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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
258/372

白熱の合戦

 子供達が学校の校庭に集まり楽しく遊んでいます。寒い寒い冬の最中でも元気いっぱいです。


 「くらえ!」

 「わーはっはっは!なんのこれしき!ヒョロ玉だぜ!」


 子供達は2つのグループを作り、そして雪玉を投げ合っています。

 そう。雪合戦です。雪国ならではの遊びですね。

 

 「これは避けられるかな!?」

 「ふん!そんなものこーだぜ!」

 「な!?何!?まさかそんな事が可能なのか!?」


 とっても楽しく微笑ましい光景。の筈ですが、山の民の雪合戦は少し毛色が違う様です。

 今の会話も、ディオのいる陣営が投げた雪玉を、ロハスのいる陣営が雪玉を当てて相殺したのです。とても良いタイミングとコントロールです。

 そんな光景をたまたま遊びに出ていた三巳が見つけて見学をしています。


 (地球のばっちゃの田舎でも良くしてたなー。あの時は近所の兄ちゃんが雪玉にケチャップ仕込んでしこたま怒られてたっけ)


 雪の中に仕込みを入れるのもままある光景でしょう。石を入れたら危険ですが、山位雪が積もるとそもそも石を掘り出すのに1日で出来るかどうかです。心配は無用というものでしょう。

 代わりに危ないものがあります。


 (氷を入れるのは流石に怒られるですまなかったけど、まあ皆なら平気……いや。でも今はディオ達がいるんだった。うーにゅ。どーしよ)


 三巳は考えて、考えて、考え疲れて考えるのを止めました。


 (ま、大丈夫だろ。危ない所だけ止めとこー)


 大義名分は「子供達の自主性を重んじる」です。

 三巳は何時もより目と耳と鼻を鋭敏に研ぎ澄ませました。これで寸で止められます。

 そんな三巳の心配を他所に子供達の雪合戦はヒートアップしていきます。


 「そっちがそう来るならこっちはこうよっ」


 ディオ陣営にいるミオラが沢山作った雪玉を浮かせました。そしてそれをロハス陣営に向かって放ちます。


 「その程度予測済みだぜ!」


 ロハスは陣営の真前に出ると目の前の雪を掻き集め、上へ上へと積んでいきます。そしてあっという間に雪の壁が出来あがりました。


 「ほーっほっほっ!こっちはそれさえ予測済みなのよ!」


 可愛らしく高笑いを上げて言うミオラの言葉通り、雪玉は壁なんてものともせず破壊してしまいました。


 「な!?何!?うわっ!わわっ!」


 油断していたロハスが寸での所で回避します。


 「くっ!流石ミオラだぜ!俺が惚れただけの事はある!」


 大量の雪玉を避けたり雪玉で相殺して、白熱した戦いに良い笑顔のロハスです。

 それにミオラもニッコリ笑みを深めて雪玉を更に増やしていきます。雪玉を作ってくれてるのはディオ陣営の子達です。


 「ふふっ、ありがと♪」


 ロハスにパチリとウィンク付きで投げキッスまでする余裕で雪玉を操っていきます。


 (おお!ロハスとミオラはロダと違って恋に強気だな!)


 遠くで観戦している三巳は白熱した雪合戦と堂々とした恋模様に胸熱です。尻尾も嬉し気にふいよふいよと振られています。


 「イチャつくなら後でやれ!ほら!ミオラ特大の雪玉だぜ!」


 人の恋路を邪魔する人は村にはいません。けれどTPOは守って貰いたいと、恋バナにワクテカする女の子達を見たディオが言いました。その手にはバスケットボール程の大きさの雪玉があります。


 「あら!素敵!いくわよロハス!」

 「おう!相手にとって不足は無い!どっからでも掛かってこい!全部受け止めてやる!」


 (いや、脆い雪玉は返ってアウトになり易いから止めとこうよ)


 ロハス陣営の子達はそう思いましたが目に闘魂を燃やしたロハスはやる気です。やれやれ仇は取ってやるからなと諦めました。

 因みに雪玉を見事にキャッチ出来ればセーフ。けれども受け取った瞬間に崩れて体に当たったらアウトです。これも戦略の一つです。いかに油断させて脆い雪玉を受け取らせるか、ミオラは全ての雪玉の状態を確認して計画を練りました。


 「いくよー!」

 「来い!」


 2人の掛け声を合図に大小様々な雪玉がロハスに一点集中で襲い掛かります。それを今度は避けずに両手で受け取る姿に、リファラから来た女の子達から黄色い声が上がりました。けれどもミオラの雪玉を相手にしているロハスにはその声が聞こえていません。


 「……てかこれ俺達何してりゃ良いんだ?」

 「あら、ボーっとしてないでミオラの後ろでせっせと雪玉作ってる人達退場させるのよ」


 ウッカリとデクの棒宜しくつったたままの男の子に、ロハス陣営にいたミナが可愛らしく不敵な微笑みを浮かべて言いました。その手には明らかに他より水分量の多い雪玉が握られています。そしてそれをディオ陣営にいるロッソに投げました。


 「わっ!?冷た!って、あーやられたー」


 見事2人の白熱した戦いに集中していたロッソに当たりました。解けた雪が喉元から背中を伝って背筋がブルブルしています。


 「くっ!しまったわ。ロハスに気をやり過ぎていたわ」


 ミオラが変わらずロハスから視線を逸らさず苦渋の顔をします。そうしている間にもロハス陣営からはミオラの後ろで雪玉作ってた子達に雪玉が次々当たっていきました。


 「ちっ!防御陣営を敷くぞ!攻撃の要を守れ!」


 ここで騎士学と防衛学を学んでいたディオが指揮を取り始めます。見事な采配に仲間から感嘆と称賛の声が上がりますが今はこの雪合戦に勝つのが先です。皆指示に従って動きました。

 前方に傘の様に広がる陣営は防御専門です。

 その直ぐ後ろ真ん中にミオラが、その左右後ろに雪玉作り隊が様々な種類の雪玉を作り、ミオラに追加を渡したりロハス陣営に投げたりし始めました。


 「おお、白熱した良い戦いだな」

 「んにゅ。これはお酒が進」

 「三巳はこっちね。まだまだその姿は子供みたいだものね」


 そして少し離れた所でいつの間にか集まった山の民達が飲み物やツマミを片手に観戦を楽しんでいたのでした。


 「う、うにゅ……。三巳、一応成神してるのに……」


 オレンジジュースを渡されて耳と尻尾がシオシオになる三巳がいますが、今日も山は平和です。



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