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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
238/372

完成したんだよ!

 初雪がチラリチラリと降り始めた頃、山の民は一番広い広場に集まっていました。

 山の民達の視線の先には台に乗ったロウ村長がいます。


 「皆、雪の中良く集まってくれた」


 ロウ村長は高い所から皆の顔を見渡して真面目な顔をしています。

 山の民達はいつになく真面目な顔のロウ村長にゴクリと固唾を飲みます。

 そしてそんな山の民達を三巳は母獣とクロとでロウ村長の後ろから見ていました。三巳は膨らませた尻尾を体に巻き付けて暖を取っていて、母獣も大きな尻尾でクロを包んでいます。


 「昨日、到頭外界へと繋がる道が完成した」


 一呼吸もったい付けた後で厳かに言われた言葉は、しかし底抜けに明るい山の民達の


 「「「わー!」」」

 

 という歓声に塗り潰されました。

 初めに外界との接触を不安がっていた姿は何処へやら。一面歓迎ムードの空気にロウ村長は大きく歯を見せてニカッと笑いました。


 「うむ!皆良く頑張った!」


 ロウ村長は誇らしく胸を張っています。

 山の民達は前に並んでいたリリとハンナとネルビーを見て一斉に取り囲みます。そして


 「「「そーれ!!」」」

 「きゃ!?」

 「まあ!」

 「きゃいん!?」


 胴上げをしました。

 急に持ち上げられて上に投げられては支えられを繰り返された2人と1匹は、ビックリして体を強ばらせます。


 「え!?何で僕まで!?」


 けれども何故か隣にいたロダまで胴上げされて、今度は笑いが込み上げてきました。


 「ふふっ、ふふふ!あははははっ!何かしらこれ!可笑しいわ!」


 投げられながら笑いが止まらなくなったリリに、ロダまで笑い出しました。


 「ははっ!胴上げなんて初めてされたかも!」


 そんな2人に優しい目を向けていたハンナも控え目な笑い声を漏らしています。


 「あらまあふふふっ」


 ネルビーは初めこそバランスが取れなくて尻尾を丸めていましたが、リリが笑い始めたら気持ちが落ち着いて来ます。意識をすればキチンとタイミングが取れるので、むしろ尻尾をはち切れんばかりに振って楽しんでいます。


 「きゃおおん!わおおん!ぐるぐるぅ!わふ!」


 ネルビーの語彙力が崩壊しています。

 そんな姿をハンナの近くにいたチミっ子メイドのミンミが大きな目を開けてジッと見ていました。チミっ子が近寄ると危ないので遠巻きにされてしまっています。


 「ハンナおねえちゃんかっこいー……」


 それでもハンナが良く見える位置にいるのでその勇姿にウットリしている様です。メイド服の裾を両手でキュッと握っている姿に近くにいた大人は、


 (え?どの辺が?)


 と思いました。

 けれどもチミっ子達と良く遊ぶ三巳にはわかっています。大きく2回頷き、


 「うぬ。ハンナはかっちょいーんだよ」


 と同意を示しました。

 ミンミからは離れているので三巳の同意はミンミ達には届いていません。というよりそもそも歓声が大きくて余程近くにいないと聞こえません。

 三巳の耳がとても良いのでミンミの声は聞こえているのでほぼ反射で同意しているのです。

 そしてとても良い耳の三巳は他の山の民達の声もキチンと聞こえていました。


 「良かったねぇ。これでリリもハンナも故郷の人達に会いやすくなったわ」

 「そうだな。俺さ、リリもハンナも良い人だから、リファラの民達に合うのが楽しみになってるんだよな」

 「わかるべ!2人と話してんと俺も行きたくなんべ!」

 「んだんだ!」

 『リリの友達なら怖くないモー』


 山の民達がどうしてこんなに喜んでくれているのか、それがわかる会話に三巳はニッコリと相好を崩します。本当は尻尾もはち切れんばかりに振りたいですが、場の空気を慮って堪えています。

 たって三巳の大きな尻尾を振ったら突風で胴上げされてるリリ達が落ちちゃうかもしれませんものね。


 「うぬ。食わず嫌いは勿体ないってやつだな」


 何だか違う気もしますが三巳はとても良い笑顔で納得するのでした。


 『一番の食わず嫌いは三巳だがのう』


 そして横でジト目を向けてくる母獣の言葉は三巳の耳を右から左へと突き抜けているのでした。

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