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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
227/372

チミッ子メイドが行く!

 シトシトシトシト。小雨が降り注ぐ山の中、傘を差したチミっ子女の子が歩いています。

 女の子は時折空を見上げ、そしてフワリと広がる黒いスカートの上に掛かる真っ白なフリル付きエプロンを摘みました。

 メイド服に身を包んだミンミです。


 「もらったばっかなのによごれちゃう……」


 ミンミは口を尖らせて不平不満タラタラです。

 こんな日は家の中にいたいのですが、残念ながらハンナに見習いのお仕事を任されているので出来ません。

 ミンミは「メイド道は天気なんてへいちゃらにならなければいけません」と教えてくれたハンナを思い出しました。


 「ん、ん、ん」


 首をプルプル振って頬もペチペチ叩きました。


 「がんばるんだもん」


 ムフンと鼻息を漏らすとポケットからメモを取り出しました。

 ミンミはまだまだわからない文字が多い程のチミっ子ですが、その辺は抜かりありません。ハンナはミンミがわかる文字だけお使いを頼んでいるのです。


 「んと、もも。5」


 メモにはそれしか書いてありません。小さなお手々のミンミには沢山は持てないからです。それでも桃を5個は多いと思いますが、そこは修行の一貫です。どうやって持ち帰るか考える事と筋力と体力を付ける一石二鳥の授業です。

 とはいえミンミはチミっ子なので保護者の目が欲しいです。

 という訳でミンミの近くには何故か不自然に茶トラの猫が歩いていました。


 「にゃー」


 (うっしっしー。よしよしミンミは気付いてないんだよ)


 猫に変身して神気を消した三巳です。

 初めてのお買い物をする某番組を思い出して名乗りを上げたのです。


 「にゃー」


 (隠しカメラが無いのがたまにきずー)


 細い尻尾を上げて歩いていて猫の振りは完璧です。


 『あっ、危な』

 「に、にゃー」


 (危なかった!危うく言葉にするところだったんだよっ)


 小石に蹴躓いて転びそうになったミンミに思わず声を上げてしまいました。

 途中で止めて猫の振りで誤魔化しましたがミンミは声を聞いてしまった様です。何とか踏みとどまった姿勢で顔を上げてキョロキョロしています。


 「みみねーちゃー?」


 ミンミは呼んでみましたが返事がありません。

 三巳は体を丸めて前脚で口をガードしているからです。


 (まだ、大丈夫!多分!の筈!)


 某番組ではバレたら駄目なのです。

 三巳もバレない様に必死です。


 「???」


 ミンミは首を傾げました。確かに三巳の声を聞いた気がするからです。けれども返事をしてくれないので気の所為だと歩みを戻します。その顔は未だに腑に落ちない顔ですが、今は大事なお仕事中なので我慢です。


 「しーとしーとむーしむーしあーめざーざー。ミンミーはおーつかい……ちがった!ミンミはおしごとーめいどさんー。うふ。うふふミンミめいどさんー♪」


 右手で傘をクルクル。左手で買い物籠をブンブンさせて歌っていればご機嫌さんが今日はをします。ミンミはニコニコニコーッとお口の笑みを深くして果物屋さんへ向かいました。


 「こんにちはー」

 「おやミンミ今日は。お使いかい?」

 「ちゃーよ!ミンミめいどさん!おしごとよ!」

 「おや!偉いねえもう働いているのかい?大したもんだ」


 果物屋のおばちゃんに褒められてミンミは誇らしい気持ちで胸を張りました。


 「んふふふふー。ミンミえらいー?はなまるー?」

 「ああ、ああ花丸さね。それも特大花丸だよ」

 「とくだい!すごい!ミンミすごいー!やったー!」


 水溜まりも何のその、ピョンコピョンコと飛び跳ね喜ぶ姿におばさんも物陰でこっそり見ていた三巳もほっこりします。


 「それじゃあメイドのミンミさん。今日は何が欲しいんだい?」

 「あい!ももいつつ!」


 ミンミは手をパーにして答えます。ちゃんと5個がわかっています。


 「はい。桃五つね。交換品は持っているかい?」

 「う?こーかんひん……ミンミ持ってない……」

 「おや?お母さんに渡されなかったかい?」

 「んーん。おかーさんちがうよ。ミンミはハンナおねーちゃんからおしごともらったのー。ミンミめいどだからね。ハンナおねーちゃんのいち……いち……えーと……あ!いちばんでしなの!」

 「おや!本当に働いていたのかい。こりゃおったまげた。ハンナんとこなら診療所扱いだね。交換品は無くて大丈夫だよ」


 おばさんはミンミから籠を受け取り中に桃を5個入れてあげました。それを手渡してから手を離す前にミンミの目を見ます。


 「重たいけど持っていけるかい?」

 「がんばる!ミンミはなまるだからね!」

 「そうかいそれじゃ手を離すからしっかり持っといで」

 「うん!っ!らい、じょーぶぅ」


 強気な顔でキリッとさせたミンミでしたが、いざおばさんに手を離されるとヨタタとよろめきました。何とか踏ん張って強気の顔は維持していますが小さなお手々が震えています。

 おばさんも三巳もハラハラして見守りますが、ミンミは足を広げてバランスを取りながら診療所へ向かいます。

 ヨタヨタヨタタ。フラッ。ットット。タン。


 「せーふー」


 一度止まってバランスを立て直したらまた進みます。

 ヨタヨタヨタタ。

 今度は上手くバランスを取っています。ジリジリと亀のペースで進むその後ろを三巳がハラハラさせながらついて行きます。


 「にゃー。にゃ!?にゃにゃ!にゃふー……」

 (その調子っ。その調子っ。あっあっ、ふー。今のは危なかったなー。見てるだけって大変なんだよ)


 三巳猫は細い尻尾をピンと真上に立てて歩いたり、ブワッと膨らましたり、忙しなくピシピシ叩く様に動かしたりと大忙しです。

 そんな三巳の心配を他所にミンミは何とか診療所まで戻って来れました。


 「ただいまー」

 「おかえりなさいミンミ。任務は達成しましたか?」

 「うん!あ、はい!ももいつつもらってきたました!」


 メイドたる者言葉遣いも気を付けねばなりません。まだまだ慣れずにつかえたり間違えたりはご愛嬌です。

 ハンナはミンミから籠を受け取り確認して頷きました。


 「はい。よく出来ました。花丸です」

 「あー!はなまるー!やったー!」

 「では次はもっと上手に出来る様になりましょうね。メイドたる者単純作業程普通の人で終わってはなりませんよ」

 「うんはい!」


 ミンミはよくわかっていませんが、今よりもっと凄くなれるという事はわかりました。イケてるメイドさんな自分を想像して二へ~ッと笑います。

 ハンナはわかっていました。ミンミのメイド服が泥で汚れている事も、桃が雨に濡れている事もです。わかっていてそれでもそれを指摘しません。何事も段階を踏んでじっくり学んでいければいいと思っているのです。


 「にゃはー」


 その一部始終を見守っていた三巳も肩の荷が降りて軒先で丸まり休むのでした。

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