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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
243/372

空の上から山を見たこと無かったんだよ

 村でも本格的に雪が積もる時期になりました。

 ロウ村長が出て行ってからもう数週間も経っています。そろそろ帰り道が心配になってきました。


 「ロウ村長だけなら問題無いけどねぇ」

 「んだな。ロウ村長だけならな」

 「流石に素人に雪の山道歩かせんのは無茶だろ」


 ロウ村長もわかってはいる筈なので、ここに来てまだ帰って来ない所をみると今回は連れて来ないかもしれないと思い始めました。


 「ま。冬越えを甘く見ちゃいかんし、それならそれで良いんじゃねえかな」

 「それもそうだな」


 ちょっと期待していたので来ないと思うとがっかりしてしまいます。

 山の民達は村の入り口を見て嘆息すると、其々の仕事に行くのでした。


 一方そんな様子を三巳は見ていました。


 (山の下はまだ積もってないし、道は日当たりが良いからまだわからんぞー)


 と、ロウ村長の破天荒を信じている三巳は思っています。

 村で一番大きな木の天辺でジッと村のある山を囲む山を見ています。村からだと篩の森は見えません。けれどもそこに続く道は三巳にはちゃんと見えていました。

 そこへもう寒いというのに鳥が数羽飛んできました。近くで見ると角が生え、しかも目は三つあります。モンスターの鳥です。


 「おはよーサンサン、サンヨ、サンロク」

 『おはよ三巳』


 名前を呼ばれた3羽の三つ目鳥は三巳の周りをゆっくり旋回して飛んでいます。三巳の頭と同じ位の大きさなので時折三巳の顔が隠れます。


 「どしたん?村の中入るなんて珍しい」

 『山の民の長、預かった』


 そう言った三つ目鳥ことサンサンは、鉤爪でしっかりと握っていた物を見える様に掲げました。

 小さな物を器用に持つ姿に三巳は目をパチクリさせます。


 「人族のお願い聞くなんて珍しいな」

 『雪崩、助けて貰った。俺、助ける』


 そういえばそんな日もあったなと思い出した三巳は、したり顔で頷きました。そして両掌を揃えて差し出すと、サンサンはその上に小さな物を置いてくれます。


 『渡した。行く』

 「うにゅ。ありがとー、ごくろーさまなんだよ」


 三巳は受け取った物を片手で握り、空いた手を振り三つ目鳥をお見送りします。

 3羽は天高くロケットの様に飛び上がり、あっという間に雲の中に消えて行きました。


 「空が澄んで来たなー。もうあんなに遠く高いのにまだ見えるや。うぬ……さて、と……」


 太陽の眩しさに目を眇め、視線を手元に戻します。

 貰った物は包み箱でした。中を開ければ入っているのは紙1枚です。

 無理矢理小さく畳んだ紙を解くのは少し大変です。暫く頑張って指をモゾモゾ動かして頑張った三巳ですが開く事は出来ませんでした。


 「ぬぅ……」


 悔しさに目が据わり、歯も剥き出しで食いしばってしまいます。お陰で可愛い犬歯が覗いていました。


 「別に、老眼じゃないもん。三巳まだ若いもん。無理に剥がすと破れそうだから力入れらんないだけだもん」


 歯軋りをしそうな勢いを何とか我慢しています。


 「にゅ。もーいーや。風でチョチョッとやっちゃえ」


 言うが早いか三巳は魔法でスルスルと紙を解きました。

 そうして広げられた1枚の紙に目を通します。


 「にゅお。おー。あー。そーかー。そーくるかー」


 下まで読み切ると、紙に向けていた目を空へと向けて遠くを見ました。

 数秒そのままの姿勢でいましたが、何かの琴線に触れたのでしょう。突然


 「ふひっ」


 と笑い声を漏らします。そしてそれを皮切りにお腹を抱えて笑い出しました。


 「にょはははっ!流石だロウ村長!にょわっ!?」


 笑い過ぎて木の天辺から落ちそうになり、慌てて木先に捕まります。


 「危ない危ない。ふはっ。んーにゅ。これは内緒で様子を見に行きたいんだよ。どーするかなー」


 考え込んだ三巳の目は空を向いています。空には雲が浮かんで流れています。結構な早さで流れる雲に、雨降るかなーとか思っていると、ふと先程の三つ目鳥が見えました。


 「あんなに高いと見晴らし良さそうなんだ、よ……」


 ふと溢した自分の言葉にふと気付きます。


 (三巳ってば鳥になれるんだった。孔雀は大きいし目立つけど三つ目鳥ならこの時期でも良く飛んでるし、イケるのでは?)


 考えながらワクワクして来た三巳は、ピョンと木から飛び降りて村から出て行きました。そして人目に付かない場所まで来るとニマニマした顔でパッと変身をします。


 『うにゅ。これならイケる!多分!』


 両の翼を前方に広げて今の自分を見て確信した三巳は、先程の三つ目鳥に習って空へと急上昇しました。

 あっという間に雲の上に辿り着いた三巳はさてロウを探そうと下を見て、そして止まりました。


 『……』


 ポカンとしたまま見下ろす先に広がる景色。それに心を打たれているのです。


 山頂に積もる白く輝く雪。

 逆茶碗型の真ん中の山の裾のを流れる川や滝。

 その周囲を囲むドーナツ型の山も起伏に富んでいて、北側程白い雪の帽子を被っています。

 季節によって様々な色の移り変わりを想像できるその景色。今は冬を越す動物やモンスター達が寝静まっている為、シンと冬の冷たい空気を強調させています。

 この山に来てウン百年。空の上から山の全容を確認したのは初めてだった事に今更気付いた三巳なのでした。


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