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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
229/372

山の夏

 ミーンミンとセミが鳴く夏がやってきました。

 連日続く夏空に、子共達が元気に走り回っています。


 「夏だなー」


 池のある公園では足を水につけて寝転がる三巳がいました。


 「これで夏とは、なんて山は涼しいのでしょう」


 その隣では今日の授業を終えたハンナが立っています。

 侍女として制服を汚すのは御法度だと座ることを固辞したのです。


 「うみゅ。南の国は春なのにもっと暑かったんだよ」


 常夏の国に比べれば山の夏など暑くもなんともないと、三巳は股下から覗かせた尻尾を振っています。半ば池に浸かっていた尻尾は振るたびに水を撥ねさせ涼やかな印象を更に強めてくれています。


 「ふふふ。それはさぞ大変だったでしょう」

 「うにゅ。三巳の尻尾はもっさりしてるからなー。熱が籠もりやすくて大変だったんだよ」

 「三巳様は自然を大切にしておりますからね。耐えられる内は魔法も使わなかったのでしょう」

 「うぬ。ギリギリだった」


 ギリギリ耐えた三巳は暑さに対する耐性が出来ていたので、今年の山の夏は涼しく過ごせそうだと、のほほんとした顔をしています。

 池の周りでは子供達が水を掛け合って涼を取っているのが見えます。

 ハンナは元気な子供達にニコリと優しく微笑みを向けました。


 「山の夏は遊び場が多くて宜しゅうございます」

 「まーなー。虫取りも川遊びも楽しいし、スイカ割りも醍醐味だ」

 「スイカ割りとはなんでしょうか?」

 「うぬ?ハンナはやった事なかったかー」


 三巳は寝転がったまま不思議そうな顔のハンナを見上げ、そして何かを思いつきました。


 「にゅふー♪じゃー明日は川遊びしよー♪そーと決まればリリも誘いに行くんだよ」


 ニマニマーッと笑うと楽しそうにそう言ってシュバッと立ち上がり、ハンナが何か言う間も無くタッタカ駆けて行ってしまいました。

 ポツンと取り残されたハンナは直ぐに追い掛けます。そして三巳の後ろを付き従う様について行きました。


 診療所に辿り着くとリリがミナミ達と楽しくお喋りしていました。


 「リリー!」


 そこへ突撃して輪の中に入って行きます。


 「今日は三巳。ふふふ、三巳はいつでも元気ね」


 勢いそのままの三巳を受け止め抱き締めて、リリはニッコリ微笑みます。そのまま三巳の耳の裏をこしょこしょ撫でてあげれば三巳の尻尾が元気良く振っています。


 「うぬ。それが三巳だからなっ。それよか明日川遊びするからお誘いに来たんだよ」

 「まあ!私達も丁度川遊びの話をしていたのよ。日にちは決めていなかったのだけど……」


 そう言ってリリはミナミ達を見回します。

 その視線を受けたミナミはニコッと笑って頷いてくれました。


 「誘われたなら吉日よ。勿論行きましょ」

 「そうね。明日も良い天気になりそうだし、良いんじゃないかしら」


 同意の声が一つ上がる度に三巳の尻尾は元気に振られて、行こうと決まった時には高速で動くメトロノームの様にはちきれていました。


 「やったー!そしたらデッカいスイカ確保して行くんだよ!そうと決まれば今の内にお願いしてくるー!」

 「スイカ割りなら的は小さい方が楽しくない?」


 三巳が両手を高く掲げて走り出すと、後ろからミナミに言われました。


 「でもこの人数だと足りないんじゃないかしら」

 「ダイジョブダイジョブ。

 三巳ー!持てるだけ貰って来てー!」


 リリの疑問にミナミは軽く笑って言い、そしてもう大分離れていた三巳に聞こえるように大きな声で伝えます。

 勿論良く聞こえる三巳の耳はちゃんと聞こえます。


 「おー!任せろー!」


 振り向き大きく片腕を上げて快く請け負い、更に速度を上げて走って行きました。楽しさはワクワクを加速させてそれが行動に反映されているのです。


 上機嫌の三巳はあっという間にスイカ畑へやって来ました。

 畑ではタウろんが実のチェックを入念にやっています。


 「こんちわー。タウろんよく働くなー。何処の畑でも見ない日は無いんじゃないか?」

 『こんにちわモー。草育てるの楽しいモー。良いスイカが出来ると皆喜ぶモー』

 「うにゅ。夏にスイカは欠かせないんだよ。

って事で明日川遊びでスイカ割り女子会するから小玉が数個欲しいんだよ」

 『わかったモー』


 タウろんは三巳から参加人数を聞いて、食べきれるだけの量に目印のリボンを巻いていきました。リボンを巻かれたスイカは丁度明日食べ頃になっていそうな物ばかりです。中にはもう食べ頃の物もあります。

 このスイカ畑はタウろんがお手伝いではなく、一から自分で育てているのです。だからどのスイカがいつ頃実になって、いつ頃食べ頃になるかを把握しているのです。


 「凄いなー。もう独り立ちしてるんだもんなー」

 『ありがとうモー。でもお手伝いももっとしたいモー』

 「おー。何だかとっても耳が痛いお話なんだよ……」


 働くのが嫌では無いですが、出来れば縁側で一日中ボーッとしていたい三巳は耳を両手で塞いで遠くを見つめるのでした。

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