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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
221/372

寂しくて、離れ難くて

 三巳は目的の物を手に入れました。

 手に入れたので皆の所へ帰る時間です。

 グランで仲良くなった人達とお別れし、今はジャングルをライオーガ姿のレオと進んでいます。

 三巳も折角のパウが汚れる事を厭い、レオとサイズを合わせた獣神姿で隣にいます。


 『ラオ君、ジャングルって楽しいな♪』

 『そうかい。そりゃ良かった』


 人型の時より大きい体はまた違った雰囲気を感じて自然と尻尾が揺れています。あまりに楽しくてじゃれたくなる三巳ですが、今は葉っぱに埋もれているので出来そうにありません。


 『来た時と景色が違うんだよ』

 『あの時は迷子だったろう。こっちは正規の最短ルートだ』


 最短ルートという事はあっという間にジャングルを抜けてしまうという事です。

 三巳は寂しさにしゅんと耳と尻尾が垂れてしまいました。


 『ラオ君……三巳と一緒に来て欲しいんだよ』


 レオと離れ離れになりたくなくて、自分から山への移住をおねだりしてみます。


 『獣神自らに招待されるとはな。こりゃ有難い事なんだろうが、すまねえな。俺はここを護りてえから離れらんねぇんだ』


 なんとなくそうかなと思っていた三巳は、直接そう言われてやっぱりなと思います。思いますし、諦めなきゃなんだとも思うのですが、理性と感情がバラバラになってしまった様です。素直にわかったと言えませんでした。

 低く『うー』と唸る三巳を見て、レオは一つ嘆息すると頭を擦り合わせて耳元の毛を舐めてあやします。


 『別に今生の別れじゃねえんだ。いつでも遊びに来りゃいいさ』

 『うん。ラオ君も、山に遊びに来て欲しいんだよ』

 『ああ。そんときゃ山を案内してくれよな』

 『うぬ!任せるんだよ!』


 紹介したい友達や場所が多い三巳は、何処から行こうか予定を立てるだけで寂しい気持ちが少し薄れました。それでもやっぱり離れ難い気持ちは無くなりません。


 『お手紙書いたら読んでくれる?』


 三巳は少しでも繋がりが欲しくて頭をグリグリ仕返しながら言いました。レオが文字を読める事はグランで分かっています。


 『へえ、俺宛の手紙なんて初めてだな。それじゃあ俺も書こうか』

 『ふわーっ、ホント!?ホントに書いてくれる!?』

 『おっと』


 興奮してのっしとレオに前脚を乗せてくる三巳を難なく受け止めるレオです。戯れて甘噛みをしてくる甘ったれ具合に苦笑が禁じえません。


 『ほら、三巳は大人の女なんだろ。シャキッとしとけ』


 軽く前脚で降ろされた三巳は、今回ばかりは大人でありたくないと思いました。


 (もう少しラオ君と触れてたいんだよ)


 指をキュキュッと握って我慢しますが、その目は未練が丸わかりです。


 『それより。その手紙の宛名、何て書く気だ?まさかラオと書かないよな』


 三巳の未練なんてお見通しのレオは意地悪な顔でニヤリと笑います。

 三巳はそれにうぐっと喉を詰まらせました。


 『俺の名前、教えたよな』

 『う、うぬ』

 『じゃあ言ってみな』

 『うなっ、な、あ、うー』


 クツクツと笑いを噛み殺して何処までも挑発する様な眼差しに、三巳は尻尾をクルンと股下に潜らせ耳を垂らしてしまいます。白い毛並みを赤くして戦慄かせますが、レオは言うのを待つ姿勢を崩してくれません。


 『れ、レオ』


 意を決して名前を呼びましたが、直後に言い知れぬ羞恥がブワワッと全身を駆け抜けて心の中で遠吠えが如くに雄叫びを上げました。

 恥かし悶える三巳に、呼ばれたレオも自分で言っときながら照れてしまいました。


 『宛名はキチンと書いてくれよ』

 『うあい』


 両前脚で顔を覆って震える三巳の姿にフッと温かい笑みを向けて前を見据えます。話しながらいつの間にかジャングルは抜けていました。目の前に広がる砂漠のその果てに、未だ見ぬ世界を思い目を細めます。


 (長い事此処に居たが、たまには世界を回ってみんのもまあ、悪かねえな)


 遠く思いを馳せるレオのたてがみを風が撫でて行きます。まるで一緒に行こうよと誘っている様です。

 そんなレオの姿に三巳はさっきまでモジモジしてたのも忘れて見惚れました。


 『やっぱしラオ君かっちょいーんだよ』


 言葉に出すつもりがなかったその思いは、あまりに素直にレオの胸に入り込んで虚をつかれました。細めていた目を見開き三巳に振り返れば、ジッと見つめられている事に気付きます。その目は何処までも強く真っ直ぐで、三巳の自由奔放で元気いっぱいな心が映しだされています。


 『またな』


 柔らかく目を細め笑うレオは、近い内に会いに行こうと決めるのでした。

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