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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
235/372

台風去りて

 くるんくるん。くるくるり。

 寒風が肌を撫で始めた季節に優雅に歩く三巳がいます。

 歩く動きに合わせて揺れるのはクロに作って貰ったオニューの服です。

 カンフー服をヨーロピアン風にアレンジした様な服で尻尾孔が空いています。膝上位の長さの上着の腰部分からは三巳の尻尾が生えています。

 服の揺らめきに呼応して三巳の尻尾がご機嫌に揺れています。


 「あら、とっても素敵な服ね」

 「ぬふふん♪ありがとーなんだよ。父ちゃんに作って貰ったんだ」

 「おや、クロの手作りかい?通りで変わった形だと思ったよ。でもクロもそういうの着てなかったよねえ」

 「うぬ。今迄は市販のを着てたらしい」

 「確かに村に来た時に着ていたのはリリのと似ていたな」


 ご機嫌尻尾に誘われて山の民達が集まってきました。

 三巳はクロが誉められてる様で嬉しくて胸を張っています。


 「私達のは華やかさを考えてはいないからね。他所の服は面白いわ」

 「だな。俺達は機能的であれば良い風潮があるからどうしても簡素になり易いんだよな」

 「ぬ?三巳は山の服も好きなんだよ。とても着やすくてゴロゴロしやすい」


 縁側で日向ぼっこが大好きな三巳にとっては山の民の服も大好きなようです。

 クロの国の服は猫の動きに合わせているのかとても動き易いです。

 けれども猫はお洒落好きなのか見た目もカラフルで可愛いです。クロには「元気良く遊んでいっぱい汚しておいで」と言われましたが、山の民の服に慣れきった三巳にはお出掛け用にしたい気分になります。


 「でもこれは刺激されちゃうわ」


 最近のお洒落な三巳を見て、山の民の1人がポツリと漏らしました。服屋を営む山の民です。


 「ぬ?ロココに火が着いたんだよ?」

 「んふふ、流石にね。これだけステキなの魅せられちゃうとね」


 ロココと呼ばれた山の民は、その始めの音が示す通り男の人です。けれども線が細く柔らかな動き、それに毎日お手入れを欠かさない肌艶が女性らしく見せています。


 「今日クロは空いているかしら。ああ、それにリリやハンナにも聞きたいわね」

 「父ちゃんならまだまだ作るって言ってお家に篭ってるんだよ」

 「あら、それなら今行くしかないわね」


 そう言ってロココは急がず慌てず優雅に三巳の家へと向かうのでした。

 それを見送った山の民達はソワソワしています。


 「こういうの着れる様になるのか?」

 「ロココはやると言ったらやる男だよ」

 「「「おぉぉぉ」」」


 どうやら外の世界に感化されてお洒落心が芽生えていた様です。

 山の民達は熱い視線でロココの背中を見送ります。


 「三巳目が疲れたのかな?何だかお姉ちゃんなロココの背中から漢のオーラが見えるんだよ」


 そして三巳は腕で目を擦るのでした。


 ロココの背中が見えなくなる前に山の民は解散しました。今日は台風後の後始末でそこそこ忙しいのです。

 三巳も山の巡回をしようと鼻をヒスヒスさせています。


「村は……にゅ。問題無しなんだよ。作り掛けの道は大丈夫かな?」


 大事な外との交流線です。三巳は台風でぐちゃぐちゃになっていたら大変だと篩の森へと向かいました。

 篩の森へ続く山は、強風に煽られて植物達が所々折れて倒れてしまっています。

 三巳は倒れた木をひょいひょいと飛び越えながら山を下って行きます。


 「うぬ。近年稀に見る被害状況なんだよ。神掛かった台風は凄まじいなー」


 ひょいひょい飛び越えながら言う三巳は、けれども痛ましい顔はしていません。


 「うぬ。大変だったけど皆元気。倒れちゃった子もまた元気に芽をだしてな」


 倒れ傷付いた植物達から上へ伸びようとする気持ちを感じているからです。

 根っこごと倒れてる木もありますがその子達からは次代の為にその身を活かそうという気持ちが溢れています。

 優しい植物達の気持ちを感じる三巳の尻尾もまた、優しくふわりふわりと揺れています。


 「にゅぬ?ぬぬぬ?およー?」


 そんな中で違う気持ちを持つ木がありました。

 そしてその木は動いていました。


 「もっ君大惨事!」


 三巳がその木に向かってそう叫ぶと、一足飛びに動く木の側に来ました。

 動く木にはまるで目と鼻と口がある様に見えます。いえ、見えるだけではありません。口と思しき所がモゴモゴと動き、中から「ォォォ……」と声とも風切り音とも取れない音が聞こえています。

 そう。木のモンスターです。樹木人という種族なので三巳はもっ君と呼んでいるのです。


 「もっ君ズタボロなんだよ!?」


 そしてもっ君は枝という枝は折れ、幹も大きく傷付き瀕死の重症でした。

 三巳はその巨木の下に小動物達が震えているのを見つけ、そうなった経緯を察します。


 「もっ君。皆を守ってくれてたんだな」

 「ォォォ……」


 三巳が優しく幹に触れて言うと、もっ君は誇らしげな、でも弱々しい音を出しました。


 「チュゥチュゥ」

 「チチチ」


 その今にも消え入りそうな音に、下にいた小動物達が一斉にもっ君にしがみついて泣いています。


 「ォォォ……」


 もっ君は小動物達を見て満足そうに微笑むと、真剣な眼差しで三巳を見ました。

 三巳は直ぐに何か大切な事を伝えたいんだと悟り、もっ君の声が良く聞こえるように口元へ寄りました。


 「ォォォ……」

 「うぬ」

 「ォォォ……」

 「うぬ。そうか、わかったんだよ。キチンとロウ村長に伝えるから安心して欲しい」


 もっ君は三巳の言葉に安心して安らかな眠りにつきました。

 小動物達を守る様に回されていた枝の腕がパタリと落ちます。

 すると小動物達はもっ君にしがみ付き、懸命に「ありがとう」と「おやすみ」を伝えるのでした。

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