空の上から見てみよう♪
眼下を薄い雲が流れています。
三巳は今、三巳の山の空の上を飛んでいます。
大きく翼を広げ、上手に風を掴んだならば、スーッと気持ち良く滑空出来るのです。
『にゅおぉぉぉっ気っ持ちいー♪』
冷たい風もなんのその。今の三巳は無敵な気分でした。
三つの目は二つの目の時と見えてる物さえ違います。真ん中の目で遠赤外線カメラの様な、熱感知カメラの様な、そんなテレビの中でしか見た事の無い映像が直接見えていたのです。
『あっちはとっても冷たいっ、こっちはアッチッチだ!
あっあっ熊五郎だ!まだ冬眠してなかったのか?大丈夫かな。木の実足んなかったのかな?後で聞きに行こーっと。
おおっ周りの山って真上から見るとこんななんだー♪中国の絵っぽい山とかエベレストっぽい山とか昔話の絵っぽい山とか色々なんだよ』
大興奮で滑空していると、ふと眼下の山を歩く人影が見えました。
ロウ村長です。
ロウ村長の後ろにも人影が見えます。誰も彼もが三巳の知った顔だと目をパチクリさせて見下ろします。そこで三巳は思い出しました。
『ロウ村長探しに来たんだった!』
どうやらお空の散歩が楽し過ぎてすっかり忘れてしまっていた様です。
三巳は改めてロウ村長の様子を観察しました。
歩いている場所は出来立てホヤホヤの村までの一本道です。今はまだ結界の始まり部分を歩いているので、怖い人は入り口に戻される事でしょう。
三巳はあの人達なら大丈夫。と思いました。
しんがりを務めているのはリファラで尤も信頼している人です。そしてその人はきっとハンナを驚かせてくれます。
これはサプライズの方が良いと思った三巳は村に戻らずこのまま後をつける事にしました。
『真ん中のあの子が手紙にあった子かー。可愛いなー。抱っこさせてくれるかな?』
尖り嘴をパクパクさせて喋る三巳も、三つのお目々をキラキラさせて可愛らしいです。きっとリリがいたら即座に抱っこされる側だという自覚はありません。
三巳が真ん中の子に気を取られていると、ふと視線を感じました。
『にゅお。ロウ村長に気付かれたんだよ』
雲の上から見ている三巳とロウ村長の目がバッチシ合いました。
三巳は流石はロウ村長だとカラカラ笑います。
ロウ村長はニヤリと笑みを深めて視線を外しました。
その様子をしんがりを歩く人に気付かれて、その人も三巳の方へと視線を寄越します。
しかし丁度良く分厚い雲に隠れて三巳は見えませんでした。
しんがりを歩く人は片眉を上げてロウ村長に物言いたげな視線を寄越します。
ロウ村長はそれにもニヤリと笑って何やら話しました。
『にゅ?にゅ。遠過ぎて聞こえない……。獣の時と聞き方違うのか?上手く聞こえるの調整出来ないんだよ』
きっと三巳の事に違いないと確信している三巳は気になってしまいます。
徐々に徐々に高度は下がり、そして今度こそバッチシしんがりを歩く人と目が合ってしまいました。
しんがりを歩く人は呆れた顔でヤレヤレとジェスチャーをします。
三巳に良くわかるように大袈裟にされて、三巳はちょっぴし羽毛を赤くしました。嘴までピンク色です。
『にゅ。にゅにゅぅー……』
穴があったら入りたい三巳は、高度を上げて雲の中に隠れるのでした。そのまま雲の隙間から覗いて様子を見ます。
ロウ村長達はもう真っ直ぐ前を向いて歩いていました。
『この速度だと着くのは明日かなー。無理させらんないだろーしなー』
途中の山小屋ではまだ人の入る隙はあるかな?と思った三巳は先んじて前を飛んで行きます。
山小屋に着くと矢張り冬籠りの小動物やモンスター達が暖を取っていました。それでも大きな生き物は居ないので今の人数ならちょっと詰めれば大丈夫そうです。安堵した三巳はまた空へと飛ぼうとして、止めました。そしてクルンとその場で子狼の姿に早変わりします。
『まーぜーてー』
『『『いーよー』』』
お布団に包まる小動物達の間をモソモソ割って入ってスッポリ自分も包まれます。
小動物達はその動きに合わせて隙間を作り、三巳が小さく丸まるとそのぬくぬくの毛だまりに埋まります。
『ぬくぬく〜』
『ほかほか〜』
三巳の体温であったまる小動物達に吸い寄せられて、他のモンスター達も寄ってきておしくら饅頭をしています。
そうしているとふわふわポカポカぬくぬくでお目々がトロンと眠たくなってきました。
『にゅ。ぬぬ。ロウ村長が来るまで……来るまで……起き……zzz』
小屋の中でロウ村長達を見守ろうと思っていた三巳は、しかしふわふわのぬくぬくに負けてしっかりすっかり眠り込んでしまいました。
目が覚めたのは夜も遅くです。窓から入る月の光でやっと目が覚めた三巳は、
(やっちゃった!)
と顔を青くさせます。
(と、父ちゃんにお泊りするって言ってないのにっ!)
オロオロと目を彷徨わせる三巳でしたが、もそりと近付く気配を感じて視線を向けました。
視線の先にいたのはロウ村長です。
「クロには伝言を飛ばしている。安心して眠ると良い」
ポソリと耳元で囁かれた言葉に、三巳はホッと胸を撫で下ろします。安堵から少し涙目になっています。
『うぬ……ありがとなんだよ……』
ポソリと囁き返した三巳は安心感からまた眠りに落ちました。
その子狼の姿にロウ村長は、
(獣神なら娘の様子がわかっていそうだがな)
と苦笑を滲ませて思いましたが言わない事にしました。
(親の心子知らず。それで良いのだ。三巳はそのまま伸び伸び過ごしているのが我々にとっても和みなのだからな)
ロウ村長はピスピス鼻を鳴らせて眠る三巳の頭を一撫でして、自分も布団に包まり眠るのでした。




