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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
245/372

一緒に来た人達

 太陽燦々降り注ぎ、山に細くて枝分かれした影を沢山作っています。

 空の上から見ると良くわかる冬の景色を堪能しつつ進み行く人影を追うのは元気溌剌な三巳です。

 昨日の教訓を生かし、一度家に帰ってクロに「ごめんなさい」をした後で今度はちゃんとお出掛けする旨を伝えてあります。

 珍しくクロにお説教をされていましたが、それが心配からだとわかるので嬉しさの方が気持ちが大きいです。

 結果、嬉しさから空中散歩をしながら嘴で上手に調子っ外れな歌を奏でています。

 一応今は鳥の姿なのに下手っぴな歌に、歌上手な鳥達が面白がって合唱で参加しているのが地上にいる生き物達に聞こえていました。


 「あいつは……隠す気が無いのか!?」


 ロウ村長についてしんがりを歩く人が頭を抱えて小さな声でごちています。

 その声を雰囲気ごと感じ取ったロウ村長が「かっかっかっ!」と突然笑い出したものだから、真ん中を歩く人達がビックリしてしまいました。


 「何かありましたか?」


 尋ねた人を振り返ったロウ村長はニカリと歯を見せて笑います。


 「山は矢張り楽しい!」


 答えになっている様な、なっていない様な。そんな返答に真ん中を歩く人はさらに疑問符を深めました。

 それにもロウ村長は「かっかっかっ!」と笑います。


 「慣れればわかる!」


 キッパリとした物言いに、真ん中を歩く人は追求する事を諦めます。きっと初心者にはわからない奥深さがあるのだろうと思う事にしました。

 しんがりを歩く人は苦笑を隠せません。バレない様に遠い目をしました。

 そうこうしているうちにも歩みは進みます。

 歩き易い道は山登り初心者にも疲労を軽減してくれています。それでも登り道は途中で休みを入れながら、下り道はゆっくりと歩幅を小さくして進みます。

 その様子を上から見ている三巳は『がんばれー』と応援の歌を奏でています。勿論一緒に飛ぶ鳥も一緒に合唱です。


 もっくんに守られた道は、お腹を空かせた生き物に襲われる事なくロウ村長達を村まで導いてくれました。

 三巳はもう輪廻の輪に入ったもっくんの魂に「ありがとう」と祈りを捧げます。

 下を見れば同じ様にロウ村長ももっくんにお礼をしているのがわかりました。


 村の入り口にはロウ村長の気配を感じた山の民達が集まっています。

 三巳は素知らぬ顔で通り過ぎ、さも家からやって来た風を装って入り口にいるリリの隣にやって来ました。


 「こんちわーリリ、ハンナ、ロダ」

 「今日は三巳」

 『おれも!おれもいるぞ!』


 リリがニコリと挨拶を返す足元でネルビーが飛び跳ねて自己主張をしました。

 三巳はそちらに目をやってニパリと笑います。


 「こんちわネルビー」

 『こんにちは!』


 挨拶をされてご機嫌になったネルビーが胸を逸らして尻尾をぶんぶか振ります。挨拶も堂々としていて、言葉がわかる人ならネルビーが犬である事を忘れてしまう所でしょう。

 リリはそんなネルビーの頭を撫でて微笑みます。

 リリに撫でられたネルビーは直ぐに相好を崩して舌を出して「へっへ」と喜び、なんなら立ち上がってリリの顔を舐めまくります。


 「あははっ!ネルビーくすぐったいわ!」


 それを甘んじて受けるリリも嬉しそうです。

 その様子をハンナやロダは勿論、見ていた山の民達も思わずクスリと笑みを漏らしています。

 そんな笑い声が絶えない村の入り口に帰って来たロウ村長も「がっはっは!」と大きく笑いました。


 「今帰った!皆元気に楽しそうで何よりだ!」


 仁王立ちで腕を組むロウ村長が一番溌剌としています。

 山の民達は直ぐに、


 「「「おかえり!」」」


 と声を合わせます。しかしその視線はスルリとロウ村長を抜けてその背後へ注がれました。

 それはそうでしょう。

 矢張りと言うか。案の定と言うか。期待を裏切らないと言うか。見知らぬ外の人達を何人も連れて来ていたのですから。

 しかもそれだけではありません。

 連れられて来た人達の中でも異彩を放つ存在がありました。

 山の民達の目はそこに釘付けとなってしまったのです。


 「ふ、ふぇ……んぎゃああ〜!!」


 そして視線を一点集中された存在はそれを受けて大泣きしてしまいます。

 小さな体で精一杯泣く姿に山の民達は目を見開きます。


 「元気だ」

 「いい泣き方だ」

 「八重歯が可愛い」

 「ままぁ、あの赤ちゃんツノ生えてるよ」

 「本当ねぇ。可愛いわね」


 そうです。皆が釘付けになっていたのはツノの生えた八重歯の可愛い赤ちゃんだったのです。

 けれども顔も体も人に見えます。しかし肌は少し鱗が見えて、お包みで見え辛いですがコウモリの羽も見えています。

 人の様な、モンスターの様な姿に山の民達は驚いていたのでした。


 『私はモンスターだが、この子と妻と共に住まわせて欲しい』


 驚きの中、赤ちゃんを抱っこしていた存在が口を開きました。

 喋ったのは本人の申告通りにモンスターです。

 二足歩行のトカゲに角とコウモリの羽が付いた姿はまごう事なきモンスターです。けれどもその言葉は不思議と何を言っているのかわかりました。


 「おや?言葉がわかるね」

 「本当だ。タウろんの言葉もまだ家族しかわからないのに」

 『人族である妻と子とその友人となるであろう者達の為、沢山練習した』

 「おやまあ!それは凄いね!私達に通じる様に念話を交えていたのかい!」

 「そうかいそうかい。リファラの事は聞いている。驚きはしたけどリリの故郷の人……いやモンスターか……なら大歓迎だよ」

 「この村にもミノタウロスのタウろんがいるんだ。是非とも仲良くしておくれね」


 タウろんでモンスターと暮らす事に慣れていた山の民達は、リファラ同様にモンスターの移住をすんなり受け入れました。

 気さくに肩を叩いたり赤ちゃんをあやしたりする姿にモンスターのお父さんは嬉しそうにトカゲの顔をニッコリさせます。


 「そう言えば肝心のタウろんはどうした?」

 「あの子なら囲炉裏から動けないでいるよ」


 疑問を口にした山の民に、タウろんの家のお婆ちゃんがクスリと微笑み言います。


 「ああ、寒いのは苦手だったな。いや、それなら君も苦手な種族じゃ無いのか?」

 『普段はもう洞窟に篭る。だが今は妻と子の為寒さに耐えうる特訓をした』


 モンスターのお父さんはエヘンと胸を張ります。

 その様子を隣にいた人間の奥さんがクスクスと笑います。その時の様子を思い出しているのでしょうか、愛おしい目でモンスターのお父さんを見つめると赤ちゃんを抱く腕に身を寄せました。

 それをモンスターのお父さんも愛おしい目で見てトカゲの尻尾を奥さんに巻きます。


 「こりゃ。お熱い事で」


 その熱に当てられた山の民達は冬だと言うのに体を仰いでしまいます。

 けれども恋人への熱ならロダも負けていません。


 「わかる。大好きな人の為なら頑張れるよね」

 「ロダ……!」


 頷くロダにリリが感極まって抱き付きます。


 「ああ。ここにも熱いのがいたな」


 誰かが言った言葉に快活な笑い声が村に響くのでした。


 因みに人とモンスターとの間に生まれた子は後に魔族の始祖となるのですが、それはまだ遠い遠い未来のお話です。

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