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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
259/372

雪山の生き物達は

 少し風に暖かさが混じり始めた春の季節への変わり目です。それでもやっぱり寒さの残る中、三巳は山を歩いていました。


 『うにゅ。今年は大きな雪崩れも無さそうで安心なんだよ』


 小さな獣神姿で雪道に肉球の跡を残して行きますが、ただ歩いている訳ではないのです。ちゃんと山の巡回中なのです。

 何時もより多めに毛並みをモフらせていて、一瞬毛鞠かな?と思いそうです。


 『やー随分と毛だらけやねぇ』


 そこへホーンラビットのウサやんがやって来ました。


 『だってこれならぬくぬくで寒く無いんだよ』


 三巳はむふーとドヤ顔で何時もより多く毛のモフリを見せました。良いねと言って欲しいと全身から溢れています。


 『それはえぇね』


 空気の読める系兎のウサやんは目を細め、鼻をヒクヒクさせながら三巳の欲しい言葉をくれます。

 大満足の三巳はニコーッと満面の笑みです。

 満足したらウサやんの周りが気になりました。どうやら1羽だけの様子です。


 『ウサやんの子供達はもう独り立ちしてるのかー』

 『せやねぇ。うっとこの種族は成獣化が早いけんねぇ。特に今年は兎の年やさかい、皆張り切りようて駆け回ってはるわ』


 子育てが終わって一息吐いた母親の顔に、今は母獣とクロと暮らしている三巳は複雑な心境です。何せ一応三巳は獣寄りの存在ですからね。


 (いやいや。独り立ちはしてたし。今は父ちゃん居るから一緒なだけだし。ほら、父ちゃん最近やっと会えたんだから親孝行しなきゃだし)


 何やら言い訳じみた事をツラツラ考えていますが、要は皆が居る今が幸せという事です。

 そこまで考えてふと思った事があります。


 『旦那さんは?』


 動物によっては毎回夫婦が変わる種族もいるでしょう。しかし三巳の知る限りでは山の生き物達は皆一途だったと記憶しています。


 『たまには1人になりたい時もあるんよ』


 つまり置いて来たらしいです。

 三巳は何処の種族も夫婦間に大した違いは無いんだなぁと感慨深く納得の頷きをしました。きっと今頃旦那さんは旦那さんで男同士の付き合いでもしている事でしょう。


 『ほいじゃぁねぇ』

 『うにゅ。何かあったら教えてな』


 自由を満喫しているウサやんとは別れ、巡回再開です。

 川まで来てはみましたがこの辺りは冬の静けさが際立っています。シンとした中に川のせせらぎが耳に心地良く感じます。

 三巳は冷たい川に顔を突っ込んで水底をキョロキョロ観察しました。すると一番深い溝の辺りに長いものがトグロを巻いているのを発見します。


 『うぶ。あばばぼぶぶべぼごぐば』


 水の中でブクブク空気を吐き出して喋る三巳は頷き頭を上げました。因みに「うにゅ。チロチロはお休み中なんだよ」と言っていました。

 頭を上げた三巳はブルブルと体を震わせて水気を飛ばし、尻尾収納からほかほかあんまんを取り出します。寒くなったから温み補充です。


 『うぬ。元気百倍になったんだよ♪』


 次に向かうのは山頂です。グルグルと山を周回しながら上へ上へと登って行けば、硫黄の匂いが直ぐに香って来ます。


 (やっぱし冬は殆どの子が冬眠してるから静かだなー)


 夏なら通りすがりに色んな子に声を掛けられるのに、今日は出会いが少なくて進みが早いのです。小鬼や中鬼、大鬼ですら見かけません。

 寒いと外に出る事も減るのだろうと三巳は頷き湯気の立つ地獄谷へやって来ました。ここならまだ少し寒さが和らぎます。


 「うにゅ。冬だと流石に少し寒いけど、ここなら人型でも平気なんだよ」


 間欠泉の辺りでポンと人型になった三巳は裸のまま歩き回りました。人目が無いので自由です。

 尻尾をフリフリさせながら探す先は勿論天然温泉です。冷えた体にざぶんと浸かりたいと、湯加減が良さそうな場所を物色です。

 するとそれは直ぐに見つかりました。

 何故なら……。


 「ぐが。定期巡回の日っすか」


 小鬼が声を掛けてきたからです。

 沢山の視線を受けて振り向けば、そこには大きな温泉溜まりに小鬼も中鬼も大鬼も仲良く浸かっていたのです。頭にはタオルを置いています。


 「コアっち。皆も。温泉日和か?」


 声を掛けてくれたのは赤みがかった緑色の肌で普段赤い色の腰巻を好んで使う小鬼です。なので小赤鬼のコアっちと呼んでいます。

 コアっちと呼ばれた小鬼は三巳の体を見て目を反らし、そして我が子の目を塞ぎました。他の鬼達も同様にしています。


 「ぐげ。そうだけど……ぐがー……三巳神様よ。せめて前隠し欲しいっす。小鬼型でないとはいえ、俺達と見た目似てるんすから」

 「にゅあ。すまん」


 すっぽんぽんで歩いていた三巳は言われて自分の状況を察しました。これでは変質者の様だと反省です。直ぐに尻尾で体を包みます。


 「そいじゃ三巳は女湯に行くんだよ」

 「ぐがが。そうして欲しいっす。女湯はあっちっすよ」

 「んにゅ。そいじゃーなー」


 そんな訳で三巳は指差された方へと歩いて行きます。そうすれば岩を挟んで反対側に大中小様々な鬼の女性達がゆったり温泉に浸かっています。


 「入ーれーてー」


 三巳が声を掛ければ一番近くにいた大鬼が場所を空けてくれました。


 「こちらへどうぞ」


 鋭利な歯を持つ大鬼ですが、ニコリと笑う姿はチャーミングです。

 三巳もニコリと返し、掛け湯をしてから有り難く隣に入りました。


 「ぬーくーいー。あー癒されるぅー」


 肩まで浸かれば自然と出る緩んだ声に、鬼達はクスリと笑みを漏らします。


 「ぐげげっ、冬は特に身に染みるわよね」

 「うぬ。皆の集落は今年の冬大丈夫そうか?」

 「がー。お陰様で皆元気に過ごしているわ」

 「そうね。こうして温泉を堪能出来るしね」

 「ご飯は足りてる?」

 「何とか春まで持ちそうよ」

 「それは一安心なんだよ」


 知り合いが集まり温泉に肩まで浸かっていれば会話も弾みます。世間話の様に近況を確認し、三巳もホッと息を吐きました。


 「うーにゅー。ごーくーらーくー」


 肩どころか緩み切った体は自然と湯船に沈んで行き、気付くと頭まですっぽり入ってしまっています。

 息がガボガボ言うので気付いた三巳は「はっ!」として慌てて顔を出しました。


 「すまんー。ついうたた寝しちゃったんだよ」

 「ぐっがっが!温泉は気持ち良いからね」

 「サラマンダーも火口で寝てる位だしねぇ。そりゃ気持ちも良いってもんさ」

 「うにゅ?そいえばいないと思ったら、そうかーサラちゃんトカゲっぽいもんな。冬は冬眠するのかな?」

 「いやいや精霊は冬眠しないだろうよ。夏でも良く寝てるしね」

 「そうなのかー。うにゅ。昼寝はとっても誘惑が強いんだよ」


 またもやコックリコックリ船を漕ぎ出した三巳に、隣の大鬼がズリ落ちて沈まない様に支えてあげるのでした。

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