、残念。もう少し撫でたかった」

 「そゆのは帰ってからなっ」


 顔を茹だらせて、三巳はリリの手を繋いだまま左の通路に向かいました。


 「あれ?行き止まりだね」


 左の通路を真っ直ぐ進むと何も無いどん詰まりに行き当たってしまいました。

 リリは戻ろうとしました。三巳が動かないので戻れませんでした。


 「いや待て、この辺に……」


 三巳は頻りに壁をペタペタ触ります。


 「三巳?」


 リリは不思議に思って首を傾げました。


 「お、ここだな」


 三巳がそう言って壁の一角を押すとあら不思議。

 何の変哲も無い壁が下がりました。

 代わりに迫り上がる壁もあって、結局壁はクルリと回転したのでした。


 「わあ、今の何かしら」

 「どんでん返しだなー」


 リリは不思議そうに目を輝かせ、三巳は「実は日本人の生まれ変わりでも居るんじゃ無いのか」と感心しています。


 「お、休憩室じゃ無いけどここも面白いぞー」


 もう一度壁を押して今度は潜ってその先に進みました。

 するとそこは小さな秘密基地となっていました。


 「わー。これ、もしかして間取り図かしら」

 「おー、それに設計図もある」


 壁一面に貼られた図面に、机には模型まであります。

 ペンなども置いてあり、まるで今までココで作業をしていたかの様です。


 「でもなー」

 「そうね、折角だから最後まで自分の力で辿り着きたいわ」

 「にひひ。そゆことー。

 良かったーリリも同じ気持ちで」


 顔を見合わせて楽しそうに笑った後、図面を見ずに部屋にあった扉から先へと進みました。


 「おおっ、外は庭園なのかー」

 「屋根一面が窓になってる」

 「温室だなー。これは庭師の趣味だなー」


 秘密基地部屋の先は小さな庭園になっていて、扉の前には背の高い草木が生い茂っています。


 「ここ通れそうじゃないかな?」


 リリが微妙に隙間のある草をより分けてその先を確認します。


 「どれどれー」


 三巳も後ろからピョッコリ覗きました。


 「おー行ける行けるー行ってみよー」


 言うが早いか三巳は草の根掻き分けてズンズン先へと進みました。

 リリは迷わない様に三巳の尻尾を掴んで付いていきます。

 お風呂上がりのふわもふはとても気持ちが良いです。

 リリがほっこりしている間に草の壁は終わって南国のお花畑に出ました。


 「ふわ~色とりどりで可愛い~」

 「そーだなー。

 でも時折臭い匂いのとかもあるから気をつけて行こー」


 そう言って三巳はラフレシアを指したり食中植物を指して、避けながら花畑を横断しました。


 「むむー通路に出たはいいけど」

 「そうね。どの道行く?」


 通路は一本ですが、だからこそ選んだ方によっては入り口に戻ってしまう可能性があります。

 三巳とリリは慎重に相談していますが、なかなか答えがでません。


 「こういう時はあれだな」

 「あれ?」

 「困った時の神頼み」


 首を傾げるリリに、神である三巳がドヤ顔で神頼みを提案しました。

 三巳が神だと知らないリリは、普通に納得しました。


 「それでどうするの?ここで祈るの?」

 「ふっふっふー。これを使うのさ」


 お祈りのポーズで仰ぐリリに、三巳はいつの間にか手にしていた木の棒を「テッテレー」と掲げました。

 余計に判らなくなったリリでしたが、三巳が棒を立てて指で押さえるので更に意味が判らなくなりました。


 「どちらに行くのかなーっと」


 三巳が指を離すと、少しの間その場でグラグラと立っていた棒ですが、次第に揺らぎは大きくなりました。

 そしてパタリと倒れました。


 「こうやって倒れた方が神の思し召しってやつさー」


 倒れた棒を拾って倒れた方を指しました。


 「?まったく関係ない方を指していたらどうするの?」

 「そゆ時は指している方に近い道を行くか、わからなければもう一度やればいいんだよ」

 「成程」


 こうして三巳とリリは棒の示した方の通路を進みました。

 少し進むと通路は直角に曲がって、すぐに扉がありました。

 ガラスの扉なので中が良く見えます。


 「はは。着いたなー」

 「凄い。棒頼みって当たるのね」


 ヘラりと笑う三巳とは対照的に、真面目に感心したリリでした。

 そんなリリに三巳は(いやー前世じゃ割と外ればっか引いてたけどなー)と乾いた笑いをしていました。



 休憩室でミックスジュースを飲んでまったりした後、三巳とリリはもう一度温泉に浸かりに行きました。


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