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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
233/372

台風一過

 三巳の山では記録的大規模な台風が直撃中です。

 あまりの風の強さにしっかりと閉めた窓からガタガタギシギシ音が響きます。


 「にゅーん。三巳ってば暇を持て余してるんだよ」


 爆風の神が来てからもう随分と経ちましたが風が治まる気配がありません。

 三巳は外を見ながら耳はペタンと伏せて、尻尾も元気なく床を掃いていました。


 「三巳こっちへおいで」


 そんな三巳にクロが手招きをしています。手元には何やら箱と布があります。

 三巳は何だろうと思いながらも直ぐにクロの元へ行きました。


 「なぁに?父ちゃん」

 「採寸をしよう」


 尋ねた三巳にクロはニッコリ笑ってメジャーを取り出しました。

 三巳は直ぐに洋服作りの約束を思い出します。


 「新しい服!」

 「うん。とびっきり可愛いのを作ろうね」

 「やったー!」


 という訳で暇を持て余した獣神の服作りが始まりました。作るのは獣人のクロですが。


 「おやまあ、三巳はまた大きくなったねぇ。ほら、前はこれ位だったのにもうここまで大きくなっているよ」


 測りながらクロが誉めてくれるので三巳の尻尾は自然と上へ上へと上がっていきます。実際には殆ど変わっていませんが良いのです。三巳は褒められて伸びるタイプなんです。


 (実際に実体は大っきくなってるもんね)


 本当にビックリする位大きくなったので、今じゃ山の中ではそうそうと実寸大の実体には戻れません。


 「あ。父ちゃん父ちゃん」

 「何だい?私の愛しい三巳」

 「うにゅ。あのな、三巳な、実体の時にも父ちゃんが作ってくれたの身につけたいんだよ。何か作れる?」

 「おやまあ!何て嬉しい事を言うんだろうね!聞いたかい?愛しい人。三巳は本当に自慢の可愛い娘だねぇ」

 『うむ。我とクロとの子故そうであろうとも。

 勿論我にも作ってくれよう?愛しいクロ』

 「!あぁ嬉しいね!それじゃあ3人でお揃いを作ろう」

 『うむ。よしなに頼むぞ』

 「任せておくれ愛しい人」


 三巳はいきなり始まったイチャイチャに、チベット砂ギツネの目をしました。


 (夫婦仲が良いのは子供として嬉しいけど……。この年で家族とお揃いはちょっち恥ずかしいんだよ。

 ……父ちゃん嬉しそうだから言えんけど)


 そんなこんなで採寸したりデザインを考えたりしている内に外の音は少し静かになっていました。

 気付いた三巳が玄関を開けると空から晴れ間が見えています。けれども良く見ればそれは円形な晴れ間です。

 空に溶けた雨粒が太陽の光を反射して、三巳は眩しさに手で目の上を覆いました。


 「台風の目かな?」


 呟く三巳の隣に母獣がのそりと寄り、空を見上げる為に伏せました。


 『もうそんな時間か。なればそれそろ奴も来よう』

 「奴?」

 「やぁ久しんすなぁ」

 「ふにゃあ!?」


 三巳は母獣に振り向いた瞬間に背後から声が聞こえてビックリします。急に来過ぎて心の対応が遅れたのか、ビックリは体に現れてその場で大ジャンプです。


 『ほれ矢張り来おった』


 母獣がクツクツと喉を笑わせて言いました。毛という毛を逆立てた三巳が顔面に貼り付いたので面白かったのです。


 「おや可愛い毛玉でありんす。銀狼の子でありんすか?」


 三巳は毛を逆立てたまま、なんなら母獣に張り付いたまま振り向きました。

 そこには壮年の男性がおっとりと立っています。


 「いらっしゃいなんだよ……」


 三巳はそのままの姿勢で力無く言いました。耳の毛先が赤らんでいます。ビックリし過ぎたのが恥ずかしかったようです。


 「突然ごめんなさいねぇ。挨拶が済んだら直ぐに出てくでありんす」

 「え?折角来たのにもう行っちゃうのか?」


 おっとりした人にすまなそうに言われると悪い事をしている気分になってしまいます。

 三巳は母獣からソロソロと降りると壮年の男性の前に来ました。


 「あい、ごめんなさいよ。わっち等は其れが信条故、疾く去らねばならぬでありんす」

 「???」


 壮年の男性はおっとりしながら言いますが、ふとした気の流れで空を気にしているのがわかります。


 「あいやこれは失礼でありんしたなぁ。わっちは芯の神でありんす。それじゃあお暇しやさんす」


 壮年の男性こと芯の神は名乗ると同時に出て行きました。

 その見た目からは想像が出来ない程のあまりの素早さに、三巳は


 「え?あっ!」


 (またかこのパターン!)


 と思いつつも3度目なので流石に慣れてきました。

 慌てて空を見上げると、芯の神は天高く青空の中心にいるのが見えました。


 「三巳は三巳なんだよ!母ちゃんと父ちゃんの子供なんだよー!!」


 直ぐに手をメガホンにして、空にいる芯の神に聞こえるように大きな声で自己紹介をしました。

 芯の神にバッチシ聞こえたのでしょう。和かに手を振ってくれています。でもその姿も早い流れで去りつつありました。

 自己紹介が出来た事に満足した三巳は母獣を見ました。


 「母ちゃん。三巳は何だかわかったんだよ」

 『ほぉ?』


 ニコニコしながら言えば、母獣も面白そうに犬歯を剥き出しにしてニヤリと笑います。


 「これで終わりじゃ無い。また激しい人()が来るんでしょ」

 『クックック。その通りよ。アレらは忙しないが、偶に良い仕事をしよる。三巳に良い社会()勉強となったわ』


 三巳は扉を閉めようかどうしようか悩みました。何故ならまた誰かが直ぐに来そうな気がしたからです。


 『次に来るは雨風の酷さがぶり返した後。今は閉めておくが良かろう』

 「うぬ。そうするんだよ」


 扉が閉まればまた家族団欒のひと時です。

 三巳はクロの側で小さな獣の姿になりました。


 『この姿に合うの作れそう?』

 「勿論だとも可愛い三巳。どうしようね、スカーフにしようか、リボンにしようか」

 『我はクロに包まれるのが良い』

 「いつも私ばかり包まれているものね。嬉しいけれど良いのかい?動き難くはならないかい?」

 『ぬ……。それは……。ん、んん。そうさの。人型用ので包むのを作ってくれ』

 「ふふふ。任せておくれ愛しい人」


 こうして三巳と母獣はまた一段と激しくなった風と雨粒の音をBGMに、クロの手縫の服作りを見て楽しんでいました。

 そんな中で三巳がピクンと片耳を上げました。

 そしてシュバッと素早く立ち上がるとトタタタと軽く駆け足で玄関に向かいます。


 「いらっしゃいなんだよ!三巳は母ちゃんと父ちゃんの子供の三巳なんだよ!」


 そして玄関扉を開けると同時に自己紹介をしました。


 「ほう。元気な子でありんすな、銀狼の子よ。わっちは熱気の神でありんす。どうやら内の者達がお邪魔をした様じゃが許せよ。わっちらは其れが」

 「信条だからだな!」

 「む。うむ。その通りでありんす」

 「三巳こそ大したお持て成しも出来ませんでなんだよ。ゆっくりお話ししたくなったら今度は三巳から会いに行くな」

 「おや。常に発生しては移動を繰り返すわっち等を見つけてくれやんすか。銀狼よ、面白い子を持ったでありんすな」

 『愛しいクロとの子だ。そうであろうとも。尤も、熱気のの長女と双子に比べればまだまだ緩いがの』

 「内の子も良い育ちをしてくれたでありんす」


 母神同士の突如始まった井戸端ならぬ玄関端会議は、


 「では行くでありんす」

 

 直ぐに終わりました。

 気付いた時には熱気の神は空高く風に煽られつつ、威風堂々と立って先を見通しています。

 そんな姿を見上げて手を振り見送る三巳は楽し気です。

 大分遠くへ見えなくなるとその反対側の空から満点の星空が広がってきます。

 リーンリーンと雨が去ったよと鳴く虫の声を聞いて、三巳は母獣を見て言いました。


 「とっても賑やかな台風一家だったんだよ!」


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