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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
236/372

山の父

 台風後の散乱した山の中。三巳は黙祷を捧げています。

 三巳の左右には小動物達が並んでチョコンと座って黙祷をしています。


 「ぬ……。魂が還っていくんだよ」


 三巳が天を仰いで言うと、小動物達は「チュゥチュゥ」「チィチィ」「ニォニォ」と様々な声で鳴いて天を仰ぎました。

 お別れが済むと三巳は目の前に横たわる巨木を見て腰に手を当てフスリと鼻息を漏らします。


 「じゃあもっ君の遺言通りに体は持って行くな」


 もっ君を頭の先から根っこの先まで見通し、気合を入れてもっ君に触れました。そして「よいしょ」と持ち上げるとブワリと限界まで膨らませた尻尾に寄せていきます。

 するとどうした事でしょう。もっ君は吸い寄せられる様にスルスルと三巳の尻尾に入っていきました。

 そう。三巳はもっ君の最後の言葉を叶えるべく、尻尾収納に一時保管をしているのです。


 「バイバイ。もっ君」


 もっ君を全て納めると慈しみを込めてそう言ってその場を後にしました。

 残った小動物達も巣穴の確認に帰って行きます。

 三巳は予定通り篩の森に向かいます。


 「概ね動物やモンスター達は無事みたいで安心なんだよ。被害は植物系のモンスターが一番大きいけど、もっ君以外は休めば元気に戻れそうだし」


 道すがらに被害状況を確認しますが、皆一様に元気があるので一安心です。

 途中途中で三巳の手が必要そうな生き物には力を貸しながら進みます。

 篩の森に辿り着くともう既にロウ村長がいました。


 「こんちわー」


 片手を上げて挨拶をすればロウ村長は振り返ってニカリと歯を見せ笑います。


 「今日は三巳。良い服を着ているな」

 「ぬっふっふー♪父ちゃんが作ってくれたんだよ」

 「ほう?という事はクロはあの谷の出身か」


 ロウ村長は三巳の服を観察して顎を摩り納得しました。


 「にゅ?知ってるのか?」


 三巳は首を傾げて訪ねます。


 「何度か尋ねた事がある程度だかな。何せ平和な谷で強者に出会えなかったのだ」


 三巳はクロのおっとり具合と夢で見た猫獣人達を思い出し、成る程そうかもしれないと頷きました。


 「それなら三巳には居心地良さそうなんだよ。

 それで、ロウ村長は村は良いのか?」

 「うむ。村はロダに一任してきた」

 「へえ?じゃあやっぱ次代はロダになるのか」

 「特に問題がなければその予定だな」

 「早く交代したくてウズウズしてないか?」

 「まあ、この仕事に誇りを持ってはいるが、矢張りワシは特攻隊の方が性に合っておる」


 カッカッカと大口を開けて笑うロウ村長に、三巳は然もありなんと頷きました。


 「三巳が来たのも道が気になったのか」

 「うぬ。大事な交流線だからな。それに途中でもっ君に遺言も貰ったし」

 「ぬ。心優しき樹木人か。この台風で?」


 山を気軽に駆け回るロウ村長は大抵のモンスターを把握していました。樹木人もその一体です。樹木人は木だけあってとても長生きで、若かりし日のロウ村長は三巳と共に世話になったと思い返します。


 「うぬ。小動物達を守って立派な最後だったんだよ」

 「そうか……。彼らしい最後だ」


 ロウ村長はツキリと痛む胸に手を当てて黙祷を捧げました。


 「三巳よ、彼の遺言とは何だろうか」

 「もっ君の体を使って道の整備に使って欲しいって。そしたらもっ君の加護でその道だけでも安全になるからって言ってた」

 「何と……何とも有難い。我等人族の為に……得難い存在を亡くしてしまい惜しいな」

 「動物もモンスターもリリが大好きで大切だからな。それに無茶ばかりするロウ村長も心配だって言ってたぞ」

 「彼は、真の森の父だな」


 ロウ村長は感動に胸を震わせ、もう一度お礼を込めて黙祷を捧げました。


 「彼の体を大切に扱わせて貰う。すまないが村で受け取らせてくれ」

 「わかったんだよ」


 伝えるべきは伝えた三巳はムフンと鼻息を漏らして気持ちを切り替えます。そもそもが道の被害状況を見に来ていたからです。


 「思いの外進んでたんだなー」

 「がっはっは!そうであろう!皆張り切っておるからな!」


 今三巳がいるのは篩の森の中腹過ぎです。真ん中の山を囲む山の頂上まであと少しです。そこから結界の外まで続いているであろう道が見えます。道は踏み固めた砂利で出来ています。


 「これ、外まで続くのか?」

 「いや、結界が作用した後の道からだな」


 ロウ村長達は森の動物達の協力の元、怖い生き物達が引き返される場所を特定したのです。

 篩の森の入り口から結界の作用点までは土を固めただけです。とはいえ草が生えず、歩き易さも損なわない土を固めています。


 「台風前に木も持ってたよな。何処で使うんだ?」

 「それは休憩場所を作るのだ」


 三巳はその言葉にリファラへの道すがらあった小屋を思い出しました。


 「ロダに聞いた?」

 「ああ、己が見聞した事を村の為に活かしてくれている。寧ろ若い頃冒険をしていたワシのたつ背がない位だわい。がっはっは!」


 ロウ村長は胸を反らして笑います。

 前世の知識を活かせていない三巳の耳が痛いですが、三巳も気にせず一緒に胸を反らしてがっはっはと笑いました。


 「うにゅ。ロダはやる時はやる男なんだよ」


 (美味しいのと楽しいのは三巳も広めてるしな!)


 三巳はそう思い自分を誉めるのでした。

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