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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
257/372

オーウェンギルド長に怒られたんだよ

 レオにバレンタインなチョコを渡せてご満悦な三巳がいます。距離が東京からフィリピン位あるので山に帰って来たのは神速といえども夜ご飯ギリギリでした。

 ご満悦なまま、フレーメンな顔になるクロと面白がる母獣と夜を過ごした翌日の事です。三巳は朝も早くからオーウェンギルド長に呼ばれました。


 「おはよーオーウェンギルド長」


 仮のギルド出張所にやって来た三巳は、物珍しさからキョロキョロしながら挨拶をします。珍しくお呼ばれしたので嬉しくて尻尾をフリフリしています。

 けれどもその喜びはオーウェンギルド長の顔を見て止まりました。


 「よお獣神小娘。朝も早くからご機嫌じゃねぇか」


 テーブルに肘を付き、組んだ手に顎を乗せているオーウェンギルド長は笑みを浮かべています。

 しかしその目はまったくもってちっとも笑っていません。寧ろ怖いオーラが滲み出ています。


 「に゛。うにゅ。三巳は何だか用事があった気がするから帰るんだよ」


 怖さの波長がお説教モードの母獣と酷似しているのを毛という毛全てで感じ、三巳は冷や汗を流しつつ回れ右をしました。


 「おいおい。こっちの用事はすんじゃいねぇぞ。なぁ?小娘」


 オーウェンギルド長の言葉から神の名が省略されました。そこにそこはかとない怒りを感じます。

 三巳は尻尾をしおしおと垂れさせ、股下にクルンと潜らせてしまいます。耳も髪と同化する程ペショリと垂れ下がっています。


 「み、三巳。三巳は……」

 「まさか俺からの茶の誘いは受けられねぇとは言わねぇだろ?なぁ?優しい獣神様よ」


 オーウェンギルド長の言う通り、テーブルにはほうじ茶とお煎餅が乗っています。何方も三巳の好物です。

 三巳は本能と好物の間で戦いました。


 (オーウェンギルド長こあい気がするけど、気の所為なのかな?だって三巳の好きなの用意してくれたし。でも……)


 三巳はお煎餅を見て少し尻尾の包まりを緩めます。

 そしてオーウェンギルド長の顔をチラリと見て、


 (やっぱしこあい!)


 包まりを更に強めました。もうガッチガチです。


 「み、三巳……何かしたんだよ?」


 ピルピルと震えてちょっぴし涙目の三巳です。


 「ほお?やらかした自覚があると?」

 「ぴぎゃっ!」


 笑みは深まったのに言い知れぬ迫力が増したオーウェンギルド長に三巳は飛び上がってしまいました。

 全力で逃げたい思いと、逃げた方が後で酷い事になるという人生経験から、前で丸まる尻尾を抱き寄せその場から動けません。

 オーウェンギルド長はニッコリと目を細めて立ち上がりました。そして三巳の側に来るとそのまま三巳をテーブルまで連れて行きます。


 「あう……。あう……」


 涙目でオーウェンギルド長を見上げますがちっとも離してくれそうにありません。三巳は観念して目の前の椅子に座りました。


 「まあ、楽にして熱いうちに飲め。その間少し世間話をしようじゃないか」

 「……あい……」


 オーウェンギルド長は先程と同じ姿勢で座ると、三巳がお茶を飲んだのを確認して口を開きました。


 「つい昨日の話なんだがよ。面白い話を聞いてなぁ」

 「きのー……」


 昨日と言われると三巳は山を降りてレオとチョコ食べていました。山の話じゃ無いなら自分は関係無いかもと希望を持った三巳の顔は緩みます。そしてシオシオの尻尾と耳も浮上を開始しました。


 「どうも荒野や砂漠で突如災害級の突風が吹き荒れたらしい」


 ズバリと言ってくるオーウェンギルド長に、三巳は飲み掛けのお茶を吹き出し掛け、何とか我慢した故に鼻に逆流してしまいました。

 ツーンとした痛みにちょっぴし涙目です。そして尻尾も耳もブルブル小刻みに震えています。


 「幸いにも怪我人はいなかったんだがな。人もモンスターも動物も仲良く吹っ飛んで、何故だか討伐者と討伐対象が力を合わせてその危機的状況を脱する何とも涙ぐましい事態になったとか」


 ここで言う討伐者とは恐らくギルドや国家防衛に属する人の事でしょう。そして討伐対象とはそれらに脅威とされた生き物の事でしょう。

 三巳は仲良くなって良かったな。と言い出し辛い空気を読めました。ここでそれを言ったら自分が危機的状況になりそうだと本能が告げています。最早コップを持つ手も震えています。


 「その突風からは神気を感じてなぁ?それも獣神系の神気だったとか?お陰でその討伐対象を狩る事を神が激怒したともう上に下にてんやわんやの大騒ぎでよぉ。まさかのこんなど田舎にいる俺にまで深夜遅くに連絡が来たんだよ。深夜。寝静まった夜に。迷惑な話だよなぁ?そうは思わねぇか?夜帰りした獣神小娘」


 そこまで聞けば自分が何をしでかしたのか理解出来ました。オーウェンギルド長のよく見れば睡眠足りてないよねって顔に気付けば最早逃げる事は不可能と悟りました。


 「ごめんなさい」


 なので素直に土下座で謝罪をします。尻尾は股下に入り込み、耳も地に付かん勢いで垂れ下がっています。


 「はー……」


 ちゃんと反省している様子に、オーウェンギルド長は額を押さえて長い溜め息を吐きました。


 「まあ。お前達神族は本来俺達がとやかく言える存在じゃねぇのはわかっちゃいるがよ。神速を出すならせめて周囲に害が出ねえようにしてくれ」

 「あい。気を付けます」


 こうしてオーウェンギルド長のお説教により、三巳は今後風を起こさない走り方を一生懸命に学ぶのでした。

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